「国語授業」の説明書〜国語の根本・本質・原点〜(18回)
読解力は不易の国語学力です。いつの時代も求められます。読解力を身につけるには、「読解しなければならない場面を設定すること」が肝要です。では、どうすればよいのでしょうか。今回は物語文の指導を例にお話しします。
木更津市立鎌足小学校 山本 裕貴
【デジタルか紙か】
今年8月に広島大学の研究チームが調査結果を公表しました。それは、小学生の読解力に関する調査です。読解力を問う文章問題を、デジタル端末と紙で出題しました。その結果、4年生以下では紙の方が平均点が上回ったことが分かりました。
この結果に対して研究チームは
「深く読む読解力の育成には紙の方が適している可能性がある」と述べています。
これには多くの教師が同意したのではないでしょうか。
しかし、この調査の5、6年生においては、結果は逆でした。デジタルの平均点の方が高かったのです。これは、発達段階による電子機器への習熟度合いが異なるためかもしれません。
【読解と鑑賞の違い】
先ほどの調査は、読解力を調べるためのものでした。読解力とは「読解するための力」です。では、読解とは何でしょうか。私の師である植草学園大学名誉教授である野口芳宏先生は次のように仰います。
「読解とは、書いてあることを正確に読むことである」
さらに、読解の1つ上の技能として「鑑賞」についても次のように主張されています。
「鑑賞とは、書いてあることをもとにして、書いていないことを想像することである」
このような力をつけることは、子どもの人生を豊かにするために必要です。では、どのようにすればよいのでしょうか。
【アウトプットのためのインプット】
私は読解力や鑑賞力をつけるには「読解・鑑賞せざるを得ない場面を設定する」ことが大切だと考えます。具体的に言うと、「話し合うために、感想を書く」活動がこれに当たります。
私たちの生活に置き換えてみましょう。自分一人で本を読む場合と、誰かに本を紹介しなければいけない場合、どちらの方が必死に文章を読むでしょうか。だれもが後者だと思います。
授業においても同様です。子どもは友達に感想を伝えなければならないから、必死に感想を書きます。感想を書かなければならないから、必死に文章を読みます。
そのような活動が、読解力・鑑賞力を身につけると考えます。では、実際にはどのようにすればよいのでしょうか。今回は物語文を例にお話しします。
【CASE18 のらねこ】
教育出版3年「のらねこ」を例にして、説明します。今回は植草学園大学教授である横田経一郎先生の実践を元にしています。
◯習得学力
1 作品を自力で読む力
2 意見を交流し、自己の考えを深める力
◯単元計画 全5時間
☆1時間目の流れ
本時の目的→作品の概要を掴む
・単元の目的を共有する
教師「作品を読んで、感想を書き、多くの友達と話し合いましょう」
※作品を読み、感じたことは人によって異なることに気付かせる
・着語読みをする
教師「みんなで作品を一緒に読みましょう」
着語読み・・・教師が適宜、解説を入れながら範読する手法
※学級の全ての子どもに、概要を理解させるために行う
☆2時間目の流れ
本時の目的→自分で作品を読み、自分の考えを書く
・教師作例を提示し、書き方を教える
※3つの観点で書かせる「主役・対役・結末」
(例)主役「のらねこの心が変化していく様子が印象に残りました。なぜなら・・・」
対役「リョウはとても優しい男の子だと思いました。◯◯の場面でリョウは・・・」
結末「この作品は、悲しい終わり方だと考えました。最後にのらねこは・・・」 など
☆3時間目の流れ
本時の目的→意見を交流することで、自己の考えを深める
・話し合いの仕方を説明する
①3人組を作る
②話す順番を決める
③1人ずつ前時で書いた感想を話す
④質問するなど自由に話し合う
※3人組を入れ替えて、同じ手順で行う
・話し合いの感想を書かせる
(例)「◯◯さんが心に残った場面は、ぼくと違いました。それを聞いて・・・」など
☆4時間目の流れ
本時の目的→作品を読み取り、考えたことを文章にする
・発問をする
教師「最後の場面で、のらねこが姿を消したのはなぜでしょうか」
・自分の考えを書かせる
(例)「のらねこが姿を消したのは、恥ずかしくなったからだと思います。なぜなら◯◯の場面で・・・」
「のらねこが姿を消したのは、警戒心が強いからです。のらねこの性格から言って・・・」 など
※ここでは添削指導はせず、子どもの書く意欲を優先する
☆5時間目の流れ
本時の目的→意見を交流することで、自己の考えを深める
・3時間目と同じ手順で話し合いを行う
※できるだけ多くの意見を聞くことができるよう、3人組の入れ替えを何度も行う
・単元を通して身につけた力を確認する
教師「この授業でどんなことができるようになりましたか」
児童「自分で作品を良く読むことができるようになりました」
児童「自分の考えたことを書くのが得意になりました」
児童「人によって考え方が違っておもしろかったです」など
以上のような流れで授業を展開することで「作品を自力で読む力」や「意見を交流し、自己の考えを深める力」が習得できると考えます。少しでも参考になればうれしいです。
というわけで今回は「物語文の指導」についてお話しました。次回は「送り仮名」についてお話ししたいと思います。ここまでお読み頂き、有難うございました。
山本 裕貴(やまもと ゆうき)
木更津市立鎌足小学校
千葉大学大学院教育学研究科学校教育学専攻
木更津技法研所属
高校、特別支援学校、小学校算数専科を経て、現在小学校の学級担任をしています。
人を幸せにするには、どうすれば良いのか。たどり着いた答えが小学校の先生でした。
教育の根本・本質・原点を問い続けていきます。
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