2022.07.03
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(連載)家族支援@学校~いろいろな家族支援~(第十一回)

教員の仕事のメインは本来、児童生徒の教科指導と生活指導。ところが、もうずいぶん前から、保護者対応と呼ばれる大人相手の仕事が大きな割合を占めています。教師であると同時に家族支援者でもある私としては、この連載を通じて、保護者対応を家族支援と言いかえ、まったく新しい視点で考えていくことを提案したいと考えました。第十一回の今回は、いろいろな家族支援(@学校)の解説です。

東京都内公立学校教諭 林 真未

親もいろいろ

先生方って、「親なら当然、・・してほしい」と思っていませんか。「他人である自分たちでさえ、子どものためにこれだけ尽くしているのだから、ましてや親なら当然……」という感じ。
実は、ここに落とし穴があって。
よく考えてみると、多くの保護者は、親としての機能を十分果たしているのです。

そして、それを果たさない少数の人に対して、先生方は”親である”という一点で、他の”できている”親と同じ機能を求め、「親なら当然・・・」と呟きます。
けれど、その少数の人たちだって、わざと親の機能を果たしていないわけではない。
なんらかの事情があって、学校が求める役割を十分果たせていないだけかもしれないのです。
つまり、親もいろいろ。

というわけで、ここでは、いろいろな親に対して、いろいろな家族支援があることを、ざっくり解説します。
「家族支援」をひとくくりにするのは、実はランボウな話で、ホントのところは、保護者のタイプや状況によって、相応しい「いろいろな家族支援」があるのです。

いろいろな家族支援① ファミリーライフエデュケーション(家族教育)

家族支援のひとつであるファミリーライフエデュケーションは、言い変えると「教育的手法を使った家族支援」です。
これは、精神疾患などを含む心理的に窮地に陥っている人を対象にはしません。
基本的に、ごく普通の家族たちが、そういう状況にならないための予防的アプローチです。
そしてさらに、ファミリーライフエデュケーションはいくつかのスタイルに分けられます。主だったものはこの二つ。

セミナー(一方通行のアプローチ)
親として十分やれている人達向けの家族支援として、一方通行のセミナー方式があります。子どものSNSルールなど、新しい子育て課題の知識伝授などは、この方法で十分です。
形態で言うと、たとえば、自治体公民館主催講演会とか、PTA主催の家庭教育講演会などがこれに当たります。
この方法の弱点は、双方向、多方向のアプローチではないため、受講者の学びが深くならないことです。
それを補うためには、講演者が、最新最善の知識を持ち、また、プレゼンテーションに長けていることが求められます。ただ、テーマが参加者の興味に合致している場合は、一方通行であっても演者がどうであっても、満足度の高い学びになると思います。
ファミリーライフエデュケーターは、こういったセミナーの講師になることもありますが、むしろ、そのコミュニティ、一般家庭にとって今何が必要な情報かを見極め、効果的なセミナーの一部始終をプロデュースするイメージです。
もし、私が学校現場でなにかセミナーをプロデュースできるなら、「入学前説明会」を企画したいです。
私は、すでに行われている、持ち物やスケジュール等の就学説明会とは別に、入学直前に「学校が担えるもの」と「学校が担えないもの」を明確に、学校と保護者が認識を共有するセミナーが必要と考えています。
たとえば、教員の勤務時間が16:45までで以後は無給のサービス残業であることを、意外と保護者は知りません。また、教育の第一義的責任は親にあり、学校はそれを補完する役割であるとか、学校で過ごす時間は、子どもの生活時間の約27%に過ぎないとか、そういったこともおそらく意識下にはないのではと思います。むしろ、学校という大きな教育機関があって、教育の主体あるいは責任者は家庭より学校、というイメージに、保護者も、そして教員も、覆われているのではないでしょうか。
これらのイメージを払しょくし、予め、学校の置かれている現状、保護者の責任の範囲等を明確に整理し、その認識を共有することで、入学後の学校と保護者とのトラブルがずいぶんと防げるのではないかと思っています。

グループトーク
基本的には親として自立しているけれども、それなりに悩みがあったり、不安があったり、という場合にはグループトークが有効です。
ここでは、乳幼児のイヤイヤ期対処法とか、学齢期の子どもとのコミュニケーションとか、思春期の関わり方とか、言ってみれば「ちょっとした悩み」を扱います。
もう少しシビアな状況にある親、たとえば発達障害児の子を持つ親、つい手を挙げてしまう親など、特定の共通する子育ての困難さを抱えた親の自助グループなどにも、グループトークが採用されます。
しかし、グループトークには弱点もあります。
もし、そのグループに間違った知識認識を持った人が参加していて、しかもその人が、スピーカーとして卓越した力があった場合、グループはまちがった認識を共有してしまうことになります。
これは、学校で言えば、学級とクラス担任にも当てはまるかもしれません。学級でも、先生が誤った知識を教えてしまうと、子どもたちはそれを真実と信じて、覚え込んでしまいます。
だから、先生が学級の子どもたちに、絶えずそうならないように気を配るのと同様、グループトークにはファシリテーターがいて、グループが間違った方向に行きそうなときに軌道修正し、また、グループに共有されなかった関連情報や知識を提供し、その上、グループの参加者の快適さにも目を配ります。
家族支援においては、ファミリーライフエデュケーターがこのファシリテーター役を担います。
学校では、保護者会がこのシチュエーションに近く、担任の先生がファシリテーター役になるのかもしれません。あるいは、保護者の中にファシリテーターにふさわしい人がいることもあるでしょう。(※本来グループトークは同じメンバーで複数回行われます。)
グループトーク、すなわち多方向コミュニケーションは、とても効果の高い成人教育の手法と言われています。

いろいろな家族支援② ファミリーリソースプラクティション(家族福祉)

親の教育では解決しない問題もあります。
たとえば家族の貧困対策とか就労支援とかヤングケアラーとか、福祉的支援が必要な場合です。
これに対応するのは、ファミリーライフエデュケーションではなく、家族支援の中の福祉的手法・ファミリーリソースプラクティションすなわち家族への具体的な支援提供です。

これは、本来学校ではできません。そのような支援が必要な家庭を発見したら、いち早く福祉に繋げるしかありません。
でも実際には、日本は諸外国に比べて福祉的な家族支援が手厚くないので、繋げた先で十分な支援が受けられるとも限らない…。

かつては、ご近所や親類、親の友人知人など、子どもの周りにもっとたくさんの大人がいて、その善意が公的福祉を補完していたのでしょう。でも今は、皆忙しくて、子どものすぐそばにいるのは、親と、保育教育関係者だけになってしまっている現状のような気がします。そうなると、結局は学校の、担任の先生などが、自腹を切ったりボランティアしたりして支援しようとしてしまう。そして、先生のブラック化が進みます……。

いろいろな家族支援③ ファミリーセラピー(家族治療)

保護者の中には、先生方が理解に苦しむ言動をする方もおられます。
ていねいにコミュニケーションをして、お互いの誤解を紐解くことで解決できればよいのですが、いつまで経っても、どこまで行っても違和感があるときは、もしかしたら、保護者の精神的な問題が隠れているかもしれません。
この場合は、教育でも福祉でもなく治療・ファミリーセラピーすなわち、カウンセリングや薬物治療を含む精神医療が必要です。
カナダの大学でファミリーライフエデュケーションを学んだとき、強く指導されたのは、自分の領域外に立ち入るなということ。ファミリーライフエデュケーションはあくまで精神的に健全な家族を対象とするので、精神障害が疑われる保護者は、ファミリーセラピーのプロフェッショナルに速やかに繋げ、と。そうでなければ、その家族に適切な支援を提供できないのだから、と。
でも、現実の日本の家族支援@学校では、そんなセオリー通りにはいかないですよね……。
学校におけるファミリーセラピーのプロフェッショナルと言えば、スクールカウンセラーですが、スクールカウンセラーさんが精神障害が疑われる保護者のメインの支援者になって、じっくり向き合っている例はあるのでしょうか。あれば詳細を知りたいです。
また、保護者本人が無自覚な場合、管理職を含め、教師は精神医療の専門家ではありませんから、そのこと自体に気づかないまま、やりとりを続けてしまう可能性も大いにあります。
とにかく、この問題も、悩ましいところです。

いろいろな家族支援@学校まとめ

以上、家族支援には教育的手法と福祉的手法、そして治療の提供があり、それらはそれぞれ、対象者の状況に合わせてセミナー、グループトーク、福祉サービス提供、カウンセリング、医療等様々な形態があることを見てきました。

問題山積八方ふさがりの現場を想うと、ここでこのように解説することに何の意味があるだろうと思わないわけでもないのですが、でも、このような整理がないともっと出口が見えない気がして。
家族支援@学校に、多少なりとも、この分類・整理がお役にたちますように。

林 真未(はやし まみ)

東京都内公立学校教諭
カナダライアソン大学認定ファミリーライフエデュケーター(家族支援職)
特定非営利活動法人手をつなご(子育て支援NPO)理事


家族(子育て)支援者と小学校教員をしています。両方の世界を知る身として、家族は学校を、学校は家族を、もっと理解しあえたらいい、と日々痛感しています。
著書『困ったらここへおいでよ。日常生活支援サポートハウスの奇跡』(東京シューレ出版)
『子どものやる気をどんどん引き出す!低学年担任のためのマジックフレーズ』(明治図書出版)
ブログ「家族支援と子育て支援」:https://flejapan.com/

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