2020.09.28
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「障害」について教えるということ ー understand と comprehend ー

児童生徒に「障害」について理解(understand)させることはできても、充分に理解(comprehend)させることは難しい。それでも、そこを目指してアクションする先生のためのツールを提案します。

東京都内公立学校教諭 林 真未

understand(理解する) と comprehend(充分に理解する)

私はかつて、英語が得意でもなんでもないのに、日本では学べない家族支援学をどうしても修めたくて、カナダの大学の通信教育を受けていました。

その授業では、毎回、それを学ぶことで身につけなければならない「めあて」が示されます。
そこでよく出てきたのが、comprehend という言葉でした。しかも、understand ではだめで、comprehend しなければならない、という注釈つき。

「comprehendなんて、聞いたいことない。どういう意味だろう」
恥ずかしながら、ここで初めて、深く物事のひだまで十分理解し腑に落ちている状態は、understandではなくcomplerendということを知りました。understandは、これに比べると、知っているに近い表面的な理解をあらわす言葉らしいのです。

そして、このcomprehendを実現するために、私たち家族支援職資格課程の学生は、家族についての諸問題やその支援方法について、様々な視点からの知識を与えられ、その上で、自分のアタマで考えることを求められました。私は、この学びによって、豊かな人権意識を得ることができたように思います。

この経験を踏まえると、日本の人権教育は、質量ともに、まだ、児童生徒をunderstand(理解する)にまでしか届かせてないように感じます。けれど、本当ならば、できれば義務教育の中学を終えるまで、最低でも高校を終えるまでには、さまざまな人権問題に関して、comprehend(充分に理解する)している状態にまで、持っていきたいものです。

けれど、それは思っているよりずっと難しい……。

わたしは、わかっていなかった。

たとえば、人権教育のひとつ、「障害」理解について私の経験談を話させてください。

私は、今までずーっと、ほかのひとよりたくさんの時間を使って、「障害」について学んだり考えたりしてきました。だから、「障害」について考えたことのない多くの人より、ずっと造詣が深いと自負していたのですが……。

実は、今夏、息子ががん治療のため片足を切断しました。
そして、障害当事者の家族になって初めて、私は自分がまだ「障害」をcomprehendしていなかったことに気づきました。
たくさんの障害のある方に出会って、そのしんどさに思いを寄せてきたつもりでしたが、差別の恐怖や日常生活の不便さなどを、今までは、知らず知らずのうちにひとごととして捉えていたことに気づいたのです。
自分と同一視できるほど近しい存在が障害を負うことによってやっと、comprehend の端緒に届いた、今はそんな感じがしています。

知識として理解するだけではなく、実感としてそれを体験し、頭と心の両方で、包括的に深くわかること。
それがcomprehend。そしてそれを実現するのは思ったより難しい。

児童生徒は、私のように長い間「障害」について考えたり、あるいは障害当事者やその家族になったりすることは稀です。
彼等は、限られた時間の中で、いったいどうやってcomprehendに近づくことができるのでしょうか。

健常者であっても「障害」をcomprehend (充分理解する)ために

松葉杖生活編!(りきRIKICHANNEL)

私は、息子の闘病を通じて、そこに、今は、大きなツールがあることを知りました。

YouTubeです。

息子は、切断の恐怖をRYUTA POSITIVEさんというYouTuberの動画を見て乗り越えました。

そして、後に続くがん患者さんや、切断を余儀なくされる人々のために、自らもYouTuberとなって、RYUTA POSITIVEさんがアップしていない類の、切断者のための情報動画を作り始めています(りき RIKI CHANNNEL*私の息子ですので、許可なく授業で使っていただいて結構です。)

彼のこのアクションに関連して、私は他にもたくさんの障害者YouTuberがいることを知りました(現代のもののけ姫MACOさん、山田千紘 ちーチャンネルさん等)。もちろん、元祖障害者インフルエンサーの乙武洋匡さんも、ご自身のチャンネルを持っておられます。
この他、YouTubeを検索すると、身体障害だけでなくさまざまな障害を持つ方が、動画をアップされています。

これらは、かつてなかったツールです。
そして、教室の電子黒板設置や児童生徒のタブレット配布が進み、これらの動画を見る環境のほうも整ってきました。
この強みを生かして、動画を活用することで、文章だけで「障害」を学ぶよりずっと、インパクトのある学びを手に入れられるのは間違いないと感じます。
また、動画に寄せられる多様なコメントを目にして、自分はどう感じるのかを考えることも、かなり心を使う営みです。

映像の持つ説得力は大きいです。このような「障害」のリアルを描く動画を使ったアクティブラーニングなら、comprehendの実現までは至らずとも、understand以上comprehend未満くらいまでは、辿りつけそうな気がします。

林 真未(はやし まみ)

東京都内公立学校教諭
カナダライアソン大学認定ファミリーライフエデュケーター(家族支援職)
特定非営利活動法人手をつなご(子育て支援NPO)理事


家族(子育て)支援者と小学校教員をしています。両方の世界を知る身として、家族は学校を、学校は家族を、もっと理解しあえたらいい、と日々痛感しています。
著書『困ったらここへおいでよ。日常生活支援サポートハウスの奇跡』(東京シューレ出版)
『子どものやる気をどんどん引き出す!低学年担任のためのマジックフレーズ』(明治図書出版)
ブログ「家族支援と子育て支援」:https://flejapan.com/

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