2024.05.01
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

(連載)家族支援@学校~エコロジカルシステムアプローチ(第十九回)

この連載では、保護者対応を家族支援と捉えなおし、カナダ/アメリカの家族支援の考え方を学校で活かす道を探ってきました。
この後は、第二十回を一区切りとし、この連載を終える予定です。
ラスト二回は、家族支援学で大切にされているコンセプトを丁寧に解説します。
今回は、エコロジカルシステムアプローチです。

東京都内公立学校教諭 林 真未

エコロジカルシステムアプローチって???

エコロジカルシステムアプローチ

エコロジカルシステムアプローチとは、アメリカの発達心理学者ブロンフェンブレンナーが提唱した理論です。
ブロンフェンブレンナーは、発達を、人とその環境との複雑な相互作用に着目して考えることを提案しました。
ここでいう「エコロジカル」とは、自然環境というより、人間とそれを取り巻くすべての環境、日本語では「生態学的」という翻訳が充てられています。
この中で、人を取り巻く環境は、人に近い順にマイクロシステム、メゾシステム、エクゾシステム、マクロシステム、そして少し趣の違うクロノシステムに分けられます。

この、レベルの違ういろいろなシステムの中で、人間の発達が進んでいくというアプローチで発達を理解するのが、エコロジカルシステムアプローチです。
私は、人のありようは、一般に信じられているよりもずっと、生まれ持った遺伝子に左右されると思っていますが、一方で、このエコロジカルシステムアプローチで整理された、人を取り巻く環境の影響も、発達を理解するために大切な概念だと思います。
これは、福祉の世界ではよく知られた理論ですが、「教育」を担う私たちにも、おさえておくべきものと思います。

マイクロシステム・メゾシステム・エクゾシステム・マクロシステム・クロノシステム

マイクロシステムは、家庭、学校、地域(近所)など、子どものいちばん身近にある環境と子どもとの相互作用のこと。
メゾシステムは、マイクロシステム同士の関係性と子どもとの相互作用。たとえば、家と学校の関係状況が、子どもの発達に影響するという考えです。
エクゾシステムは、子ども本人は直接関係していないが、身近な人が関わっている社会環境。親の職場、きょうだいの学校など。
マクロシステムは、子どもが生きている国、民族など、価値観を共有しているシステム。たとえば、住んでいる都道府県の地域性、日本の国民性や日本人的考え方。
エクゾシステム、マクロシステムも、間接的に子どもに作用しています。
クロノシステムは、上記とは少し違って、時間の流れのなかで本人に作用する出来事等のことです。
これらがそれぞれのレベルで、子どもに影響していると考えるのが、エコロジカルシステムアプローチです。

エコロジカルシステムと教員の影響力

私達教員に引き寄せて考えれば、私達がいるのは、マイクロシステムとメゾシステムにおいてだけであり、実は、子どもの周りには、教員の力の及ばないシステムが、他にもこれだけ存在するのがわかります。

実際の子どもの毎日は、ほぼ、家庭と学校の二つに覆われているイメージがあるので、それらの影響力が絶大であるようなイメージをつい持ってしまいがちです。
けれど、子どもの発達には、エクゾ、マクロ、クロノの社会システムも大いに関連しているのです。
(加えて、繰り返しになりますが、私は子ども本人がもつ遺伝子の働きも、一般的にイメージされているよりもずっと色濃く影響すると考えています。)

家族支援は、この、エコロジカルシステムアプローチを前提に、子ども家庭支援を行います。
教員、学校としても、子どもを複層的に覆うエコロジカルシステムを理解することは、有意義ではないかと思います。
このシステムを俯瞰的に把握しつつ、一方で、自分たちが、子どもにとって「一番身近なシステム=マイクロシステム/メゾシステム」であることもちゃんとわかっておきたい。そう考えます。

エコロジカルシステムアプローチを詳しく説明しようとすると、たいへんな文字数になってしまうので、この辺で終わります。
詳しく知りたい方は、ネット上に溢れる解説や関連書籍をご覧ください。
但し、日本に輸入される際に、多少歪んで理解されている可能性もあるので、批判的な目を持ちながら、広範な文献をチェックしてくださいね。

林 真未(はやし まみ)

東京都内公立学校教諭
カナダライアソン大学認定ファミリーライフエデュケーター(家族支援職)
特定非営利活動法人手をつなご(子育て支援NPO)理事


家族(子育て)支援者と小学校教員をしています。両方の世界を知る身として、家族は学校を、学校は家族を、もっと理解しあえたらいい、と日々痛感しています。
著書『困ったらここへおいでよ。日常生活支援サポートハウスの奇跡』(東京シューレ出版)
『子どものやる気をどんどん引き出す!低学年担任のためのマジックフレーズ』(明治図書出版)
ブログ「家族支援と子育て支援」:https://flejapan.com/

同じテーマの執筆者
関連記事

ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

pagetop