2018.05.09
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道徳一年生(NO.3「情報を制限して場面を読み取らせよう!」)

特定非営利活動法人TISEC 理事 荒畑 美貴子

 前回は、挿絵の意味するところや、俯瞰図が読み取りに効果的であるという話をしました。道徳では、国語のように読み取りに時間を使うことはできません。しかし、子ども達が必要最低限のことを読み取っていなければ、教師の質問には答えられないのです。また、授業の中で様々な支援をしていくことは、教育のユニバーサルデザイン化にも繋がります。今回も読み取るための支援として、情報量の制限という視点から考えてみたいと思います。 

 
 20年前に行われた学習指導要領改訂の際に、総合的な学習の時間が導入されたときには、資料を集めたり、それを選択させたりする支援の難しさを感じました。例えば東京都の伝統工芸品を調べるときに、インターネットで検索をかけると資料がたくさん出てくるので、そこから必要な資料だけを選ぶということになります。情報というのは、多ければいいというものではありません。必要な情報を選択して受け取ることができるようにしていくことが大切なのです。それは、膨大な情報に囲まれている社会生活の中で、必要な情報を取捨選択して生きていくための力にも繋がっていくのだと思います。

 一方、読み取りに関しての情報の選択というのは、もっと狭い範囲で考えていかなければならないものです。例えば、道徳の教科書の中には、教材をイラストだけで示している場合があります。学校や公園の様子をイラストで描き、どのようなことが良い行動で、どのようなことが好ましくない行動であるのかを選別していく授業をイメージして作られています。私は長い間、イラストだけを見ればいいのなら、文章の読み取りは不要であるから、子ども達には理解しやすいと思ってきました。しかし、特別支援学級の友人から、情報量が多すぎると戸惑う子どももいるのだという指摘を受け、目から鱗が落ちるような気持ちになりました。一面に描かれた絵の中から、ひとつの場面を切り取って考えることが苦手な子どももいるというのです。

 それは、漫画の形式をとった資料でも同様だということでした。漫画を読み慣れている者にとっては、活字だけの文章を読むよりは気楽だと思いがちです。しかも、漫画で登場人物の表情や風景を示してくれるので、話の中身をイメージしやすいのです。でも、一度に多くのコマが描かれ、どの順番で読んでいけばいいのかということを把握しにくい子どもにとっては、情報量の多さに行き詰まってしまうのだということを教えられました。

 確かに、私の周囲にも、漫画は苦手だという者がいます。私はその人が、漫画そのものに対して良いイメージをもっていないのかと思っていましたが、もしかしたら、吹き出しがたくさんあったり、順番がわかりにくかったりする中で読んでいくことが、苦手だったのかもしれません。


 では、どのような対策を取っていけばいいかというと、まず画面いっぱいに示されたイラストのような教材を使用するときには、画用紙の真ん中に適当な大きさのくり抜きを作り、イラスト上を移動させるようにするといいそうです。くり抜きの範囲であれば、ひとつひとつの出来事を選び出しやすいというのです。

 可能であれば、イラストを分解して示すことができればいいと思います。また、投影機などで画像データを大きく映し出し、教師自身も出来事を選択して示すことができるようになれば、情報量を制限しやすくなると思います。この手法は、漫画にも効果的で、画面に1コマずつ映し出すようにできると、よりわかりやすくなると思います。スマートフォンで行っているような画像の示し方が、黒板の上でもできるようになるのが理想だと思います。

 心理学の言葉にジョイント・アテンション(共同注視)というものがあります。それは、授業の中でイメージするなら、教師が注目してほしい文章や絵・図などに、子どもたちも同様に注目することです。広範囲に見える中から、注目すべき点に心を向けるということは、簡単にできることではありません。教師が自分なりのやり方で、子どもたちの注意を向ける努力を積み重ねるしかないのです。そして、読み取りのひとつの手段として、イラストや漫画などの中から、ひとつの場面を切り出して注目させることができるようにすることは、とても重要だと思っています。


 最後に付け足しになりますが、カラーについても制限を加える必要があるタイプの子ども達がいることを、最近になって知りました。私には、そういったタイプの子どもを担任した経験はないのですが、もしかしたら見逃してしまっていたのかもしれません。カラー刷りの色が刺激になって、読み取りや内容把握に支障をきたすことがあるそうです。そのタイプの子どもに白黒の資料を使わせるようにしたところ、劇的に学力が伸びたというのですから、支援の奥深さを考えさせられます。

 人の能力は、それぞれ異なります。このことを頭でわかっていても、当人の立場で理解することは簡単ではありません。そうであっても、担任したり関わったりする子ども達の力を把握し、できる限りの教育的支援を行っていきたいと思います。

荒畑 美貴子(あらはた みきこ)

特定非営利活動法人TISEC 理事
NPO法人を立ち上げ、若手教師の育成と、発達障害などを抱えている子どもたちの支援を行っています。http://www.tisec-yunagi.com

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