2022.10.25
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

「国語授業」の説明書〜根本・本質・原点〜(20回)

一流の教師と呼ばれる先生は、他の教師となにが違うのでしょうか。私は「自己の解を持っているかどうか」だと考えます。私が出会ってきた一流の先生方は皆、そういった方々でした。そのような先生を目指して考えた「詩の鑑賞」の授業についてお話しします。

木更津市立鎌足小学校 山本 裕貴

【一流の教師とは】

世の中に「一流」と言われる先生がいます。一流の教師とは、どのような教師のことを指すのでしょうか。あなたにとって、一流の教師とは、どんな先生のことですか。
授業がうまい、学級経営がすばらしい、生徒指導が抜群、コミュニケーション力に秀でている、カリスマ性があるなど、多くの要素が考えられます。

私は幸運なことに、今まで一流の先生に触れ合う機会が多くありました。そしてお話をさせて頂いたり、行動を見たりするなかで「ああ、やっぱりこの先生は一流と呼ばれるだけあるな」と感じることがあります。
私は「一流の教師は他の教師と何が違うのか」ということを長年考えてきました。そして現在辿り着いた答えがあります。

【自己の解を持っているか】

一流の教師とそうでない教師を分けるのは「自己の解を持っているかどうか」だと考えます。一流の教師は、質問をされたときに、即座に答えを言うことできます。それは自己の解を持っているからです。これだけでは分かりにくいと思います。具体的に説明します。
給食を例に考えてみましょう。給食の配膳が遅いとします。となると、担任の先生としては、配膳を早くしたいと考えますよね。では、どうすればよいでしょうか。

給食の配膳が遅いとき、どうすれば良いですかと尋ねれば、恐らく全ての先生が答えることができると思います。例えば「先生が率先垂範してやればいいよ」「早く配膳するメリットを子どもたちと話し合えばよいと思うよ」など教えてくれると思います。
しかし、これは極めて抽象的であり、教えてもらったことをやっても上手くいくとは限りません。極論を言ってしまえば、教育実習生でも思いつくことだと思います。

私が一流の教師だと考える奈良県公立小学校教諭の土作彰先生は次のように仰います。
「配膳は給食当番だけでするものではない。全員でするものだ」
土作先生の学級の配膳は、私も動画で見たことがあります。誰一人として参加していない子はいません。そして驚異のスピードで配膳が完了します。

一流の教師は、具体的かつ再現性のあることを即座に答えることができます。それが一流の教師の条件でないかと思います。
では何故そのようなことができるのでしょうか。

【気づき、学び、考え、実践する】

一流の教師は、問題にすぐ気づきます。例えば「うちの学級は配膳が遅いな」というようにです。そして、それを解決するために学びます。それは他の先生からだったり、書籍からだったり、多くの情報をインプットします。
その多くの情報を元に考えます。「うちの学級にはどの方法が適しているのだろう」そして考えたことを実践します。上手くいくことばかりではありません。でも、上手くいかなかったら、違う方法を試すだけです。そうして実践を繰り返すうちに、自己の解を持つようになります。

このようなサイクルをしているから、一流の教師は、どのような質問をされても即座に答えることができるのだと私は考えます。
もう少し踏み込んで話すと、この「自己の解」は万人にとっての正解でなくても良いと思います。「色々試してきたけど、自分はこの方法が上手くいくと思う」ということです。そして、それを実際にやってみせることができるというのが重要だと考えます。
私は一流の先生方には遠く及びません。しかし、そこを目指す努力はしているつもりです。そのような姿勢が、教師には大切なのではないでしょうか。

さて、前置きが長くなりました。私の師である野口芳宏先生は、誰もが認める一流の教師です。野口先生の詩の授業で「うとてとこ」というものがあります。それを目指して考えたのが、今回の授業です。

【CASE20 信号】

今回は三好達治「信号」を教材として詩の鑑賞指導についてお話しします。

◯習得学力
1   語彙を増やすこと
2   場面を想像することができる力

◯単元計画 全1時間

☆1時間目の流れ 
本時の目的→語彙を増やし、詩を鑑賞する

(教材)
信号            三好達治
小舎の水車   薮かげに一株の椿
新らしい轍に蝶が下りる   それは向きをかへながら
静かな翼の抑揚に   私の歩みを押しとどめる
「踏切よ   ここは・・・・・・」   私はたちどまる

※教材を一行ずつ板書していきます。初めに全文を見せないことで、子どもは次の展開に期待感を持ちながら学習に取り組むことができます。野口芳宏先生の「巻物方式」をもとにしています。

(学習内容)
・題名に出合う
『信号』
先生「どんな内容だと思いますか」
児童「交差点の話かな」
児童「車が出てくる話だと思うよ」

・語彙を増やす
『小舎の水車』
先生「これは、『こや』と読みます。舎が入っている熟語はなにがあるでしょうか」
学舎、校舎、牛舎、兵舎、舎弟、田舎、舎短取長  など多くの語彙を教える

・場面を想像する
『藪かげに一株の椿』
先生「話者が見ているのは『A椿の花』『B椿の木全体』どちらですか」
→正解はB  一株というのは根っこまで含めた全体のことを指す

・題名との繋がりに気づく
『新らしい轍に蝶が下りる   それは向きを変えながら』
先生「蝶は何色ですか」
→正解は黄色   信号という題名の意味が明らかになる

・話者の心情を想像する
『静かな翼の抑揚に    私の歩みを押しとどめる』
先生「話者はどんな心情でしょうか」
児童「止まったではなく、留まったから、進めないのだね」
児童「蝶の抑揚に見とれているのかな」

・台詞について考える
『「踏切よ   ここは・・・・・・」   私はたちどまる』
先生「台詞を言っているのは『A話者』『B蝶』どちらですか」
→正解はB   話者が言うならば「蝶よ    ここは・・・・・・」と話しかける対象が蝶になるはず

・感想を伝え合う
先生「鑑賞した感想を話し合いましょう」

以上のような流れで授業を展開することで「語彙を増やすこと」ことができたり「場面を想像することができる力」が身についたりすると考えます。少しでも参考になればうれしいです。
​​​​​​​
というわけで今回は「詩の鑑賞」についてお話しました。次回は「説明文の指導」についてお話ししたいと思います。ここまでお読み頂き、有難うございました。

山本 裕貴(やまもと ゆうき)

木更津市立鎌足小学校
千葉大学大学院教育学研究科学校教育学専攻
木更津技法研所属

高校、特別支援学校、小学校算数専科を経て、現在小学校の学級担任をしています。
人を幸せにするには、どうすれば良いのか。たどり着いた答えが小学校の先生でした。
教育の根本・本質・原点を問い続けていきます。

ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

pagetop