(連載)家族支援@学校~支援するなら「自己覚知」!~(第八回)
教員の仕事のメインは本来、児童生徒の教科指導と生活指導。ところが、もうずいぶん前から、保護者対応と呼ばれる大人相手の仕事が大きな割合を占めています。教師であると同時に家族支援者でもある私としては、この連載を通じて、保護者対応を家族支援と言いかえ、まったく新しい視点で考えていくことを提案したいと思っています。
第八回の今回は、福祉の世界ではよく知られた「自己覚知」について紹介します。
東京都内公立学校教諭 林 真未
「自己覚知」とは、文字通り自分のことをわかること。
福祉の世界で、対人援助職につくにあたっては、必ずしなければならないことといわれています。
家族支援について学んだ時も、この作業は日々絶えず繰り返ししていくように、と教わりました。
教育の世界には、あまりこの概念は浸透していませんよね。
けれど、対保護者、対子ども等、先生も対人援助職といえると思います。
だから、先生だって「自己覚知」が必要。
そう考えて、今回は「自己覚知」を私なりに説明していきます。
「自己覚知」ってイッタイなに?
人は、無意識に自分のものの考え方や感じ方を、世間の常識と思い込んだり、他の人も同じと思ったりするものです。
たとえば、私は「宿題は必ずやらなければならないもの」と認識し、周りの人たちもそう考えていると信じていましたが、なんと私の息子は、小学校の間ずっと「宿題はやりたい子だけがやるもの」と思っていたそうです!
そんな考えの子どもがいるなんて、思いもよらなかったのではありませんか。
この例は少し極端ですが(でも実話です)、このように、自分と他の人の考えは、必ずしも一致するとは限りません。
そのことを自覚し、では、自分はどのような考えを持っているのか、どのような思考の癖があるのか、どういう感じ方の傾向なのか、などについて知るのが「自己覚知」です。
なぜ「自己覚知」しなくてはいけないの?
それは、私たちが一人一人違う考えを持つ人間だからです。
自分がどんな人間かわかっていて、他の人は自分と同じとは限らない、と自覚していれば、相手を尊重する姿勢につながります。そしてそれは、コミュニケーションのギャップを防ぎ、より良好な関係作りに結びつきます。
なんて、言葉にすれば数行ですが、これがなかなか難しい。
なかでも厄介なのは、私達の中にある偏見や差別、思い込み(myth)の自覚です。
以前ご紹介したパワーについても、自分がどのようなパワーを持つのかを自覚する必要があります。
さっそく「自己覚知」してみよう!
「自己覚知」の方法に決まった形はありません。巷の心理テストから、友達との会話、自己の内省など、様々な機会をとらえて、要は自分の考え方のクセ、傾向、根っこを自覚することです。「つい時間に遅れがち」といったライトなものから、「なぜ先生の仕事を選んだか」という根源的な問いまで含みます。
「自己覚知」に役立つ例をいくつかあげましょうか。
まずは、ある心理士の先生が紹介していたものです。
「あなたは、話している相手があくびをしたらどう思いますか?」
この質問に答えることで、考え方の傾向がわかります。
あなたの答えは、下記のどれに一番近かったですか?
①眠いのかな?
②私の話がつまらないのかな?
③欠伸をするなんて失礼だ。
これは、どれが正しいということではなく、まさに考え方の傾向を直感的に測るものです。
①は素直な、②は心配性な、③は批判的な傾向がみてとれます。
次は私が考案した問いです。
「あなたの子ども(またはきょうだい、親戚)が、同性の恋人を連れてきて結婚したいと言ったら、どう思いますか」
これはアタマではLGBTQの児童生徒を理解しなければならないと考えていても、感情のレベルで差別意識が全くないかどうかを測る、ちょっと意地悪な質問です。あなたは、異性の恋人を連れてきた時と、全く同じ感覚で受け入れられましたか?
このような問いかけではなくても実体験や内省で、「自己覚知」をすることもできます。
私はカナダに行ったとき、ホームステイ先の小さな娘さんに、「どうして日本人は、みんな目と髪の毛が黒いの?」と質問され、そのことに全く違和感を持っていなかった自分に気づかされました。
「人の役に立ちたい」と福祉の仕事に就いたと思い込んでいたのに、自己覚知の末「人の役に立つことで自分自身に価値があることを証明したい」と考えていたことに行き着いたという介護職の方もいます。
「自己覚知」は、反省のための材料じゃない
「自己覚知」の結果、自分の中の偏見や差別に気づいたら、それを正さなくてはならないと思うかもしれません。
先生方は、いつも正しくあろうとする”傾向”がありますから。←「自己覚知」(笑)
「自己覚知」は、反省して是正するため、自分を矯正するための道具ではありません。
「自己覚知」が目指しているものは、自分を知ることです。
長い間の経験や、育ってきた文化の中で培ってきたものが、そう簡単に矯正されるわけがありません。
そんな無理をしたら、苦しくなります。
それより、シンプルに、知っている、ただ、それだけでいいのです。
自分に沁みついていた差別や偏見あるいは思い込みに自覚的であることで、少なくとも、誰かを傷つけることは避けられるはずです。
先生にありがちな考え方の傾向を「自己覚知」したら、保護者とのコミュニケーションも変わっていくと思います。
前回のようなすれ違いも、予防できるかも。
林 真未(はやし まみ)
東京都内公立学校教諭
カナダライアソン大学認定ファミリーライフエデュケーター(家族支援職)
特定非営利活動法人手をつなご(子育て支援NPO)理事
家族(子育て)支援者と小学校教員をしています。両方の世界を知る身として、家族は学校を、学校は家族を、もっと理解しあえたらいい、と日々痛感しています。
著書『困ったらここへおいでよ。日常生活支援サポートハウスの奇跡』(東京シューレ出版)
『子どものやる気をどんどん引き出す!低学年担任のためのマジックフレーズ』(明治図書出版)
ブログ「家族支援と子育て支援」:https://flejapan.com/
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静岡市立中島小学校教諭・公認心理師
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