子どもに"勝たせる"はやめよう。本気の遊びが育てる、負けに強い子

私、アグネス・チャンがこれまで学んだ教育学の知識や子育ての経験をもとに、学校や家庭教育の悩みについて考える連載エッセイ。子どもが負けたらかわいそうだなと思って、わざと手加減していませんか。今回は「子どもに"勝たせる"はやめよう。本気の遊びが育てる、負けに強い子」をテーマに考えました。
わざと負けるのは「優しさ」ではありません
子どもとの勝負、本気でやっていますか?
私は子どもと勝負するときには手加減しません。わざと負けるのは、子どもに良くない影響を与えると思うからです。子どもが泣くからといって、大人がわざと負けていては、子どもは失敗に耐えられない人になります。私はいつも負けないつもりで、本気でやります。それが現実を知ることにつながり、負けてもくじけない子を育てることになるのです。親がわざと負けたり大げさにほめたりするのは、子どもに嘘をついているのと同じです。そんなことを繰り返していると、勝たなければ気が済まない子になってしまったり、自分の実力を過大評価してしまうのです。そして、現実に直面したときに、自分との実力の差にショックを受けてしまいます。
たとえば、親がわざと負けて「君はすごいね!」と持ち上げていたのに、いざ他の子と勝負して負け続けたら、負けるときの惨めさを避けるために、難しい事に挑戦しなくなります。そして負けるたびに、自分の感情をコントロールできずに大騒ぎしたりするようになることもあります。
だからこそ、子育ての中で「負けること」や「負けたらどうするか」を経験させることが大切です。それは家族で楽しむカードゲームやボードゲームの中で、自然に教えることができます。
小さな子どもでも、レベルに合ったゲームはたくさんあります。大切なのは、親も本気で向き合うことです。負ける経験を教えるのは親の責任です。世の中は、いつも自分が勝てるとは限りません。だからこそ、負けたら悔しがる。悔しいから、もっと頑張ってレベルアップする。そして、一生懸命に努力すれば、いつか必ず勝てる日が来る。勝てるときの達成感を味わう、そのプロセスを体験させて、失敗は成功の一部、失敗は成長のプロセスである事を子どもに理解してもらうのです。
遊びの中で負けることを覚えて挑戦する力を育てる

@学びの場.com
息子たちと勝負するときには、私はいつも本気でした。息子たちが負けて泣いても「イエーイ!」と勝利を喜びます。そして「頑張ってくださいね。続ければきっとママに勝てますよ」と声を掛けるのです。彼らのレベルに合ったゲームを選んでいたので、すぐに彼らが勝つようになりました。勝てたときの達成感は、子どものもっと強くなりたいという意欲につながります。
すると私は次に少し難しいゲームを用意します。彼らはまた負けて悔しがりますが、すでに「頑張ればママに勝てる」という経験があるので、彼らは必死で努力して、勝てるようになるのです。そうして、少しずつゲームのレベルを上げていきました。中学生くらいになると、もう私が勝つことのほうが少なくなりました。
UNOやトランプなどのカードゲームもたくさんやりました。今でも家族だけのオリジナルルールがあるほどです。激しい戦いで、毎回盛り上がって家族にとって楽しい時間になっています。
本気のベイキングコンテスト(お菓子作り対決)も我が家の恒例行事です。みんなとても真剣です。次に家族が集まるときにはシュークリーム対決をする予定です。私はこれまでに一度も作ったことがないので練習しないといけません。息子たちがどんなすごい作品を準備してくるのか今から楽しみです。
こうした家庭での遊びは、子どもの脳を育てるとも言われています。アイビー・リーグやスタンフォードなど、アメリカのトップレベルの大学に合格した子どもたちのうち6~7割は家庭で頻繁にボードゲームをしていたというデータもあるそうです。親が子育てにきちんと関わっていること、そしてゲームを通して子どもの頭脳が鍛えられているということが理由だと思います。
少しの工夫で大人と対等に勝負できます
とはいえ、かけっこや水泳のように体の大きさや体力の差で大人がどうしても勝ってしまうような勝負もあります。そういう場合は、子どもにハンデをつけてあげるといいと思います。かけっこなら、このラインまで子どもが走ったらパパがスタートする。プールなら子どもが半分泳いだらママがスタートするなどの工夫です。
息子たちが小さい頃によくやったのは「誰が一番長く息を止めていられるか」や「怖がらずに顔を水につけられるか」の競争です。親が最初に水に顔をつけて、次に長男、最後に一番小さい子が顔をつけるルールにすることで、みんなが楽しめました。
餃子を何個食べられるかを競い合う、我が家の「餃子大会」でも、子どもが小さい頃はハンデをつけていました。パパが20個食べたら、子どもがスタートという具合です。これなら、小さな子でも勝てるチャンスが生まれます。
勘違いしてはいけないのは、この競争は「比べる」とは違うということです。学校のテストやビューティーコンテスト、視聴率、営業成績など、社会にはシビアに比較されることがたくさんあります。
それとは違って、家庭でやるゲームは自分を高めるためのものです。誰が一番クッキーを上手に焼いたとか、餃子をたくさん食べたといった結果に大きな意味はありません。でも、みんながお互いに悔しがって「よし、次こそ!」と思える、そんな遊び方が大切なのだと思います。とにかく、我が家ではどんなゲームでも本気です。そのほうがずっと面白いのです。「子どもだから勝たせてあげる」のは、もう今日からやめましょう。

アグネス・チャン
1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)
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