「国語授業」の説明書(1回)
国語の授業は難しいと言われます。それは教師が身に付けさせたい力について不明確だからです。 そこで今回の連載は「習得学力を明確にした国語授業」をテーマにお話しします。
木更津市立鎌足小学校 山本 裕貴
【利他の教育】
みなさん、こんにちは。山本裕貴です。幸せなことに、30期も連載を受け持たせていただくことができました。本当にうれしく思います。今期もよろしくお願いします。
私の師である植草学園大学名誉教授の野口芳宏先生の教育哲学に「利他の教育」という考え方があります。利他とは何でしょうか。手元の辞書を引いてみましょう。広辞苑には次のような記載があります。
利他……自分を犠牲にして他人に利益を与えること。他人の幸福を願うこと。
教育とはまさに「利他」であることが求められると思います。他人の幸福を願うことが、教育の原点ではないでしょうか。しかしながら、利他的であることは凡人の私には難しいです。利他の対義語は「利己」です。意味は「他人の迷惑を顧みず、自己の利益だけを追求するさま」です。利他的でありたいと思いますが、少し油断すると、すぐに利己が顔を出します。
そんなときはいつも野口先生の言葉を思い出します。
「人がこの世を去るとき、手に入れたものは全て失い、与えたものだけが残る」
教育とはまさにこの言葉に集約されていると思います。
私の連載が、利己的ではなく、利他的なものになるよう努力していきたいと思います。
【若手教師の苦悩】
さて、初任の先生をはじめ、若手の先生が悩むことはなんでしょうか。私は主に「授業づくり」と「学級づくり」の2つだと思います。何故、この2つに悩むのでしょうか。私は「見たことがない」「やったことがない」が理由であると考えます。
現行の教員養成システムでは、教員免許を取得するために大学で必要科目を履修する必要があります。「国語科教育法」など教授法を学ぶ科目も用意されています。しかし、それらで学ぶことと、現場での仕事に大きな乖離があると思います。
小学校では学級担任制をとっています。ですので、3月まで大学生だった方も4月から学級担任として、たった一人で全教科及び学級経営を任されます。つまり、十分な練習をさせてもらえないまま、熱意・やる気・希望を糧に教壇へ立つのです。
しかし、見たことがない、やったことがないのでやり方が分かりません。ですから、自分が子どものころを思い出したり、己の道徳心に従って対応したりします。「いやいや、教育実習があるじゃないか」と反論が聞こえてきそうですが、たった4週間という限られた期間で対応できるほど、授業づくり、学級づくりはたやすいものではありません。
【習得学力を明確にした国語授業】
では、どうすれば良いのか。私は「研修期間」を設けるべきだと考えます。例えば医者になるには「研修医」の期間が必要です。そこで年間を通して、実務を学ぶのです。小学校も同様に1年間の「研修教員」期間が必要だと思います。ベテランの先生のもとで、見させてもらって、やらせてもらって、実践的内容を学ぶ必要があると思います。
若手の先生が授業づくりで悩みやすいのが国語です。その理由は「何を身に付けさせればよいのか」が不明確だからです。教材研究をする中で、単元を通して身に付けさせたい学力が明確であれば、おのずと授業展開も決まってきます。
というわけで、今回の連載は「習得学力を明確にした国語授業」についてお話していきたいと思います。最後までお付き合いいただけたら幸甚の極みです。
【CASE1 どちらを選びますか】
私の実践事例をもとにお話ししますので、学年に偏りが出てしまうことをご容赦ください。今回は光村図書5年「どちらを選びますか」の単元計画をお話しします。
◆習得学力
1 ディベートをする力
2 論理的文章を書く力
◆単元計画 全3時間
☆1時間目の流れ
本時の目的→ディベートの仕方を知ること
・話題を提示する。
教師「みなさんはペットを飼うとしたら、犬と猫どちらがよいですか」
・ディベートの流れを説明する。
教師「主張(1)→質疑応答→主張(2)→判定の順番を3人組で行います」
・教師作例を提示する。
教師「主張の構成を確認しましょう」
・模擬ディベートをさせる。
教師「先生の作例をもとに、司会、犬派、猫派の役割でディベートの練習をしましょう」
☆2時間目の流れ
本時の目的→2つの立場から文章を書くことができるようにする。
・前時の復習をする。
教師「ディベートの流れを3人組で確認しましょう」
・話題を提示する。
教師「今日はカレーライス派、ラーメン派の2つの立場の主張文を書きます」
・カレーライスの主張文を書かせる。
教師「主張(1)まで書いたら先生にもってきてください」
それぞれ途中までできたら持ってこさせ、教師が添削をする。
・ラーメンの主張文を書かせる。
教師作例を手本にしても良いし、自分で構成を考えてもよい。
・次時の予告をする。
教師「では次回は、自分の主張文をもとにディベートをします」
※書き終わらない子どもは、朝自習を使って教師と書き上げる。
☆3時間目の流れ
本時の目的→自分の書いた文章で、ディベートができるようにする。
・前時の復習をする。
教師「自分の書いた文章を黙読して確認しましょう」
・ディベートをさせる。
教師「司会の進行に沿って、ディベートをしましょう」
司会、カレーライス派、ラーメン派それぞれ行うため、3回ディベートを行う。
・全体でまとめをする。
教師「1つの問題を2つの立場で考えることで、より良い解決方法が見つけやすくなりますね」
・感想を書かせる。
教師「学習用語を使って、感想を書きましょう」
この単元での学習用語は「ディベート」「司会」「質疑応答」「論理的」などである。
このように、単元の習得学力を明確にすると、本時の目的も明らかになります。本時の目的を達成するにはどうすればよいか考えると、本時の学習内容も決まってきます。学習内容が決まれば、指導法も決まります。授業をする上で一番に考えることは、「どんな力を身に付けさせたいか」です。しかし、実際の研究授業などでは指導法研究に偏っているように思います。授業づくりをするときは根本・本質・原点を常に考えていくことが肝要です。
というわけで今回は「どちらを選びますか」における習得学力を明確にした国語授業についてお話しました。少しでも先生方のお役に立つことができればうれしいです。ここまでお読みいただきありがとうございました。
山本 裕貴(やまもと ゆうき)
木更津市立鎌足小学校
千葉大学大学院教育学研究科学校教育学専攻
木更津技法研所属
高校、特別支援学校、小学校算数専科を経て、現在小学校の学級担任をしています。
人を幸せにするには、どうすれば良いのか。たどり着いた答えが小学校の先生でした。
教育の根本・本質・原点を問い続けていきます。
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