2023.06.10
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

(連載)家族支援@学校~とにかく「効果的」であることを求めて~(第十五回)

この連載では、保護者対応を家族支援と捉えなおし、カナダ/アメリカの家族支援の考え方を学校で活かす道を探ってきました。そして、いろいろ考え書いていくうちに、そこで学んだ理論が、保護者との関わりの場面だけでなく、子どもとかかわる場面でも広く応用できると気づきました。そこで、家族支援のキーワード解説をして、それを保護者関連だけでなく、学校現場の様々な場面で活用する方法を考えていきます。今回は「effective(効果的であること)」についてです。

東京都内公立学校教諭 林 真未

♪話すは言うに舌

私が学んだカナダ/アメリカの家族支援が「Strength based approach(強みに注目するやり方)」を奨励するのは、それが新しいスタイルだからというよりも、それがより「効果的」だからという理由に尽きます。
この発想は、学校現場でも大いに取り入れるといいのではないかと思っています。
つまり、目的があって、それに向かうとき、いつもあらゆる効果的な方法を模索し続ける、という発想です。
たとえば、漢字を覚えるのは、繰り返し書くのが定番ですが、もし子どもそれぞれにそれ以上に有効な方法があれば、そこも、柔軟に考えていい。
求められる結果は、漢字が正しく頭の中に覚えられていて、それを読み書きできること。書かなくても覚えられるなら、繰り返し書く苦行を必ずしも必要ないし、それが効果的なら、どんどん繰り返し書けばいい。
識字障害が邪魔をするなら、なにかしらの合理的配慮を用いたらいい。
別の方法が合っているなら、それを試してみてもいい。
今流行りの言い方で言うなら、個別最適化っていうやつですかね。
先生が考えなくても、子どもやご家庭が、それぞれに合った方法を提案、実践してくれることもあります。
漢字の練習帳をアイパッドで写真にとり、拡大することでお子さんの識字の困難を克服する方法を提案してくださったご家庭もありました。
歩きながら部首を口ずさんで覚えるという子も知っています。
たとえば、という漢字なら、
「♪話すは言うに舌、♪話すは言うに舌」
と言いながら登下校するそうです。
とにかくいちばん大事なのは、それが目的の達成に「効果的」であることなのです。

「効果的」は、まず知ることから

上記の例を保護者支援に照らし合わせれば、前回(家族支援@学校第十四回~ありのままをわかるところから始める~)の記事でお伝えした、「まず保護者のありようを知り、それに即して一番効果的なアプローチを選ぶ」という考え方も、よりおわかりいただけるのではないかと思います。
クラスの子どもたちと同じように、保護者の理解力も子育て力も、実は様々。それなのに、まるですべての子どもに漢字を繰り返し書くことを求めるように、「保護者」というひとくくりで、すべての保護者に「保護者がすべきこと」を一律に求めてはいませんか。
こんなことを言うと、「保護者まで個別最適化を求められたら、ますますブラックな働き方になってしまう」という悲鳴が聞こえてきそうですが、逆なんです。
保護者の状況を考慮に入れず、「保護者がすべきこと」を一律に求めてしまうから、トラブルに発展するリスクがあるんじゃないかと思うのです。
なにかあったら、まず聴くこと。
保護者の考えや状況を知ること。
子ども同様、このコミュニケーションをするだけで解決策が見えてくることもあります。
学校の常識では「信じられない」と思えるような保護者の行動も、率直に状況を尋ねると、「ああ、そうだったのか」と思えることは多いです。
逆に、ご家庭のほうで「学校なんてきっとこう」と思い込んでいたり、「どうせわかってもらえない」とあきらめていたり、ということもあると思います。

保護者の立ち話も職員室の会話も、両方たっぷり経験したからこそ、声を大にして言いたいです。どちらにも、悪い人やとんでもない人はいません。ただ、見えている世界や考え方や前提が大きく違うだけ。
どうか「きっと、こう」って思いこまずに、まずは聞いてみて。

常識や慣習を超えて「効果的」を選ぶ。

ほとんどの子が、繰り返し書くことで漢字を覚えるのと同じように、保護者の場合も、多くは、しっかりコミュニケーションをとった上で「保護者がすべきこと」を伝えれば大丈夫。ちゃんと分かり合えます。
けれど、
場合によっては「保護者がすべきこと」を可能な範囲で限定的にやってもらう、あるいは、それを求めないという選択肢が必要かもしれません。
まれではありますが、専門職や専門機関でなければ対応できない状況を抱えている方もいます。
いずれにしても、学校教育の目的は「子どもの善い育ち」。
保護者の矯正ではありません。だから、一律に考えるより、それぞれの保護者にふさわしい「保護者対応(私は保護者支援と言いたいが)」を選びます(学校の職務範囲でできないことは、他機関と連携して)。

それが、「子どもの善い育ち」にいちばん効果的だからです。

この考え方をより深く理解するために、次回は、第九回(家族支援@学校~素敵な卒業式の話~)でも触れた、「届くところの平等」について、詳しく解説していきます。

関連リンク

林 真未(はやし まみ)

東京都内公立学校教諭
カナダライアソン大学認定ファミリーライフエデュケーター(家族支援職)
特定非営利活動法人手をつなご(子育て支援NPO)理事


家族(子育て)支援者と小学校教員をしています。両方の世界を知る身として、家族は学校を、学校は家族を、もっと理解しあえたらいい、と日々痛感しています。
著書『困ったらここへおいでよ。日常生活支援サポートハウスの奇跡』(東京シューレ出版)
『子どものやる気をどんどん引き出す!低学年担任のためのマジックフレーズ』(明治図書出版)
ブログ「家族支援と子育て支援」:https://flejapan.com/

同じテーマの執筆者
関連記事

ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

pagetop