2022.11.20
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(連載)家族支援@学校~ありのままをわかるところから始める~(第十四回)

この連載では、保護者対応を家族支援と捉えなおし、カナダ/アメリカの家族支援の考え方を、学校で活かす道を探ってきました。今回は、家族支援をするとき最初にする「ありのままの状況をまずちゃんとわかる」を、家族支援@学校(保護者対応)に応用して考えます。

東京都内公立学校教諭 林 真未

それぞれの家庭には、それぞれの考え方がある

子どもに問題行動があると、もちろん学校でいろいろ指導はするものの、保護者の方にも連絡して家庭での指導をお願いする、っていうのが、よくあるパターンではないかと思います。
けれど、そのご家庭が「殴られた? それならそいつを殴り返せ!」なんて家風だったりしたら、この親御さんの考え方が変わらない限り、「暴力をやめさせる」という指導は望めません。
でも実際には、こんなわかりやすい例は少なくて。
むしろ、学校の先生とやり取りをしている分には、どの家庭も常識的な様子にしか見えないけれど、実は、それぞれのご家庭が、その家独特の生き方や考え方を持っているというのが現状です。
私は、このことに先生方が自覚的でないと、最初のボタンが掛け違われてしまうのではないかと心配しています。
つまり、私たちの見方考え方と、ご家庭の見方考え方が、一致しているとは限らないという前提を、まず持っていることが必要だと考えます。
そして、先入観なしに、まずありのままを把握する。
そのためには、私たち自身は自己覚知が大事だし、ご家庭に対しては、そのご家庭独自の考え方があることを予想し、また、それをできるだけ理解して、話を進める必要があります。
(外国からの移住者の場合は特に、日本人自身がその考えを持っていることに気付かないほど沁みついている「日本的な考え方」を持ち合わせていない場合があります。彼らは、自分の国の価値観や考え方に基づいて行動しますから、この点に留意し、各国の考え方や行動様式の基礎知識もあったほうがいいと思います。)

その家庭の生き方、考え方をどうやってわかるというのか

とはいえ、それぞれ家庭の生き方、考え方を知るべきと言われても、年に数回の保護者会、15分の個人面談、必要に応じての連絡帳のやり取り程度で、どうやってその家庭の生き方、考え方まで分かるのか?という懸念が生まれると思います。
私は、子どもを見ることでそれは可能だと思っています。
私たちが毎日一緒に過ごしている子どもたちは、それぞれ、自分の家庭の生き方・考え方を浴びて育っています。
先生とのやりとり、友だちとの付き合い方、普段の行動パターン、それらを日々観察していれば、おのずとその子の家の家風が見えてきます。
きちんとした子はきちんとした家庭に、優しい子は優しい家庭に、大らかな子は大らかな家庭に育っているのです。

家庭に連絡して、指導を求めるのがベストかどうか?

子どもの問題行動の素因が、その家庭自身の生き方考え方にあることは少なくありません。

その場合、どこまで家庭に伝えるべきか、むしろ伝えずに学校で指導すべきか、見極めることも必要と考えます。
恥ずかしい話ですが、保護者時代の私はきちんとものを用意するのが苦手で、その影響下にある子どもたちは、忘れ物が多かったです。
まあ、けれど、この程度のことなら、家庭に「忘れ物に気をつけて」とストレートに伝えても、問題はないと思います。
ただ、もっと深いところの価値観に根差した家庭の傾向は、そう簡単にはいかないように思います。

たとえば、新しい教具と古い教具があった場合、我先にと自分がいいほうの教具を確保しようとする、自由に並ぶとき、一番いい場所を確保しようとする、などの行為は、発達の問題を抱えている場合もありますが、親御さんが、他の人より自分の利益を優先することを当然と考えていて、子どもがそのやり方を踏襲している可能性も大きいです。
そしてその行動パターンが、友だちとのトラブルを引き起こします。
この場合、ご家庭に現状を伝えて、いくら口頭で指導してもらったとしても、家庭自身の根底の行動パターンが変わらない限り、子どもは同じことを繰り返すように思います。
わたしは、こういうケースはご家庭には連絡しません。
たった1年の短い間ではありますが、子ども自身をご家庭の行動パターンから脱させるように努力します。そして欲を言えば、子どもから家庭にその影響が及ぶことを期待します。

効果的なのはどの方法か

問題行動があれば家庭に連絡、という従来のやり方を踏襲する前に、「ありのままをわかる」ことに注力するのは、その後の展開を効果的にすすめるためです。
なにかアクションをするとき、一番効果的なやり方を選ぶ。
これは、私の学んだカナダ、アメリカの家族支援においては基本中の基本です。
目的は、保護者に指導してもらうことではなく、その子を善くすること。
そのために何が一番効果的なのか。
そう考えると、場合によっては、あえて保護者に伝えないという方法も、あるいは伝え方を工夫するという方法も、選んでいく必要があるというわけです。

…とここまで書いて、なんだかご立派なことを言ってなあと、ちょっと恥ずかしくなりました。だって、いくら知識があっても、私自身、必ずしも日々の営みの中でそれをうまくやれているわけではありませんから…。……人間は一筋縄ではいきません! 
まあでも、せめて、知らないよりましと思って覚えておいてください。

林 真未(はやし まみ)

東京都内公立学校教諭
カナダライアソン大学認定ファミリーライフエデュケーター(家族支援職)
特定非営利活動法人手をつなご(子育て支援NPO)理事


家族(子育て)支援者と小学校教員をしています。両方の世界を知る身として、家族は学校を、学校は家族を、もっと理解しあえたらいい、と日々痛感しています。
著書『困ったらここへおいでよ。日常生活支援サポートハウスの奇跡』(東京シューレ出版)
『子どものやる気をどんどん引き出す!低学年担任のためのマジックフレーズ』(明治図書出版)
ブログ「家族支援と子育て支援」:https://flejapan.com/

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