番外編「全国学力・学習状況調査の算数の問題のスクプレ化」 スクールプレゼンターで問いを引き出す算数授業づくり(第20回)
今回は番外編として、全国学力・学習状況調査の算数の問題を扱います。
全国学力・学習状況調査の問題で算数力向上を
私は、全国学力・学習状況調査で取り上げられる問題が大好きで、毎年楽しみにしています。理由は下記の3つです。
- 算数の学習過程のイメージの具体例になること。
- 日常生活や社会の事象の問題が多いこと。
- 児童の苦手な部分を把握できること。
1.については、各問題を解いていく過程が、「【算数編】小学校学習指導要領(平成29年告示)解説」P.8の「算数・数学の学習過程のイメージ」と重なっているからです。例えば、令和5年度の問題「1 伴って変わる二つの数量の関係について考察すること(椅子)」では、一度、椅子の数と高さを表にまとめた後、「比例しているかどうか」という視点で結果を見直す流れになっています。これは、プロセスC(焦点化した問題→結果)から、プロセスD2(結果→数学の事象)への学習過程であり、児童の統合的・発展的に考える姿の具体例として捉えることができます。
2.については、算数を学ぶ意味を実感できる場面として、日常生活や社会の事象の問題が、算数を使って考えたときにすっきりした経験が挙げられます。例えば、令和5年度の問題では、椅子の重さを求めたり、辞典が本棚に収まるか考えたりする問題が取り上げられています。算数がテスト以外でも役に立つことが分かれば、算数好きを増やすことができるからです。
3.については、今まで自分が教えた経験や目の前の児童の様子から、苦手な箇所を把握することが多いと思いますが、全国学力・学習状況調査の報告書を読むと、さらに理解が深まるからです。例えば、先ほどの問題では、「比例しているかどうか」については正答率88.6%ですが、間違った子の中には比例していないと判断できても対応する数を適切に用いることが出来なかった児童が3.8%いたことが書かれています。授業を構想するとき、そのような児童がいると考えておくことは、対応力を高める上で大切なことです。

このように、全国学力・学習状況調査を読み解くことは、教師自身の算数力を向上させる上で大いに役立つと考えます。私はスクールプレゼンター(以下スクプレ)を使って、授業を想定しながら全国学力・学習状況調査の問題を参考に教材を作ることにしました。現在33問あります。全ての問題をスクプレで作るのではなく、「ICTを使った提示に向いている問題」や「正答率の低い問題の理解を促す手立て」などの視点で教材化をしています。これを「スクプレ化」と名付けています。興味のある方は、スクプレ道場(2025.3にクローズしました。)で「全国学力学習状況調査」と検索すると、探すことができます。
お勧めのスクプレ化した全国学力・学習状況調査の問題
アニメを活用したもの
①小5算数 角柱の側面の横の長さ(2020全国学力・学習状況調査2-2)
底面が正方形の四角柱の構成要素をもとに、紙の横の長さを求める問題です。紙面では表現の難しい角柱の側面に紙を貼る様子を、アニメで提示できるようにスクプレ化しました。すぐ繰り返し見られるように、繰り返しボタンも付けました。問題提示や自力解決後の場面で使います。
②小5算数 速さを求める式の意味(2021全国学力・学習状況調査1-3)
速さの問題です。正答率56.0%だったのでスクプレ化しました。紙面では表現の難しいアとイの1分間あたりの進む道のりの様子を、矢印が進むアニメで提示できるようしました。「アだけ」「イだけ」「アとイ同時」と分けて提示できます。自力解決後の場面で使います。
③小5算数 テープ(2023全国学力・学習状況調査2-4)
高さが等しい三角形について、底辺と面積の関係を基に面積の大小を判断する問題です。正答率21.1%だったので、スクプレ化しました。[い]の三角形が等積変形し[あ]と同じ三角形になるアニメを提示することで、面積が等しくなることを視覚的に理解させることができます。自力解決後の場面で使います。
アクション機能を活用したもの
④小3算数 アンケートの結果調べ(2018・H30全国学力・学習状況調査B3)
複数の棒グラフの問題です。正答率20.9%だったのでスクプレ化しました。子どものイラストをクリックすると、吹き出しの部分を提示できるようにしました。また、棒グラフは「7月だけ」「12月だけ」と分けて提示できます。問題提示や自力解決後の場面で使います。
⑤小4算数 ハンカチ・ティッシュペーパー調べ(2017・H29全国学力・学習状況調査B-4-1)
二次元表の数値を論理的に考える問題でする。正答率40.2%だったのでスクプレ化しました。はじめに式を隠して提示できるようにし、自分で分かる所を考えさせることができます。アイウエオはクリックすると数値が提示されます。式は黄色ボタンで表示/非表示できます。問題提示や振り返りの場面で使います。
⑥小4算数 教室の気温のグラフ(2020全国学力・学習状況調査4-3)
折れ線グラフの問題です。2つの折れ線グラフは読み取るのが難しいのでスクプレ化しました。2時間ごとに順を追って提示できるようにし、折れ線グラフの変化の様子を分かり易くしました。また、問題も選択形式にし、どの子も問題に関われるようにしました。問題提示の場面で使います。
はさみ機能を活用したもの
⑦小4算数 台形を組み合わせた図形(2019・H31・R1全国学力・学習状況調査1-2)
2つの台形を組み合わせた図形を探す問題です。正答率60.5%だったので、スクプレ化しました。スクプレ上で図形を分割したり図形をずらしたり回したり裏返したりすることができるようにしました。はさみの赤丸をクリックして、線を引っ張り、青丸をクリックすると、引いた線に沿って切れます。問題提示や自力解決後の場面で使います。
「変形・拡縮可」を活用したもの
⑧小4算数 九九の表(2018・H30全国学力・学習状況調査B-4-2)
九九の表で見つけたきまりを発展的に考察していく問題です。正答率59.8%だったのでスクプレ化しました。「だったら…」と考えた時に長方形を大きくしたり移動させたりできるようにしています。ボタンを押すとそれぞれ赤・緑・青・ピンクの四角を表示/非表示でき、選択すると大きさを変えられます。また、青では数学的な表現のサンプルも例示できます。問題提示や振り返りの場面で使います。
⑨小5算数 運動調べ(2023全国学力・学習状況調査4-1)
百分率で表された割合の意味を考える問題です。正答率46.3%だったのでスクプレ化しました。図を用いてそれぞれの基準量の30%を提示し、その比較量が問題の数値と合っているかどうかを検討させます。ページを送るとグラフが表示され、図の赤い部分の長さを自由に変えることができます。自力解決後の場面で使います。
「Jamboardの算数テンプレート」をさらに追加しました!
自作したJamboardの算数テンプレートを時々追加しています。2023年9月30日現在で210件となりました。上記で紹介した全国学力・学習状況調査をスクプレ化した問題もあります。下記のサイトから閲覧可能ですので、授業準備の簡略化やヒントになれば幸いです。Jamboardのワークシートの詳しい作り方は、第7回、第8回の記事をご覧ください。
- 「jamboardの算数テンプレート」ページ
学年ごとに整理され、アイコンで一覧表示されます。
※Jamboardのテンプレートのコピーは、スクールプレゼンターを購入した先生・学校に限ります。 - スクールプレゼンター教材共有サイト「スクプレ道場」(2025.3にクローズしました。)
「Jamboard」で検索すると、Jamboardのワークシートのリンクが一覧表示されます。各教材のページでURLをクリックすると、Jamboardのワークシートのページにジャンプできます。
こちらも是非ダウンロードして使ってみてください。なお、残念なことに、GoogleがJamboardの段階的に終了を発表しました。2024年10月1日から編集ができなくなり、10月1日~12月31日の期間は「表示専用」モードとなります。現在、代わりとなるホワイトボードアプリを探しています。操作が簡単で低学年でも使え、一覧表示ができるものがあるといいのですが…。
次回は、3年「1けたをかけるかけ算」を取り上げます。お楽しみに!

参考資料
種市 芳丈(たねいち よしたけ)
階上町立道仏⼩学校 教頭
ICTを活用した算数授業に取り組んでいます。特に、「スクールプレゼンター」は10年以上使っていて、お気に入りのアプリの1つです。自分の作った教材が下記のサイトに約600ファイルほどあります。
スクールプレゼンター教材共有サイト「スクプレ道場」(※2025.3にクローズしました。)
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