2024.06.27
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立場の認識

前回は、6年生の実践を紹介させていただきました。これまで学年順にきましたので、今回もその流れで3年生に戻ります。3年生はほとんど経験がないのですが、今回もクラスをおかりして実践させてもらいました。
単元は3年生では定番の「販売の仕事」ということでスーパーマーケットの学習です。社会科初年度の3年生にとっては、子どもに身近で見学もしやすく、「工夫」という概念が実感的に理解しやすい学習だと思います。

大阪市立野田小学校 教頭 石元 周作

教材研究の面白さ

スーパーマーケットの学習は、先行実践の蓄積が膨大にありますし、私の実践もいたって普通であり、改めて紹介するのも気がひけるのですが、今回お伝えしたいことの一つが教材研究の面白さです。      

お店の事情や学校事情により、取材や見学をさせていただくお店は教師の願い通りというわけにはいかないかもしれません。しかし、どんなお店にもお客さんのためのわかりやすい工夫があります。というか、すべてがそこにつながっているといっても過言ではないかもしれません。そのために、そのお店の特徴や独自の工夫を取材の際に探すのが楽しいのです。

例えば、今回教材化させていただいたスーパーは、実演販売があったり、生産者の写真が大きく掲示されていたり、ご当地ラーメンコーナーやワインなどもかなりの種類がおかれていました。授業ですべてを取り上げるわけではないですが、お店の方の立場で店内や店外を見ること自体が面白いのではないでしょうか。たまに深読みしすぎて、お店の方に「そんなことは意識していません」などと言われることがありますが(笑)、子どもの見学の目線でお店を見ることは実はかなり楽しいのではないでしょうか。

今回の学習は教科書の流れを参考にし、以下のような指導計画としました。時数と問いで示します。

第1時 スーパーマーケットはたくさんのお客さんが来てくれるようにどんな工夫をしているのだろうか(学習問題)
第2時 売り場ではどんな工夫があるのだろう①
第3時 売り場ではどんな工夫があるのだろう②
第4時 売り場以外ではどんな工夫があるのだろう
第5時 働いている人はどんな工夫をしているのだろう
第6時 いろいろな商品はどこから仕入れているのだろう
第7時 お客さんはどんなことに気をつけて買い物をしているのだろう
第8時 学習問題に対する自分なりの考えは何だろう

販売者の立場から

第2・3時に、売り場でのお店の工夫を考える学習を行いました。売り場での工夫は、子どもも興味・関心が持ちやすく、考えるのが楽しい学習です。今回はコロナ禍で見学ができなかったときの実践ですので、私が撮影してきた写真をもとに、なぜ工夫なのかを考える学習にしました。取り上げたのは以下の4つです。

 ①お刺身に貼ってある「○○円引き」のシール
 ②牛乳とトマト。どちらも多くの種類のものが陳列されている
 ③商品の場所を示す看板
   ④生産者を撮影した大きな写真

先生 :この写真を見てください。
子ども:牛乳売り場や。よく買ってきてといっていくわ。

先生 :そうです。牛乳売り場の様子ですが、見てどう思いますか。
子ども:たくさんある。
子ども:いろいろな牛乳がおいてある。

先生 :たしかにいろいろな牛乳がおいてありますね。これと同じような場所を見つけたのですが……。
子ども:トマト!
子ども:トマトもいっぱいある。
子ども:種類が多い。

先生 :そうですね。たくさんありますね……。でもこんなにいっぱい牛乳とかトマトとかいりますか?
子ども:絶対にいるかどうかはわからないけど、いろいろな種類があるとお客さんの好みに合わせることができます。
子ども:買いたいものや必要なものを自分で選ぶことができます。

先生 :ああ、そういうことですか。
子ども:自分で選ぶものがあると選ぶ楽しさがあります。

先生 :へえー。面白いですね。
子ども:いつも買うものもすぐわかるし、たくさんあっても大丈夫です。

このようなやり取りをしながら販売側の意図を考えていきます。考えることが難しい子どもも一つずつやっていくことで次第に「販売者の立場に立つ」ことができるようになっていきます。

消費者の立場から

第7時では、お客さんがどんなことに気をつけて買い物をしているのかを学習しました。予想をもとに主に教科書の資料を活用し、「安く買いたい」「安全なもの買いたい」「買う量を考える」「消費期限を見る」という事実を共有しました。子どもは一旦消費者の立場に立っています。その上で、以下のようなやりとりを行います。

先生 :これまで学習してきたお店の工夫とつながることはありますか?
子ども:「安く買いたい」というのは、売り場の工夫であった割引のシールになっています。
子ども:割引シールだけでなく、割引きしている商品はいつもあります。広告にもいっぱいのっていました。
子ども:「安全なものを買いたい」というのは、野菜や魚をとっている人の写真がかざっていることもそうだと思います。つくっている人がちゃんとわかっていますよ、という。

先生 :つくっている人のことをなんて言うんでしたかね。
子ども:生産者!

先生 :そうですね。
子ども:魚や肉もきちんと冷やして温度チェックもしていました。冷蔵庫にも冷やして、あたたかくならないようにしていました。

先生 :学習したことをよく覚えていますね。
子ども:「買う量を考える」というのは、家族の人数とか考えて、それに合わせて買うことだから、お店もたくさんの種類を用意して、カットフルーツのような少ない人数のやつも売っていました。
子ども:消費期限を見るのは「安全なものを買いたい」という気持ちなので、お店の安全なものを売ることにつながると思います。

お店の工夫を一旦思い出すことで、思考が消費者の立場から販売者の立場に転換します。販売者の工夫は消費者のニーズに応えていることや消費者も工夫しながら買い物をしていることにも気づきやすくなります。わざわざこの1時間を学習しなくても消費者の立場で考えることができる子もいると思いますが、今回は丁寧にやったほうが良いと判断して実践しました。ごくごく普通の実践ですが、3年生から多くの立場を意識していくことは重要であると考えています。

石元 周作(いしもと しゅうさく)

大阪市立野田小学校 教頭


ファシリテーションを生かした学級づくりと社会科教育に力を入れて実践してきました。
最近は、書籍からの学びをどう生かせるかや組織開発に興味があります。
統一性がない感じですが、子どもの成長のために日々精進したいと考えています。

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