2024.04.07
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(連載)家族支援@学校~「リソース」と「コーディネート」 その2「コーディネート」(第十八回)

その昔、各学校に特別支援教育コーディネーターが配置されると聞いて、画期的と喜んだのもつかの間。すでに多忙を極める教員がそれを兼任すると聞いて、倒れそうになりました。「コーディネーター」という仕事は、本来兼任でできるようなものではないのに。
......というわけで、今回は、本来的な意味での「コーディネート」について考えます。
この連載では、保護者対応を家族支援と捉えなおし、カナダ/アメリカの家族支援の考え方を学校で活かす道を探ってきました。この後は、第二十回を一区切りとし、この連載を終える予定です。前回と今回は、基本に立ち返って、支援の場でよく使われる言葉を丁寧に解説しました。

東京都内公立学校教諭 林 真未

コーディネーターは専任職

2003年秋、通信教育で受けていたライアソン大学(現トロント州立大学)の家族支援職資格課程の卒業式に出席するため、私はカナダに渡りました。
その際、向こうの先生方が、日本からはるばる来た私を、いろいろな現場に連れて行ってくださいました。
そこで出会ったのが、専任のコーディネーター職の方。

コーディネーターとは、もちろんコーディネートする人という意味。
カナダでは、専任のコーディネーターが、地域の支援施設や保育施設、学校、行政、病院、保健所等を毎日巡回して、必要な連携や情報提供を担っていました。
「コーディネート」の日本語の意味は「物事を調整すること、間に立ってまとめること」。
家族支援においては、関係各機関のどこにどんなニーズとリソースがあるかを把握し、それらを密に連携させたり組み合わせたりして補完し合う、つまりコーディネートすることで、充実したワンストップサービスを実現しています。

日本の教育と福祉の世界でも、さんざん連携が叫ばれていますが、それを専任的に担う人材はおらず、忙しい現場に任されているのですから、連携が進まないのも当然です。

コーディネートは泥臭い

「コーディネート」なんて綺麗な外国語で表現されると、なんとなくかっこいい仕事のように思えますが、私は、これは本来、地道で泥臭い仕事だと思っています。
最善の支援、いちばん効果的な支援を探るには、基本的な知識はもちろん持った上で、絶えず流動する地域リソースの情報を、実際に足で追い、把握し、それらの情報を各所と共有する作業を続けなくてはなりません。
そのために、毎日いろいろなところへ出向き、フェイストゥフェイスでコミュニケーションをとり、各機関の力量や機能、守備範囲を把握し、施設や利用者のニーズを理解して、それをうまく繋ぎ合わせる。これは、骨の折れる仕事です。

インターネットによる情報社会であっても、必ず現場に行かなければわからないものがあります。
ウェブサイトに「相談にのります」と書かれていても、実際、相談にあたる人物がどんな人なのか。
「提供できます」と書いてあっても、どのような手続きが必要なのか、利用条件はあるのか。
特に、日本のような、申請主義、当事者事情よりも制度優先の傾向がある場所では、残念ですが、ウェブサイトで謳う文言の通りに豊かな支援が存在しているとは限らない、という現実があるのが、私のこれまでの経験値です。

また、「コーディネート」にはセンスも必要です。どこのどの制度が、支援が、家族のニーズを満たすのか。
どう組み合わせれば、それらが有効に生きてくるのか。
これらを見誤っては「コーディネート」になりません。
しかも、効果的な支援の実現には、同じジャンルや一対一の組み合わせにとどまらず、もっと複層的に、様々なジャンルをダイナミックに繋ぎ合わせる発想が必要です。
本来、「コーディネーター」は、プロフェッショナルな仕事なのです。

学校現場における特別支援教育コーディネーターについて

ここまで読んでいただいて、私が、学校に特別支援教育コーディネーターが設置されると聞いて喜び、それが現場教員の兼任の制度だと聞いてどれだけ落胆したか、お判りいただけたでしょうか。
繰り返しになりますが、本来的な「コーディネート」をしようと思えば、専任でなければ不可能です。
特別支援対象児童・生徒を一人一人丁寧に把握し、一方で学校リソースと地域リソースを網羅して、そこから必要な支援を組み合わせ提案し、実施への手続きを進める。
私が特別支援教育コーディネーターと聞いてイメージしたのは、そんな動きでした。

ところが。
現在の特別支援教育コーディネーターは、コーディネーターという名前はついているものの、会議・打ち合わせ日程の調整、校内資料の段取り、必要な時の関係各機関との連絡等が精いっぱいという状況ではないでしょうか。
だって、通常業務でさえ勤務時間に収まらないというのに、兼任で、本来的なコーディネートができるわけがない。むしろ、それらの業務すら、この状況でよくぞこなしておられる、と思います。
そもそも、特別支援教育コーディネーターは、最初から会議の日程調整等の担当者のイメージで創設されたもので、「コーディネート」の意味を知っていた私が、期待しすぎていただけなのでしょうか……。
とにかく、せめて現場の皆様に「コーディネート」「コーディネーター」の持つ本来の意味を、知っていただけたら嬉しいです。

林 真未(はやし まみ)

東京都内公立学校教諭
カナダライアソン大学認定ファミリーライフエデュケーター(家族支援職)
特定非営利活動法人手をつなご(子育て支援NPO)理事


家族(子育て)支援者と小学校教員をしています。両方の世界を知る身として、家族は学校を、学校は家族を、もっと理解しあえたらいい、と日々痛感しています。
著書『困ったらここへおいでよ。日常生活支援サポートハウスの奇跡』(東京シューレ出版)
『子どものやる気をどんどん引き出す!低学年担任のためのマジックフレーズ』(明治図書出版)
ブログ「家族支援と子育て支援」:https://flejapan.com/

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