2021.12.24
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

「国語授業」の説明書~国語の根本・本質・原点~(5回)

「大造じいさんとガン」これは多くの教科書に載っている不朽の名作です。この作品を覚えている大人は多いと思います。しかし、この作品でどんな学力をつけたか覚えている大人は少ないのではないでしょうか。 今回は「大造じいさんとガン」の単元計画についてお話しします。

木更津市立鎌足小学校 山本 裕貴

【主人公は誰か?】

「大造じいさんとガン」は多くの教科書で採用されている名作中の名作です。しかし、この作品は教科書によって僅かに書き方が違います。文章が常体であったり、敬体であったり、前書きがあったり、なかったりします。どれが優れているということはありませんが、読み比べることで、それぞれの味わいに気付くことができます。
ところで、この作品の主人公は誰だと思いますか。大きく2つに意見が分かれると思います。

 A・・・大造じいさん
 B・・・残雪

これは専門家でも意見が分かれるところです。あなたはどちらだと思いますか。
私はこの物語の主人公は「残雪」だと考えます。その理由をお話しします。

【主題は何か?】

そもそも主人公とは何でしょうか。手元の辞書を引いてみましょう。

 主人公・・・事件や小説・劇などの中心人物。ヒーローまたはヒロイン。

と記載があります。しかし、これだけでは曖昧模糊としています。私の師である植草学園大学名誉教授の野口芳宏先生は主人公の定義を次のように述べています。

「主人公とは、主題を背負ったものである。つまり、だれの物語かということだ」

主題とは「作者が作品を通して、最も伝えたいメッセージ」のことです。では、「大造じいさんとガン」では主題を背負ったものは「大造じいさん」でしょうか。それとも「残雪」でしょうか。

【作者の思い】

椋鳩十は1905年の生まれで、戦時中も熱心に創作活動を続けています。しかし、当時は言論が封じ込められ、生活が国によって統制されることがあったそうです。光村図書出版の教師用指導書には、椋のコメントが載っています。そこで、当時のことを振り返って次のように述べています。

「本当に書き苦しい時代であった。こういう国のあり方については、内心不満に感じている者はかなりいたが、これを思い切って口に出そうとはしなかった。国の政策を批判する者には、有無を言わさず厳しい刑罰が下されたからである」

椋は自分の意気地のなさに嫌気を指すこともあったそうです。そんな中、次のような思いを抱きました。

「金も、名も、命もいらぬ始末に困る馬鹿者。そういう庶民の英雄になれたらなあ。そういう英雄が出てきてくれたらなあ。(中略)そういう心が、残雪というガンの英雄を生み出したのであった」

このことから私は作品の主題は「残雪の知恵と勇気」であると考えます。それを伝えたいから、椋はこの物語を生み出したのです。だからこれは「残雪の物語」なのです。よって、主人公は残雪と考えます。
それでは、「大造じいさんとガン」はどのように指導すればよいのでしょうか。

【CASE5 大造じいさんとガン】

今回は光村図書5年「大造じいさんとガン」の単元計画をお話しします。これは、元千葉県公立小学校校長の横田経一郎先生の実践を基にしています。

◆習得学力
1 自分の考えを書く力
2 異なる意見を聞き、自分の考えを広げる力

◆単元計画 全6時間

☆1時間目の流れ 
本時の目的→学習の流れを考える

教師「学習していくには、どのようなことが必要ですか」
・学習計画を立てる。ここでは、子どもの意見を汲み取り、大雑把な計画を立てる。
 1 物語を読む
 2 人物像について考える
 3 自分の考えに書いて、話し合う

教師「物語をみんなで読んでいきましょう」
・適宜、解説や発問を交えながら、範読していく。

☆2時間目の流れ 
本時の目的→物語の概要を理解する

教師「前時の続きを読んでいきましょう」
・適宜、解説や発問を交えながら、範読していく。
【解説例】
教師「自在鉤というのは、囲炉裏で鍋を吊るための道具です」「たたみ糸とは、とても頑丈な糸のことです」
【発問例】
教師「残雪は、囮のガンが罠だと気付いていたと思う人は〇、気付いていないと思う人は×を書きましょう」
正解は〇です。なぜなら「本能が鈍っている」のを賢い残雪は見逃さないと考えます。また、囮のガンは大造じいさんの口笛に反応しています。このような描写から、間違いなく罠だと気付いています。

☆3時間目の流れ 
本時の目的→人物像と物語の全体像を理解する

教師「それぞれの人物像について考えましょう」
・残雪はどんな鳥か、大造じいさんはどんな人か、作品の結末をどう思うかについて意見をノートに書かせる。

教師「意見を交流しましょう」
・ペアやグループで考えを伝え合ったあと、全体で考えを共有させる

☆4時間目の流れ 
本時の目的→自分の考えを書き、伝え合う

教師「残雪が隼に向かっていったのは、当然か否か」
・教師が発問をし、それに対しての考えをノートに書かせる

教師「意見を交流しましょう」
・3人組で考えを伝え合ったあと、全体で考えを共有させる

☆5時間目の流れ 
本時の目的→比較することで、作品の理解を深める

教師「大造じいさんとガンは、複数の作品があります」
・光村図書、教育出版の2社の教材に出合わせる

教師「それぞれ読んで、違いを比べましょう」
・共通点や差異点などに気付かせる

☆6時間目の流れ 
本時の目的→自分の考えを書き、伝え合う

教師「どちらの大造じいさんの方がすきですか」
・自分の好きな方の作品を決め、考えをノートに書かせる

教師「意見を交流しましょう」
・3人組で考えを伝え合ったあと、全体で考えを共有させる

以上が単元の流れです。少しでもお役に立てたらうれしいです。ところで、主発問である「残雪が隼に向かっていったのは、当然か否か」というのはどちらだと思いますか。当然ですか、それとも当然ではないですか。

正解は「当然ではない」です。なぜならば「ガンは隼には勝てない」からです。残雪は初め、仲間を引き連れて逃げようとしています。勝てないと知っているからです。
隼は残雪に攻撃され「不意を打たれ」ます。なぜならガンごときが自分に向かってくるとは思っていないからです。隼にとってガンは捕食対象でしかないのです。
負けると知っているのに、仲間は囮と知っているのに、それでも立ち向かう残雪の勇気は「頭領だから」という言葉で片づけることはできません。ですから「当然ではない」のです。

というわけで今回は「大造じいさんとガン」における習得学力を明確にした国語授業についてお話しました。次回は「固有種が教えてくれること」についてお話したいと思います。ここまでお読みいただきありがとうございました。

山本 裕貴(やまもと ゆうき)

木更津市立鎌足小学校
千葉大学大学院教育学研究科学校教育学専攻
木更津技法研所属

高校、特別支援学校、小学校算数専科を経て、現在小学校の学級担任をしています。
人を幸せにするには、どうすれば良いのか。たどり着いた答えが小学校の先生でした。
教育の根本・本質・原点を問い続けていきます。

ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

pagetop