2024.09.04
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地球温暖化で水没しつつある国、キリバスから環境問題を考える(後編)

私、アグネス・チャンがこれまで学んだ教育学の知識や子育ての経験をもとに、学校や家庭教育の悩みについて考える連載エッセイ。今年月末~月初めにかけて、ユニセフ・アジア親善大使として視察した太平洋にあるキリバス共和国の環境問題についてお伝えします。キリバスは、地球温暖化による海面上昇によって、最も早く沈んでしまう可能性のある国の一つと言われています。「地球温暖化で水没しつつある国、キリバスから環境問題を考えるの後編ではキリバスの問題を解決するために取り組んでいることや、私たちにできることについて考えます。

キリバスの子どもたちの命を守るために

ユニセフの活動では、いつも子どもたちの命を最優先に考えています。子どもが生きることができない世界に、未来はありません。キリバスの子どもたちにとって、大きな問題は水不足や水質汚染、栄養不足などによる下痢と肺炎です。そこで、ユニセフでは感染を予防するための教育や栄養食・粉ミルクの提供、妊婦の健康診断、虐待防止などさまざまな支援に取り組んでいます。また、子どもたちの栄養失調を防ぐために、看護師が家庭を訪問して、新生児への母乳育児の大切さを伝えたりしています。女子の生理用品の普及や石けんの作り方を教えるなど、衛生状況を改善するための細かな取り組みも続けています。こうした活動によって、ワクチンの接種率を向上させることができました。

教育面では、コロナ禍で子どもたちが学校に通えなくなりました。オンラインでの授業も準備しましたが、インターネットを使えない家庭も多いため、ラジオでも授業を配信しました。しかし、ラジオもない家庭が多かったため、課題を印刷して、村ごとに配布し、子どもと学校が学習内容をやりとりする仕組みを作りました。このとき、学校にプリンターがないことが問題となりました。そこで、ユニセフがプリンターを寄付することで、子どもたちが勉強を継続できるようになり、このプロジェクトは大変喜ばれました。

ほかにも、子どもたちを守る法律を制定するために政府と協力したり、国際的な呼びかけもしています。子どもたちの命と権利を守るためにあらゆる面で取り組んでいく必要があります。

今日はキリバスですが、明日は我が身です

遠い南の島での出来事のように思われるかもしれませんが、この問題は私たちの問題なのです。私たちが行動しない限り、温暖化は止まりません。温暖化は「これ以上進まないようにすることはできても、元に戻すことはできない」と言う専門家もいます。現状でも、キリバスの人々にとっては厳しい状況なので、これ以上悪くならないようにしないといけません。
現段階では温暖化を抑えることはできないように見えますが、一生懸命に考えれば必ず解決策が見つかるものです。自然エネルギーの技術は日本を含めて、数十年前から存在しています。風力や太陽光、海、振動などのエネルギーが研究されてきています。
しかし、それを一般に普及させるまでが大変で、インフラも変えるためには多額の費用と労力が必要です。とりあえず石油がある限りは使い続けようと、問題を軽視している気がします。
これを変えるためには企業や政府の強い力が必要で、個人にできることは限られているように思えます。

それでも私たちも生活を変えることは可能です。例えば、紙の使用量は確実に少なくなりました。ゴミも分別し、減らそうと努力しています。服をリサイクルしたり、ペットボトルを使わずに自分のボトルを持ち歩く人も増えました。私も少しの距離なら、車を使わずに歩くようになりました。息子たちはさらに進んでいます。彼らは物をほとんど買いません。高校時代の穴の開いたTシャツを今でも着ています。三男は環境に配慮した仕事にしか就きたくないと言います。そして、環境負荷の大きい牛肉や豚肉は避けて、プラントベースや鶏肉、魚を食べるようにしています。少しずつですが、私たちは変わっているのだと思います。

今日はキリバスですが、明日は我が身です。日本にも海抜が低い大都市がいくつもあります。川が氾濫する恐ろしさはみんなが知っています。
海が温かいと台風の発生が多くなり、大型でゆっくりと動くようになる傾向があります。水分をたくさん含んでいるので雨が降りやまず、水害を引き起こします。また、最近の日本では、異常気象により夏は命に危険があるほどの猛暑で、冬は寒くて凍えるほどです。
環境問題はすぐには効果が出ません。その環境問題に取り組めるのは、私たちが人間だからです。私たちは目に見えないことを想像し、未来のために行動することができます。
自分たちがいなくなった後に成果が現れるかもしれないことに、それでも取り組めるのです。環境問題に取り組むのは、高度で人間性豊かな活動です。想像力と忍耐が必要で、そして見えない成果のために、自分のためではなく誰かのために行動することだからです。

子どもたちの心にタネをまいてください

誰かの心を動かすためには、知ってもらうしかないと思っています。どんな問題でもまず正しい知識が必要で、知ることからスタートです。キリバスの話を子どもたちに教えることで、子どもたちの心に一つのタネをまくことができます。それがいつの日か、「これなら解決できるんじゃない?」「私にも貢献できることがあるかも」という思いにつながれば良いと考えます。

先生方はよくご存じだと思いますが、教育の成果が出るまでには時間がかかります。卒業した子どもたちがどう成長していくかは、何年も経たないとわからないでしょう。
環境問題に対する教育も同じです。今できることは、子どもたちに伝えることです。時間はかかるかもしれませんが、いつの日か変わっていけると信じています。
学校の先生は子どもたちに知識を分かりやすく届けることができる、最も身近な存在です。沈みつつあるキリバスのことや、被害を受けた人々を支援する活動があること、私たちの行動が地球に与える影響などについて、ぜひ子どもたちに語ってください。

アグネス・チャン

1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)

AGNES CHAN OFFICIAL SITE ~アグネス・チャン オフィシャルサイト

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