2022.08.11
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(連載)家族支援@学校~「Strength based approach(強みに注目するやり方)」~(第十二回)

この連載では、保護者対応を家族支援と捉えなおし、カナダ/アメリカの家族支援の考え方を学校で活かす道を探ってきました。そして、いろいろ考え書いていくうちに、そこで学んだ理論が、保護者との関わりの場面だけでなく、子どもとかかわる場面でも広く応用できると気づきました。そこで、第十二回の今回からは、家族支援のキーワード解説をして、それを保護者関連だけでなく、学校現場の様々な場面で活用する方法を考えていきます。今回は「Strength based approach(強みに注目するやり方)」です。

東京都内公立学校教諭 林 真未

「Strength based approach(強みに注目するやり方)」とは?

「Strength based approach(強みに注目するやり方)」とは文字通り、良いところに注目してそれを伸ばすことで、悪いところも減らしていこうという考え方です。これに対して、欠点に注目して、それを直していこうというのが、「Deficit based approach(欠点に注目するやり方)」。私が学んだカナダ/アメリカの家族支援では、「効果的だから」という理由で、「Strength based approach(強みに注目するやり方)」を採用していました。

私が先生になる前、まだファミリーライフエデュケーターとして新しい家族支援の方法を日本に伝えようと孤軍奮闘していた頃、これは、とっても新しい考え方でした。

だから、そのまま伝えても、わかってもらうのが難しく、そこで、子どもの学習にたとえてこんなふうに説明していました。

「国語が得意で算数が苦手だという子がいたら、普通は“国語がこんなにできるのだから算数もできるはず。算数がんばりなさい”と声をかけると思いますが、そうではなく“国語がそんなに得意ならもっと国語をやればいい”と声をかけるのがStrength based approach(強みに注目するやり方)です。不思議なことに、そういわれた子は算数もやる気になるという現象が起きる、という考え方です」

図らずも、今でも学校現場では、そしておそらく家庭でも、「国語がこんなにできるのだから算数もできるはず。算数がんばりなさい」という声かけが主流ではないでしょうか。

でも、繰り返しますが、「Deficit based approach(欠点に注目するやり方)」より「Strength based approach(強みに注目するやり方)」のほうが、効果的なのです。

子どもたちへ「Strength based approach(強みに注目するやり方)」

というわけで、先生になった私は、さっそく子どもたちに「Strength based approach(強みに注目するやり方)」を試してみました。それぞれの得意科目に注目し、それを大いに褒めたのです。

すると、効果てきめん。面白いように子どもたちの意欲が高まり、すべての教科のパフォーマンスが向上しました。

けれど…。

実は私、算数がものすごく苦手な子には、「いいよいいよ、図画工作が得意なんだからそっちを頑張ればいいよ」と言えませんでした。小学校は算数は学年ごとの積み重ね。今わからないままでは、この先、彼が膨大な授業時間を無為に過ごすことになってしまうかも、という心配が先に立って「Strength based approach(強みに注目するやり方)」が使えなかったのです。

彼には、、算数を頑張ってもらいたい。そう思った私は、彼に夏休みの補習教室に来てもらい、算数の個別指導をしました。

ところが、ここで面白いことが起こりました。これまで学習した単元をおさらいする中で、彼が少しだけ理解できている単元で、わかっていることを大いに褒めたところ、他の理解できてない単元にも、前向きにわかろうとくらいついたのです。

この経験を通して、私は、教科という大きなくくりではなく、寄り添ってピンポイントで強みに注目し、「Strength based approach(強みに注目するやり方)」を用いることも、効果があると実感しました。

よかったら、みなさんもこの効果的な手法を頭の片隅に覚えておいて、子どもの指導の様々なフェーズで活用してみてください。

保護者へ「Strength based approach(強みに注目するやり方)」

そもそも、この手法は、家族のウエルビーイング向上のために使うものですから、学校での保護者支援への全面的な応用は難しいかもしれません。

学校は継続的な家族支援の場ではない。

これは明確にしておかないと、専門性のないことをして共倒れになってしまうし、教員の働き方改革も進みません。

とはいえ、本格的に用いるのではなく、私が算数が苦手な子に用いたように、ピンポイントで応用することはできると思います。よく、先生方が電話や面談でおうちの方の子育てを褒めますよね。あの延長線上でこの理論は使えるかなと思います。コツは、ただ褒めるのではなく、強みに注目し、そこを認め励ますこと。保護者とお話ししていると、”先生”に言われる、というのは一定のインパクトを持つのだなあ、と思わせられることが度々あります。だから、逆にこのインパクトを利用して、「Strength based approach(強みに注目するやり方)」を活用するのです。それによって、その家庭のウエルビーイングが向上することを願いつつ。

ただ、前回「いろいろな家族支援」でお伝えした通り、いろいろな保護者の方がいますから、すべてに一辺倒に「Strength based approach(強みに注目するやり方)」を用いるというのは、違うかもしれません。また、この手法は家族支援の中の一つのやり方に過ぎないということもあります。

そもそも、家族支援は「オーダーメイド」。一つ一つの家族にとって必要な支援は違います。


次回は、この「オーダーメイド」をキーワードに、家族支援@学校を詳しく考えていきましょう。


林 真未(はやし まみ)

東京都内公立学校教諭
カナダライアソン大学認定ファミリーライフエデュケーター(家族支援職)
特定非営利活動法人手をつなご(子育て支援NPO)理事


家族(子育て)支援者と小学校教員をしています。両方の世界を知る身として、家族は学校を、学校は家族を、もっと理解しあえたらいい、と日々痛感しています。
著書『困ったらここへおいでよ。日常生活支援サポートハウスの奇跡』(東京シューレ出版)
『子どものやる気をどんどん引き出す!低学年担任のためのマジックフレーズ』(明治図書出版)
ブログ「家族支援と子育て支援」:https://flejapan.com/

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