約束を守る力を育てるために大切なこと
私、アグネス・チャンがこれまで学んだ教育学の知識や子育ての経験をもとに、学校や家庭教育の悩みについて考える連載エッセイ。子どもが約束を守らない場合、もしかしたら約束の仕方を見直す必要があるのかもしれません。今回は「約束を守る力を育てるために大切なこと」をテーマに考えました。
子どもの年齢によって約束するときのやり方を考えましょう
親との約束を守らせるべきかどうかは、子どもの年齢によって考え方を変える必要があります。
幼い子どもの場合は、正しいことやしてはいけないことを教える責任が親にはあります。親が子どもになぜその約束は大切なのかを説明して、約束を守るように促しましょう。
しかし、思春期になると親子で話し合って、無理な約束を強要しないことも大事です。例えば、友達と遊びに行くときに「夕方5時半までに帰ってきなさい」と約束しても、子どもは友達とハンバーガーを食べてから帰りたいと考えているかもしれません。そのような場合、子どもの意見を聞いて合理的で守りやすい約束をしたほうが、子どもは約束を守ることができます。
無理な約束を強いると、思春期の子どもは「私を支配しようとしている」「親の所有物のように扱われている」と感じ、反抗的になったり、自分は尊重されていないという気持ちになったりしてしまいます。親子の約束のキーワードは「納得」です。子どもが納得できる形で約束を交わすことが大事です。
私の場合、中学生になるまでは、子どもが一人で学校に通う事を許していませんでした。友達の家に行くときは送り迎えをしました。公園にも一緒に歩いて行き、子どもたちもその点は納得してくれていました。中学生からは一人で学校に通うことも、友達と出かけることも許すようになりました。
スマホやゲームをご褒美とするような約束はしない
「宿題が終わったら、スマホを使っていい」「勉強したらゲームをしてもいい」などの条件付きの約束は教育上ちょっと問題があります。親がやってほしくないことをご褒美として与えると、子どもは宿題をすれば悪い事も許してもらえると考えてしまいます。条件を付けるのは良い教育方法とは言えないと思います。
スマホを制限したいのであれば、宿題とは切り離して区別する必要があります。宿題は当然にやるべきものであり、スマホの使用とは別に考えたほうが良いのです。そうしないと、「宿題は苦痛。スマホは楽しいけど、ママが反対する」「罪悪感があるのにやめられない」と、子どもを悩ませる複雑な状況を作り出してしまいます。こういった状況では、子どもは宿題などのやるべきことに対してネガティブなイメージを持ってしまいます。
そして、たとえ約束を守ったとしても、子どもはそのことを誇りに思えません。親の権力に屈したという惨めな気持ちになってしまうからです。これは良い約束の形ではないでしょう。ですから、スマホやゲームをご褒美として与えるような約束はしないほうが良いのです。
もしスマホを使わせるなら、ご褒美や娯楽ではなく学びや知識を増やすためのツールだという意識を持たせて、「楽しく知識を増やすような使い方だったらいいわよ」と話したほうが良いでしょう。
そして、幼い子どもにゲームをさせることは避けて、できれば高校生くらいまではゲームを控えたほうが良いと考えます。なぜかというと、小さな子どもは脳のコントロールが未熟で、さまざまな刺激に影響を受けやすいからです。年齢が小さいほど依存しやすく、やめさせることが難しくなります。
守ることができる約束なのか見極める力も必要
先日、飛行機の中で、私の後ろの方に座っていたお母さんが、泣きっぱなしの子どもをなだめようと「ごはんを食べたら、15分だけ動画を見てもいい」という約束をしていました。子どもはお腹が空いていなかったか、何時間もずっと泣いていました。私はこのやり方は子どもの反抗心を引き出してしまう方法だと思いました。子どもは親と根比べをしてしまうのです。そのお母さんは結局負けて、動画を見せてしまいました。子どもは長く泣けば、お母さんは思い通りになると覚えてしまうのです。親は自分が作った条件付きの約束を、自分で破ってしまうことになります。
約束をするときには、子どもが納得することが大事です。例えば時間の管理について約束するとき、子どもと話し合って決めるのが良いと思います。「明日は学校だし、宿題もあるよね。友達とも遊びたいですよね。宿題はどのくらいかかりそう?友達とどのくらい遊ぶ?どうやって時間を使うか一緒に考えよう」と、限られた時間をどう使うのかを相談しながら決めるのが望ましいと思います。親が一方的に全ての時間の使い方を決めるのではなく、子どもと一緒に計画するのが子どもたちの時間管理の訓練になるのです。
基本的に子どもの時間は子どもの人生です。時間の積み重ねが人の人生になるのです。親は子どもを守る責任がありますが、管理者ではありません。子の意見を尊重することが大切です。時間をどう使うかは、子の人生がどうなるのかを決めてきます。小さいころから子ども自身に時間の使い方や約束について考えさせることで、将来的に賢い時間の管理ができるようになります。
親として、子どもが「できない約束はしない」
「約束したら絶対に守る」という姿勢を身につけることが目標です。
親がいないときでも、子どもは守れない約束はしない、約束したら必ず守るようになってほしいと思います。そのためには、子どもと話し合って、納得できるような約束を重ねることが大切だと思います。そして、忘れてはいけないのは、親も子どもと約束をしたら、必ず守ることです。
アグネス・チャン
1955年イギリス領香港生まれ。72年来日、「ひなげしの花」で歌手デビュー。上智大学国際学部を経て、78年カナダ・トロント大学(社会児童心理学科)を卒業。92年米国・スタンフォード大学教育学部博士課程修了、教育学博士号(Ph.D.)取得。目白大学客員教授を務め、子育て、教育に関する講演も多数。「教育の基本は家庭にある」という信念のもと、教育改革、親子の意識改革について積極的に言及している。エッセイスト、98年より日本ユニセフ協会大使、2016年よりユニセフ・アジア親善大使としても活躍。『みんな地球に生きるひと』(岩波ジュニア新書)、『アグネスのはじめての子育て』(佼成出版社)など著書多数。2009年4月1日、すべての人に開かれたインターネット動画番組「アグネス大学」開校。2015.6.3シングル『プロポーズ』release!!(Youtubeで公開中)
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