2025.05.21
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算数くじで「はてな?」を引き出す<3年:かけ算> 「はてな?」「なるほど!」「だったら…」で作る算数授業(第2回)

第2回では、数字のカードを使用した、3年「かけ算」の授業実践を紹介します。

数字カードを使った算数くじ

「算数くじ」とは、当たりかどうかを考える過程で、図形の性質やきまり、法則に気付くことのできる教材を指します。これまでの連載で「算数くじ」として下記の2つを紹介しました。

  • 第6回
    ストローを使った三角形の構成活動で、自分が作った三角形に当たりがないか判断する教材(3年「三角形」)
  • 第23回
    向きを変える図形を見て、三角形か四角形なのかを判断する教材(2年「三角形と四角形」)

今回取り上げた算数くじ「くるりんひゅー」は、下記のような手順で行います。当たりかどうかを考える過程で、当たりの数が9の段であることや、2つの数の差で当たりの数が決まることに気付きます。

  1. 当たりとなる2桁の数を紙に書いて隠しておく。
  2. 1から9までの数字カード9枚を用意し、子供の2枚選ばせる。
  3. 2枚のカードで大きい数を作る。
  4. その数の十の位と一の位を入れ替える。(くるりん)
  5. 大きい数からくるりんした数を引く。(ひゅー)
  6. 当たりの数を発表する。

この教材には元ネタがあります。正木孝昌先生(全国算数授業研究会第2代会長、前國學院栃木短期大学教授)の「がったんぴい」という教材です。

何度かこの授業を拝見し、正木先生が子供の「鯛」を引き出していく授業に感動したことを今でも覚えています。教材は同じでも正木先生が引き出す子供の姿には全く及ばないため、あえて同じ名前にしていません。

ちなみに、「鯛」とは、正木先生の算数の授業論を語る上で大切な言葉です。著書『受動から能動へ―算数科二段階授業をもとめて―』(2007年発行・東洋館出版社)からそれが分かる部分をいくつか引用します。

  • 鯛というのは、子どもたちの「やってみたい」「調べてみたい」「計算してみたい」という心のことである。
  • 授業するとき、まず考えなければならないのは、子どもたちの「やってみたい」を引き出すことである。
  • 授業の初めは、子どもたちは受動的である。「今日は何を勉強するのかな」と受け身に考えている状態である。その子どもたちがある場面から「やってみたい」「調べてみたい」と能動的になる。その瞬間をどのようにつくるか。それが、授業者の仕事である。

授業力向上に向けて、経験の浅いうちはやり方が書いてあるHOW TOものを読むことが多いと思います。自分もそうでした。しかし、いざ自分のクラスで実践するとうまくいかないこともありました。今思えば、表面しか理解していなかったことに要因があります。コスパやタイパが悪いと思えるかもしれませんが、実際の授業を見て、子供の姿の違いに気付き、研究協議などで授業者のこの授業に対する思いを聞いて、自分の思いと比べることで、表面には見えない部分について考える機会が生まれ、ひいては、授業力向上につながると思います。

正木先生は約20年前に退官されたため、なかなか授業は見ることは難しいですが、この本では、「がったんぴい」だけでなく、1年「長さ比べ」、3年「2桁×1桁」、5年「電卓早押しゲーム(速さ)」などの授業への思いが詳しく書かれていいます。自分の算数授業を変えたい先生が読めば、きっと大きく心が貫かれることでしょう。絶版になっており、入手困難ですが、本当にお薦めです!

授業の様子

はてな?

まず、黒板に「くるりんひゅー」と書いて、次のように言いました。

「今日は『算数くじ』をします。当たりが出て人は、今日はいいことがあるよ!(ざわざわ)…静かになったら黒板にやり方を書きますね。」

以前の連載の第13回第31回でも書きましたがその教材のやり方を説明する場面は慎重さが必要です。ざわざわしているときに説明をしても上手く伝わらず、聞き逃しや勘違いが生まれ、本時の教材の話題について行けない子が出でくる可能性が高まるからです。今回は、「静かになったら書く」という手法をとりました。

「…くるりん?」
「…ひゅー?」

はじめは静かに心の中で読んでいたようでしたが、予想外の言葉を見て思わす数人の声が漏れました。

「『くるりん』と『ひゅー』が気になった人は?」

全員の手が挙がりました。

「『くるりん』とは数字カードを入れ替えることです。『ひゅー』は引き算をすることです。」と説明すると、「なんだ簡単!」と先ほどの子たちが笑顔になりました。

「(黒板に1~9までの数字カードを貼って)では、やってみたい人はいますか?」

指先までぴんと伸ばしたAさんを指名しました。

「まず、先生は当たりの数をここに書いて隠しますね。」

A4の紙にマジックで「27」書いた後、その紙を折りたたんでポケットにしまっておきました。

その後、Aさんは数字カードをじっと見て、「2」「3」の数字カードを選びました。

「『2』と『3』ですね、では、このカードで大きい数を作るといくつかな?」と聞くと、Aさんだけでなく周りの子も

「32!」と答えました。その数を黒板に貼ったA3の紙に書きました。

「次は何をするんだっけ?」と問いかけると、

「くるりん!」
「23ができる。」

などの声が上がりました。黒板に貼ったA3の紙に「23」を書き加えました。

「次は?」と問いかけると、

「ひゅー!」
「引き算!」
「9になった。」
などの声が上がりました。

「今、『9』って声が聞こえたけど、本当かな?ノートの計算してみよう。」と指示を出しました。

友達の声につられているだけで実際に計算していない子がいたり、実際計算していても、位をそろえないで筆算を書いたり、繰り下がりの処理をしないで計算したりする子がいるかもしれないからです。机間巡視してみんなのノートを見ました。

ほとんどの子はできていましたが、数人、繰り下がりの処理があやしかったため、黒板に貼った「32―23」を使って繰り下がりの確認をしました。

「Aさんの『くるりんひゅー』は9でした。当たりかな?はずれかな?」と言って、ポケットにしまっておいた紙を取り出して見せました。

「27?はずれだ…」とAさんはそれを見て、とても残念がっていました。

やり方が分かったようなので、次はみんなでやることにしました。

さっきと同じように当たりの数(27)を紙に書いてポケットにしまった後、子供たちに自分が使う数を2つ選んでもらい、ノートに大きい数を作って、『くるりん』してもらいました。

「では、みんなで『ひゅー』しましょう。」

机間巡視して、位はそろえて書いているか、繰り下がりで困っていないかを見ました。さっき繰り下がりで困っていた子はちゃんと計算できるようになっていました。

「さて、みんなの『くるりんひゅー』は、当たりかな?はずれかな?」

と言って、ポケットにしまっておいた紙を取り出して見せました。

「また27?はずれだ…」
「やった!当たった!」

と一喜一憂している声の中に、Bさんの次のようなつぶやきが聞こえました。

「先生、あれ?当たりの式は1つじゃないんだ…」

なるほど!

Bさんのこの発言をすぐ取り上げたくなりますが、拙すぎて伝わらない感じがしました。第1回で書いたように、その子がもう一度同じことをつぶやいたり、ほかの子も同じ内容をつぶやいたりするまで待つことにしました。

当たった子に式を発表してもらいました。

「63-36=27」
「52―25=27」

黒板に貼ったA3の紙に筆算の形で書いていると、

「あれ?3つ増やせば、同じ答えになっている!」とCさんがつぶやきました。

それを聞き、Bさんも頷いています。発表させました。

「27の式は一つじゃない。今2つ黒板にあるけど、もっとある。」

すると、Dさんがノートに書いたものを確認しながら手を挙げ、発表しました。

「計算して確かめました。あと4つあります。『96―69』、『85―58』、『74―47』、『41―14』。」

ほかの子たちもこの話を聞き、ノートに計算を始めました。

「本当だ!」
「こんなに当たりがある!」
「ねえ、先生、次は当たりそう。早く『くるりんひゅー』をしようよ!」
と盛り上がってきました。

授業には必ず分岐点があります。今、ちょうどそこです。Cさんの気付きをみんなで共有していくか、それとも次の『くるりんひゅー』をするかで悩みました…。まだ「27になる場合」しか扱っていないことから、ほか事例が増える後者を選択することにしました。事例が増えることでより統合的な見方が引き出すことを期待したからです。

「次の『算数くじ』をやりましょう、当たるかな?」

子供たちが数を選んでいる間に、当たりになる数を紙に書いてポケットにしまいました。事例を増やすため、まず、当たりが「9」になる場合をやりました。

次は、当たりが「18」になる場合に取り組みました。

「大きい数にしたかな…、まず『くるりん』…、さいごに『ひゅー』!」

と、机間巡視しながら進めていき、当たり「18」を教え、当たった子の式を発表してもらいました。

「42-24」
「75-57」

黒板に貼ったA3の紙に筆算の形で書き終えてから、

「当たりの式は、2つだけだね。」

と問いかけました。不思議なもので、「~だけだね」と言い切ると、子供たちの数学的な見方・考え方が動き出します。

Dさんは待っていたかのように手を挙げ、

「まだ、計算途中なんだけど、たぶん全部で7つあって…。」

Dさんが式を言おうとしたところを

「時間よ、止まれ!」

と静止しました。なせなら、ここは子供ひとりひとり、自分の力で探してほしかったからです。

「今、黒板には「18」になる2つ式があります。Dさんの話を信じると、あと5つあるようです。ノートにあと5つ式を書き終えたら、立ってください。」

この立たせる手法は、以前の連載の第5回第23回第35回でも紹介したとおり、すべての子を問題と関わらせる有効な手立てです。

しばらくすると、半分くらいの子はどんどん計算している中、鉛筆が止まっている子が数人いました。

静止されていたDさんに、一言ヒントを出してもらうことにしました。

「2つ増やす。」

とDさんが言うと、「あっ!」と声が上がり、すぐ全員立ち上がりました。

だったら…

あと3分でチャイムが鳴ります。もう振り返りをしないと、子供たちの集中力が一気に下がります。

「では、授業の最後にノートに振り返りを書きましょう。その中に必ず『だったら…』を書いてください。今日の勉強を使ってやってみたいことや似ていると感じたことを書きましょう。」

子供が書いていると、終わりのチャイムが鳴りました。

第1回で紹介したとおり「やってみたいこと」は発展を、「似ていると感じたこと」は統合を意図しています。子供たちの「だったら…」をいくつか紹介します。

【Eさん】だったら、自分も当たりを決める先生役をやりたい。
【Fさん】だったら、先生になって「72」を書きたい。「91―19」だけだから。
【Gさん】だったら、どの当たりの数も9の段の答えなっていることを説明したい。

振り返りを読みながら、上記の分岐点と感じた場面で後者ではなく前者を選択していれば、これらの考えを授業の中で発表させ、価値付けられたと思いました。だとすると、子供たちが触れる事例をどうやって増やすか…と反省しました。

次回は、3年「かけ算の筆算」を取り上げます。お楽しみに!

種市 芳丈(たねいち よしたけ)

小中一貫三戸学園 三戸町⽴三戸⼩学校・三戸中学校 教頭
子供たちが夢中になる算数授業づくりに取り組んでいます。算数専科や複式学級の指導の経験あります。今、チャレンジしているのは、ロイロノートを活用した算数授業です。算数の教材づくりの会「ガウスの会(代表:細水保宏)」の会員。

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