子どもの心を育てる本との出会い

私、アグネス・チャンがこれまで学んだ教育学の知識や子育ての経験をもとに、学校や家庭教育の悩みについて考える連載エッセイ。子どもたちに読書の楽しさを伝えるためには、本の選び方を工夫したり、図書館を活用するのが効果的です。今回は「子どもの心を育てる本との出会い」をテーマに考えました。
読書の習慣は大きな財産になります
子どもは1歳くらいから自分で本を選べるようになります。2歳くらいになるとそれぞれの好みもはっきりしてきます。うちの場合、長男は図鑑ばかりを選び、次男はファンタジー作品が好きで、三男はジャンルを問わず幅広く本を読んでいました。
その影響もあるのかもしれません。長男は今でもノンフィクションが好きで科学的な視点で物事を捉えるのに対し、次男は複雑な人間関係や哲学的に考える傾向があり、三男は幅広く興味を持つようになっています。
私は子どもたちに彼らが興味のある本を自由に選べるようにしていました。本を読むことでモラルや人生観を育てるのも大切ですが、文字に親しむことも重要だと思ったからです。
「文字を読むのが簡単」「文章を読むのが好き」「ひとりになったとき、本がないと落ち着かない」。そんな習慣を身につけたら、学ぶこと自体が楽になります。だからまずは本を楽しんでくれればオーケーです。良い本であれば、図鑑でも物語でも何でもよいのです。
本をたくさん読む子は、理解力や文章力が育ち、読むスピードも速くなります。息子たちも長い文章を読むことに、抵抗がなく育ちました。読むスピードが速いので、一緒にインターネットの記事を読んでいると、私が「ちょっと待って!」と言わないと、どんどんスクロールしてしまうほどです。文字を楽に読めて理解力のある子どもを育てるために、本は私の子育てにとって欠かせないものでした。

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親や先生は良い本を見つけたら、どんどん子どもに紹介したくなります。確かに小さなころから、名作に触れることは良い経験になります。でも、「この本を読みなさい」と言われると、かえって読みたくなくなることがあります。一方的に押し付けるのではなく、本を読みたくなるきっかけを作ることも大切です。我が家では本の交換をよくやっていました。息子たちがどんな本を選んでいるのかを知ることができるし、私が良いと思った本を彼らに読ませることもできます。
そして、本を読んだあとはディスカッションします。「どう思った?」「どこが好き?」「ちょっと違うと感じる?」といった会話をすることで、もし子どもが間違った考えを持っていた場合でも、それを自然に修正することができます。
子どもにどんな本を選んであげる?
子どもに本を選ぶときには良い本を勧めることも大切ですが、それ以上に良くない影響を与える本を避けることも重要です。有名な物語や教科書に載っているような話でも、偏った価値観を含んでいる場合があるからです。
特に童話や昔話には注意が必要です。例えば、「白馬に乗った王子様が迎えに来て、結婚することが最高の幸せ」という考え方は、現代では少し違和感があります。だからこそ、子どもたちに正しい価値観が育つような本を与えるのは家庭の役割なのです。
私は子どもたちにはモラル的に良いと思える本を選んで、0歳からいろいろな絵本を読んであげました。特に五味太郎さんの作品がお気に入りで、ほぼ全作を読み聞かせています。絵も楽しく、考える力も育てられる内容で、子どもたちも楽しんでいました。
日本の昔話もたくさん読みましたが、「これはちょっと違うよね」と話をすることもありました。『さるかに合戦』のように復讐や暴力を正当化するような話もあるので、伝え方を工夫する必要があります。
今は、漫画やSNSなどが身近にあり、「面白ければいい」という価値観で作られたものもたくさんあります。中には、人をけなすことを楽しむようなものもあり、私たちが子どものころよりもずっと複雑になっています。その中で、親が気をつけながら、本を選び、子どもの人生観を築いてあげることがますます大切になっていると思います。
図書館は社会に参加する最初の一歩
本に出会う場所として、図書館を利用する親子も多いと思います。もし図書館に行く習慣がないのなら、ぜひおすすめしたいです。圧倒的に本が多いので、子どもたちは自由に本を探して好きな本を借りることができます。
そして、図書館は子どもが社会人として最初に実感できる場所でもあります。ほとんどの図書館では、小さな子どもでも貸出カードを作ることができます。これは子どもにとって初めての責任のある社会経験です。そのときに「司書さんはあなたを信用したのよ。本を貸してくれるのは、あなたが必ず返してくれると信じているからです」と伝えるとよいでしょう。子どもは、自分の貸出カードで、本を借りられることに誇りを感じるはずです。子どもは本を借りる経験を通して、信頼されることと信用をつくることを学ぶことができます。無料で本を借りることができるというのは、特別なことなのです。
そして読書が好きな人は本さえあれば「寂しくならない」のです。本を読んで、自分の世界に入りこむことができ、想像力も育ちます。子どもにとって本との出会いは、人生観や価値観を形作る大切な経験です。私も子どものころに読んだ本が、その後の人生に大きな影響を与えました。本との出会いが人生を豊かにしてくれることを確信しています。
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アグネス・チャン
1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)
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