2022.03.30
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(連載)家族支援@学校~素敵な卒業式の話~(第九回)

教員の仕事のメインは本来、児童生徒の教科指導と生活指導。ところが、もうずいぶん前から、保護者対応と呼ばれる大人相手の仕事が大きな割合を占めています。教師であると同時に家族支援者でもある私としては、この連載を通じて、保護者対応を家族支援と言いかえ、まったく新しい視点で考えていくことを提案したいと考えました。
第九回の今回は、素敵な卒業式のエピソードを通して、家族支援の「届くところの平等」という考え方について、解説します。

東京都内公立学校教諭 林 真未

「おい、行くぞ!」

ある公立中学校の卒業式の日。
校長先生は、式を終えるとすぐに、担任と連れ立って、式に出席できなかった不登校生徒の家に向かいました。
「だってしょうがないだろ。卒業式来れないっていうんだもん。俺達が行くしかないよ」
と校長先生はこともなげに言いました。
卒業式もどうしても来れない、というその子のために自宅まで駆けつけ、家の中で、校長式辞を読み上げ、卒業証書を授与し、たった一人の卒業式をしたそうです。

「うん、おかあちゃん感激して泣いてたよ」
と得意そうに話していたけれど、それは私が親しい教員だからの話。きっと、自分がそんなことをしたなんて、他には吹聴しないでしょう。だから、この素敵な卒業式の話は、きっと当事者や親しい人たち以外には知られないまま。そこで、せめて私がここに書いてしまおうと思いました。
世の中は、有名になった人や学校ばかりをもてはやすけれど、市井の公立中学校にだって、こんなあったかい校長先生がいるのです。

実はこの日、この校長先生は、合計五軒の家をまわったそうです。いまどき、一つの中学校に不登校で卒業式に出られない子は一人、二人じゃありませんからね。
「俺、本物の卒業式のほかに、五回も式辞読んだんだから、頑張ったでしょ?」
ですって! お茶目な校長先生です。

届くところの平等という考え方について

この校長先生の中学校では、普段から、きめ細やかな不登校対応をしています。
不登校は、多様な原因があるので、もっと言えば、原因がわからないという場合も多々あるので、まずは一人ひとりの状況を見極めます。次に、その子の状況に応じて、学校復帰だけではない、本人に合った対応を講じます。その方法はマニュアル化され、組織的に共有されているので、担任によって対応が違うとか、誰かに過度に負担がかかるということもありません。そこまできちんと対応しても、卒業式に出られない。そんな子のために、校長先生が自宅をまわって、卒業証書を渡していく。これは、やりすぎでしょうか?

家族支援には「届くところの平等」という考え方があります。日本人の感覚で考えると、「平等」とは、だれもが同じように扱われることというのが、普通ですよね。私もそうでした。だから、家族支援学の「届くところの平等」という考え方に出会って、大げさに言えば、目からうろこがはがれる思いがしました。

私たちが今まで「平等」と思っていたものは、言い換えると「出るところの平等」です。けれど、支援の現場で「出るところの平等」つまり、提供する支援の量を同じにすることにこだわっていては、支援される対象者全員が、同じだけの幸せな状況には至れません。だって、その人の状況によって、必要な支援の量が違うのですから。
つまり、だれもが同じくらい幸せになるために、より困難な状況にある人が、多くの支援を得ることこそ「平等」と考えるのが、「届くところの平等」です。
今回の卒業式のエピソードに照らし合わせると、この校長先生のしたことは、まさに「届くところの平等」だと思います。

「届くところの平等」と「合理的配慮」

この「届くところの平等」は、数年前に法制化された「合理的配慮」と同様のものだと思います。ただし、教育分野における「合理的配慮」には、「学校の設置者及び学校に対して均衡を失した過度の負担を課さないもの」という条件があります。
今回の卒業式の特別対応は、一日で終了できることであり、学校(校長)としても、過度の負担ではないと判断して行われたものと考えられます。

温かいエピソードをこんなふうに固く表現するのは気が引けますが、このエピソードが、「先生は、必ず児童生徒や保護者に特別サービスするべきだ」という例として理解されてしまっては困るので、あえて分析しました。
実際の現場で日常化している、”学校の設置者及び学校に対して均衡を失した過度の負担を課す”「合理的配慮」と、この素敵なエピソードは、一線を画したいのです。
先生が苦しくなってしまうのは、条件に適った「合理的配慮」ではありません。支援される側だけじゃなくて、支援する側も幸せじゃなくちゃ、支援じゃありませんから…。
​​​​​​​
……おっと、この話は長くなりそうなので、次回(第十回)、家族支援@学校と「合理的配慮」と題して、私なりに取り組んでみようと思います。

林 真未(はやし まみ)

東京都内公立学校教諭
カナダライアソン大学認定ファミリーライフエデュケーター(家族支援職)
特定非営利活動法人手をつなご(子育て支援NPO)理事


家族(子育て)支援者と小学校教員をしています。両方の世界を知る身として、家族は学校を、学校は家族を、もっと理解しあえたらいい、と日々痛感しています。
著書『困ったらここへおいでよ。日常生活支援サポートハウスの奇跡』(東京シューレ出版)
『子どものやる気をどんどん引き出す!低学年担任のためのマジックフレーズ』(明治図書出版)
ブログ「家族支援と子育て支援」:https://flejapan.com/

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