2024.12.27
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〇年生らしさ

小学校は6年間という長いスパンです。1年生と6年生を比べるとものすごい成長があることが実感できます。
それだけの違いがあるからこそ、学習内容や学習方法も各学年、発達段階にふさわしいものが必要ですし、それが適切なのかという議論にもなるのだと思います。
しかし、最近その「〇年生らしさ」というものを再考せざるを得ないことがありました。

大阪市立野田小学校 教頭 石元 周作

救急車の有料化について考える

11月に自分の勤務校で3年生の研究授業がありました。勤務校は、珍しく研究教科が「生活科・社会科」であり、単元は地域の安全を守る働きを学習する「消防」のところでした。
授業者の先生は、初めて社会科で研究授業をやるのですが、「子どもひとりひとりが根拠をもって自分の意見をもつようになってほしい」というめざす子ども像を目標とし、かなり教材研究をされていました。

消防署の見学のために消防署に打ち合わせに行かせてもらったときに、消防署の方と対話をし、現状として以下のことを知りました。

・火事の出動は本当に少なくなっている。これまでの啓発と耐火住宅などの普及もあるだろう。火事の原因として放火が一番多い。

・反対に救急車の出動は増えている。その理由としては、呼ぶ必要のないことで救急車を呼んだり(病院に連れていってほしい、話を聞いてほしい、タクシー代わりに呼ぶなど)、軽症で呼んだりするなどがある。

・救急車の出動が増える中、本当に運ぶ必要がある重症な方を助けるためにも、100円でもお金をとれば、必要のない出動が減るのではないかという議論が実際に起こっている。

・「空き家が壊れそうだからどうにかしてほしい」といった空き家の問題でも消防署に依頼がある。私有地の問題もあるし、消防が出動することなのか。

「消防」の単元のメインは消火活動やその協力体制です。火災についてもちろん学習をしますが、現状として救急の問題が大きくあるので、取り上げることにしました。授業者の先生は、社会科の内容としてもチャレンジしたいと、「救急車を有料化すべきかすべきでないか」という社会問題を扱う授業を構想しました。

3年生の学習としてどうか

授業の導入は、大阪市の火災件数の推移を提示し、年々減少していることを確認します。その後、大阪市の救急車出動件数を提示すると急激に伸びていることがすぐに分かり、子どもに疑問が醸成されます。子どもは「え?」「なんで?」というつぶやきが出てきてなかなか良い反応です。そして、消防署の方が登場し、救急車の出動件数が増えて困っていること、軽症や必要のない要請が多いことを子どもたちに知らせます。その解決策のひとつとして救急車の有料化があることから「有料化すべきかすべきでないか」という二項対立の問いを考える展開にしました。

子どもたちの意見は見事に2つに分かれ、「有料化することで、タクシーがわりで簡単に119番にかける人が減る」「お金がない人が必要でもかけることができなくなる」などの意見が出る中、三重県松阪市の実際に有料化(1回の救急車要請で7700円)がはじまった事例を紹介し、市民がどう思っているのかのインタビュー動画を見ることで有料化に賛成する意見が増えました。授業者が「有料化することで消防署の方の困っていることは本当に解決できるのか」とゆさぶるのですが、「7700円は高すぎるから1000円くらいなら良い」といったお金の額についての議論になってしまうところがありました。

その後の協議会で出てきた意見で「3年生には難しすぎる」「3年生の学習としてどうか」というのがありました。「3年生で税金の概念もない中での議論はどうなのか」「3年生らしく素直に解決策を考えてもよいのではないか」という意見を聞きながら、真摯に受け止めつつ「やっぱり言われるな・・・」と思う自分もいました。

4年生の学習としてどうなのか

また、最近でも同じようなことがありました。4年生の「地域の発展に尽くした人」の学習では教材として「淀川の付け替え」を取り上げています。2年目の先生と一緒に授業をつくり、その先生が授業をしてくれました。

大橋房太郎という淀川付け替えのために東京に何度もお願いに行き、河川法を設立させた人物の業績を考える授業でした。授業のねらいは「房太郎がなぜ大阪ではなくわざわざ多大な時間をかけて東京まで行ってお願いをするのか」を考え、河川法によって改良工事のための予算と協力体制を勝ち取ったことを理解することでした。資料と説明の不足があったのは事実ですが、参観者の意見は「4年生でそこまでの理解が必要なのか」「房太郎の付け替えへの思いとその努力を共感的に理解するのが4年生の学習ではないのか」「4年生として難しすぎるのではないか」といったものでした。

社会科好きの私としては、共感的な理解と共に社会の仕組み(システム)を理解していくことが社会科だと思っているので、どうしても難しくしてしまっているのだと反省しつつ、学習指導要領に規定されすぎた意見ではないかと思う自分もいました。

発達段階から

川上(2024)は、『教師の流儀』という書籍の中で、認知バイアスの一つとして「〇年生らしさ」があると以下のように述べています。

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ひとりひとりの子どもの実態は多様であり、簡単に「学年」だけで割り切れるものではありません。であるにもかかわらず、私たち教師は、自身の過去や、これまでの指導経験、出会ってきた子どもたちが「〇年生ならこのような姿」というステレオタイプを設定してしまうところがあります。(p.160)
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また、 IQ(知能指数)の限界も了解しつつ、IQをもとに年齢に換算してみると、たとえば1年生(6才)では発達段階として4才から8才の子どもたちであり、4年生になると発達段階として7才から13才までの子どもたちがいるということになるそうです。

授業の話とは少し次元の違う話かもしれませんが、「〇年生らしい」とか「〇年生にはふさわしくない」ということが強調されすぎるのもどうかと思います。
自分で書いていて、どうも愚痴のようになってしまっているような気もしますが、「〇年生らしい学習」という良い面も自覚しつつ、発展的でチャレンジングな学習も目指していきたいと思います。

参考資料

石元 周作(いしもと しゅうさく)

大阪市立野田小学校 教頭


ファシリテーションを生かした学級づくりと社会科教育に力を入れて実践してきました。
最近は、書籍からの学びをどう生かせるかや組織開発に興味があります。
統一性がない感じですが、子どもの成長のために日々精進したいと考えています。

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