2022.01.31
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(連載)家族支援@学校~「親を信じる」@学校~(第七回)

教員の仕事のメインは本来、児童生徒の教科指導と生活指導。ところが、もうずいぶん前から、保護者対応と呼ばれる大人相手の仕事が大きな割合を占めています。教師であると同時に家族支援者でもある私としては、この連載を通じて、保護者対応を家族支援と言いかえ、まったく新しい視点で考えていくことを提案したいと思っています。
第七回目の今回は、家族支援の大原則である「親を信じる」を学校現場に持ち込んでみました。

東京都内公立学校教諭 林 真未

職員室から聞こえてくるのは…

「ちょっと信じられないよ、この親」
「親なんだから、もうちょっとちゃんとしてほしいよね」
「何考えているんだろう」
そんな嘆きは、どこの職員室からも、一つや二つは必ず聞こえてきます。

そこへ私が、
「親は、必ず良い親になろうと願っています。それを信じるところから、家族支援は始まります」
なんて言ったって、
「何言ってるの」
って反論されるのがオチではないかと思います。
いやいや、先生方は優しいから、
「そうですね、そういうふうに考えなくちゃいけないですね」
って言ってくださるかもしれません。

そもそも、冒頭のような先生方の嘆きだって、目の前の子を良くしたいと日夜励んでいるのに、保護者の協力や理解が得られないが故の嘆きであって、ただの悪口ではないわけですし。

でも、だからこそ、嘆きで終わらせて欲しくないのです。

少し長くなりますが、以下のエピソードを、読んでみてください(フィクションです)。

ノートにまつわるエピソード

〜先生のキモチ〜

ある子が、最初のノートを使い終わった後に、なかなか新しいノートを持って来ません。先生は、ノート用紙のコピーを授業のたびに与え、何度も持ってくるように伝えていました。
あまりにも持って来ないので、連絡帳に書いたのですが、音沙汰はありません。電話をしても、留守番電話。留守番電話に用件を吹き込むと、やっと新しいノートを持ってきました。けれどそれは、学年で指定したマス数のノートではありませんでした。

この状況にたまりかねた先生は、
「ノートが終わりそうになっていたら、新しいものを用意してくださいって、1年生の国語ノートは8マスですって、学年の最初の説明でも言ったし、学年便りにも書いたし、子どもにも何度も伝えているのに、なかなか買って来ないで、やっと持ってきたと思ったら10マスってどういうことよー!」
と、職員室で嘆き節が炸裂です。

その先生はいつも、子どもと同じ8マスノートを使って板書計画を立て、授業で子どもが写しやすいよう気配りしていましたから、10マスでは、その配慮が水の泡です。それをそのまま認めてしまうと、8マスと10マスが混在して、授業でいちいち、「10マスの人は、ここでこうして…」と付け足さなくてはなりません。

そこで先生は、
「これはおうちで使って、8マスのを持ってきてね」
と再度子どもに伝えました。

けれど、次の日も、その次の日も、その子は8ますノートをもってきません。いつまでも10マスを使い続けています。

「ノートの最後のほうのページに、『このページを使ったらお母さんに知らせてね』って書くような、立派な親もいるのにねえ。いつ8マスを持ってくるかわかんないよ、あの子は」と職員室で先生はため息をつき、諦め顔。
そして定番のあの決めゼリフが口を突きます。
「一体何考えているんだろう、あの親は……。」

~家庭から見てみると~

専業主婦が少数派になった現代。
キャリアを重ねて多忙を極める母親と子どもが顔をあわせる時間は限られています。しかも子どもは、しっかりした子でない限り、新しいノートを買わなくちゃいけないことなど、学校が終わったらきれいさっぱり忘れてしまっています。家の人に連絡帳を見せろと言われたことも同様。
だから、この場合、母親が新しいノートが必要と知ったのは、留守番電話を聞いたときが初めて。
「お前、ノートがなくなっていることなんで言わないの!」と子どもに叱りながら、あわてて、学童を迎えに行った夜7時過ぎでも開いているスーパーに駆け込みます。けれど、仕事で膨大なマルチタスクを抱え、家事にも追われる母親は、先生に言われたマス指定のことなど、すっかり記憶から飛んでいます。
そこで、目に入った低学年用と思しきノートを「これでいいね」と購入します。

それを持って学校へ行った子どもは、先生に叱られます。
「8マスを買ってきて、と言ったでしょう? これはおうちで使って、8マスのを持ってきてね」

母親が買ったのは10マスノートだったのです。

子どもは、珍しく母親に報告します。
「あのノートじゃダメなんだって、8マスじゃないから。だから、あれはおうちで使ってくださいだって。」
「え? どういうこと? 8マスも10マスも、大して変わらないじゃない。おうちで使ってくださいって、国語のノートなんかお前が家で使うわけないじゃない。何言ってんだろう先生は」
と言いつつ、仕方なく買い直そうとスーパーに行くと、あいにく8マスは売り切れです。もう一軒、行ってみるものの結果は同じ。ネットで買うことも考えましたが、百数十円の買い物に送料を払うのも馬鹿らしい。
そこで母親は子どもにこう言います。
「もう、これでいいでしょ、8も10も、2マスのちがいなんだからたいしたことないでしょ」
子どもは、親がそういうのならそれでいいのかなあと思って、10マスを使い続けます。先生も、困った顔はするけど、もう何も言わないので、子どもは、お母さんの言う通りそのままでいいんだと思っています。

親を知る

先生は、子どもが親に伝えていなかったことも、保護者がとても多忙であることも、スーパーを何軒も回って購入しようと努力したことも知りません。
保護者は、先生が子どものマス目に合わせて丁寧に授業してくれていることも、だからマス目指定がそんなに重要だということも、先生が違うマス目のノートに困っていることも知りません。
そして、どちらも、自分のできる範囲で精一杯のことをしているのです。

私は、職員室の嘆き節のほとんどが、このようなお互いの認識のズレからくる誤解に基づいたものだと考えています。
これは小さなエピソードですが、もっと大きな問題でも、結局はこのようなコミュニケーション不足によるすれ違い、認識の違いに端を発していると思います。
だから、親の現実、親の事情を細かに知れば、先生方の嘆きも、親への不信も随分と無くなるのではないかと思っています。

もちろん、逆もまた真なり。
保護者の皆さんは、多くの先生方がどれだけ頑張っていらっしゃるかを知れば、とてもとても、先生を値踏みしたり、やり方を 批判したりなんかできなくなるだろうなあとも思います。

「誤解」や「認識の違い」では片付けられない保護者もいる

「いや、そういう問題じゃなくて。ちょっと理解しがたい、驚くようなふるまいの保護者もいますよ」
ここまで読んだ方の、そんなつぶやきが聞こえてきます。

はい、それでも、どんな保護者でも、良い親になりたいと願っています。

教員はまがりなりにも養成課程を経てその職に就きます。
親は、何も学ばず、子どもを持つことで、いきなり親になるのです。
頼りになるのはそれまでの経験のみ。
昔なら、兄弟姉妹、近所の子などどこかで赤ちゃんや小さい子どもの面倒を見た経験があるでしょう。
今は、それがない人のほうが多いし、学校でも、子育てについて具体的に実践的に学ぶ課程はありません。

子どもを持った瞬間から、手探りのなか、玉石混合の情報に翻弄されながら、子育てしているのが現状です。
それでも、いろいろな条件がそろって、上手にやれる人もいるでしょう。
元々、子育てが苦手な人もいるでしょう。

もし、マルトリートメント(不適切な扱い)を受けて育った人なら、その悪影響が、子育てに影を落としている可能性もあります。
そういった様々な条件や成育歴が障壁となって、親をうまくやれていない場合は、学校ともトラブルになりがちです。学校の常識からは、信じられないようなふるまいや要求が飛び出してくるかもしれません。

この場合、その人が親として上手くやれない障壁を除くのは先生の仕事ではありませんから、すぐにスクールカウンセラーさんや他の支援機関との連携をとるのがベストです。
が、それが間に合わず、精神的に不安定な保護者の矢面に立って、しんどい思いをした先生も少なくないと思います。

それがわかっていて、こう書くのは気が引けるのですが。
でも「信じられないよ、この親」と嘆く前に、思い出してください。

どんな人でも、親は皆、良い親でありたいと願っているのです。


林 真未(はやし まみ)

東京都内公立学校教諭
カナダライアソン大学認定ファミリーライフエデュケーター(家族支援職)
特定非営利活動法人手をつなご(子育て支援NPO)理事


家族(子育て)支援者と小学校教員をしています。両方の世界を知る身として、家族は学校を、学校は家族を、もっと理解しあえたらいい、と日々痛感しています。
著書『困ったらここへおいでよ。日常生活支援サポートハウスの奇跡』(東京シューレ出版)
『子どものやる気をどんどん引き出す!低学年担任のためのマジックフレーズ』(明治図書出版)
ブログ「家族支援と子育て支援」:https://flejapan.com/

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