2022.06.01
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子どものつぶやきを聞いてみよう 共同研究 子どもの学びの見とりと授業デザインを支えるFuture LS Roomの開発

全国の教育委員会・小中高等学校と連携して学習科学に基づく協調学習の授業づくり実践研究を展開するCoREF(一般社団法人教育環境デザイン研究所CoREFプロジェクト推進部門)と、内田洋行教育総合研究所は、共同研究「子どもの学びの見とりと授業デザインを支えるFuture LS Roomの開発」(2019~2021年度)を行ってまいりました。
この共同研究は、主体的・対話的で深い学びの視点に立った授業改善のために、一人ひとりの子どもが学習活動の中で何を考え、どのように自分なりの理解を形成し、作り変えていったかをできるだけ確からしく捉え、それに基づいて次の指導を見直す授業研究の進め方について、またそうした授業研究を支えるICT環境について、実践をベースに具体的なモデルを提案することを目指したものです。
この度、3年間の共同研究の成果をまとめたリーフレットを発行いたしました。まだご覧になっていない方は、是非ダウンロードしてご覧ください。

ここから先は、ご紹介した授業研究のモデルについて、リーフレットには掲載しきれなかった補足的な説明を掲載してまいります。リーフレットをご覧になって、そこからさらに深く学びたいという方向けのコンテンツです。リーフレットとあわせてご覧ください。

1.主体的・対話的で深い学びを引き出し見とる

~学習科学の視点に基づく授業研究~

リーフレットでは、「学習科学の視点に基づく授業研究~ICTも活用して~」として、授業研究を個々の子どもの理解深化のプロセス(認知過程)に着目した丁寧な見とりに基づくものにするために、こんな授業研究の進め方ができるとよいのでは?という具体例をイメージ図でお示ししました。

ここでは、お示しした授業研究の進め方について、もう少し詳しく解説していきたいと思います。

  1. 授業デザインの視点①~今日の授業で実現したい学びの具体像を描く~
    授業をデザインする際に、課題や活動を用意するだけでなく、ねらいに即して子ども達に期待する発言や振る舞いの具体的な例を想定しておきましょう。ここで想定した姿と実際の子どもの姿とのギャップが授業デザイン見直しのポイントになります。
  2. 授業デザインの視点②~子ども目線でデザインを見直す~
    授業をデザインする過程で、一度授業者の視点を離れて、子ども目線で課題や資料を見直してみましょう。例えば、この発問だと子どもはどう思考し(てしまい)そうでしょうか?事前に子どもの思わぬつまずきを想定することで、デザインの精度を高めることができます。
    その際、他の先生方に(ねらいを説明せずに)課題を解いたり、活動を体験してもらって子ども目線のフィードバックをいただくのもお勧めです。

【+ICT】学びの記録と結びついた教材データベースの活用

授業をデザインする際、同じ教材を使った過去の実践における子どもの学び方、つまずき方のデータベースがあれば、この教材で実現したい学びを具体的に想定したり、子ども目線でつまずきを予想したりがしやすくなります。

  1. 実践の視点~個々の理解深化の過程を「見える化」する~
    授業では、個々の子どもが考えを表出する場面(対話、記述)をできるだけ多く設け、学びの過程を「見える化」するよう心がけましょう。簡単にみんなが「わかった」ことにせず、「どうわかっているか」「どうつまずいているか」を各自が表現する機会を設けることが重要です。

【+ICT】学びの記録装置としての一人一台端末/「つぶやき」が聞こえる対話データを取得する

ICTを意識的に使うことで、より多くの場面で、より手軽に一人ひとりの分かり方、つまずき方を可視化することができます。

  1. 学習過程の見とりの視点~事実に基づいて学習プロセスを推測する~
    授業改善のためには、教師の基準に即して個々の子どものよしあしを評定するのではなく、まずは子ども目線で「この子はどう考えていたんだろう」「なぜこんなつまずきが起こったんだろう」と推測してみることが大切です。
    その際、まずは「見える化」した学びの記録から、どんな場面で授業者の想定した通りの思考や対話が起こっていたか、どんな場面で想定と異なる姿が見られたかを検討してみると、見とりがしやすくなります。また次の改善に活かせる気づきを得るためには、全体を網羅的に見るよりは一部の子や一部のグループに絞った見とりを行うことが有効です。

【+ICT】対話テキスト化×キーワード検索で学びを見とる

小グループでの対話記録は子ども達の学び方、つまずき方が最も見えやすい材料です。とは言え、すべての対話を聞きなおすのは時間的に不可能です。対話をテキスト化してキーワード検索、気になる箇所に絞って聞き直すことで、短時間で有効な見とりが可能になります。

  1. 授業デザイン仮説見直しの視点~学習プロセスにデザインや支援がどう影響していたかを推測し、デザインを見直す~
    子ども達の学びのプロセスを基に授業デザインや支援がどう機能していたか、デザインや支援をどう見直せばよりねらいに向けて子ども達の力を引き出せそうかを検討しましょう。
    子ども達の意外な学び方や予想外のつまずき方が見えてくると、その1時間の授業や教材の改善だけでなく、次に授業をデザインする際の「実現したい学びの想定」や「子ども目線でのつまずきの予想」にも生かすことができます。
    一連の授業研究の過程を通じて、子どもの学び方についてよりリアルな予想ができるようになれば、コンスタントにねらう主体的・対話的で深い学びを実現する授業デザイン力を身に付けることができるでしょう。
コラム:授業研究を支える理論・ビジョンとコミュニティ

私たちは、学習科学の理論・ビジョンと「知識構成型ジグソー法」という具体的な授業手法を核とした全国の教育委員会・学校との連携プロジェクトを基盤に下記の授業研究のサイクルをまわしています。

もちろん、ここで紹介する学習科学の視点に基づく授業研究は、こうした一つの手法と紐づいたものではありません。その一方、こうした授業研究のサイクルを個々の教師が単独で回していくことは難しいでしょう。互いの授業から学び合うために学校や自治体等の単位で授業研究のコミュニティを作ることが必要です。

またその際、コミュニティでは何らかの理論・ビジョン(やその具体的な形としての手法やツール)を共有していることが望ましいと考えます。なぜなら、理論・ビジョンや手法等のレベルでバラバラな仮説を持った先生方同士の授業研究では、どうしても議論の焦点が理論・ビジョンや手法等の妥当性に向いてしまいがちです。子どもの学びのプロセスに着目した授業研究を進めるうえでは、(少なくともスタート段階においては)コミュニティが一つの理論・ビジョンや手法等の基に授業研究を進めるよさがあると言えるでしょう。

2.Future Learning Sciences Roomモデル事例紹介

リーフレットでは、中学1年生が「雨粒の落ち始めから地上にとどくまでの運動のようすはどうなっているのだろう。」という課題に対して「力のはたらき」に着目しながら考えた授業を例に、実際の授業研究会の様子をご紹介しました。当日の授業研究会の流れについて、もう少し詳しく解説しましょう。

(1)事前協議~学習の想定~

実際に授業を参観する前に、参観者の先生方自身が生徒になって簡単に本時の課題について考えます。その後、授業者の先生の「今日の授業で実現したい学びの具体像」について説明を受けます。そのうえで、実際に生徒がどんな風に学びそうか、どんなところで授業者の先生の想定と違う学び方、つまずきが起こりそうかを予想します。

この時間を事前に設けておくことで、他教科の先生でも授業のねらいや各場面で生徒に期待する姿を具体的に共有したうえで生徒の様子を丁寧に見とる準備ができます。

(2)授業の様子~学びの可視化~

今回の授業は、ほとんどが、生徒が個人で考える時間、グループで対話する時間、全体で考えを交流する時間で構成されています。そのため、生徒が自分の考えを表現するチャンス(=参観者が生徒の考えを見とるチャンス)がたくさんあります。

授業中、参観者の先生方は指定された1つのグループの生徒を追いかけてその学習の様子を見とります。こうすることで、表面的な活動の活発さだけでなく、生徒が1時間の中でどのように思考し、つまずき、どのように自分の考えを変容させていったかを見とりやすくなります。

とは言え、グループ活動の場面、特に難しい課題にチャレンジしている場面では、生徒は考えながら話しているためその発言は小さなつぶやきが中心になります。そうすると、近くで聴いていてもなかなかその発言をつぶさに聞き取れるわけではありません。そのため、今回の授業研究では、生徒に一人一台ピンマイクをつけてもらいそのつぶやきを収集するとともに、独自開発したビデオ・音声レコーダーを用いてそのグループの音声を生徒の表情が確認できる映像に同期させて記録しています。この音声・映像記録がのちの事後協議で活躍します。

(3)事後協議~学習プロセスを推測し、デザインを見直し~

事後の研究協議では、まずそれぞれの参観者が見とった生徒の学習の様子を交流します。協議の途中から、先ほどの音声・映像記録を活用します。収集した音声は、クラウド音声認識システムによって文字起こしされ、その自動文字起こしデータを基に気になる場面の音声や映像を確認することができます。

場面を探す際には、キーワード検索機能を使うことも可能です。生徒の理解が深まっている場面を探すにはどんなキーワードを入れるとよいかを考えることも、生徒の学び方を理解することにつながります。今回の授業では参観していた先生方から「つり合いがキーワードなのではないか」「その言葉が出てきているあたりを見直してみられると、生徒の理解が深まる場面が見られるのではないか」という発見がありました。

逆に生徒の理解がうまく進んでいない場面を探してみると、何がネックになっていたかも見えてきます。今回の授業では、物体にはたらく2つの力の関係に着目して移動中の物体に両側から同じ力をかけるとどうなるか?(=等速で動き続ける)に着目してもらいたかったのですが、その点の理解に苦しむグループが多くありました。あるグループの対話を見直してみると、生徒から「そんな永久機関、現実にはありえないよね」というつぶやきがあったことが分かりました。物体にはたらく2つの力の関係に着目できても、未習の等速直線運動について今回の資料だけでは具体的なイメージを持つことが難しかったことが次の改善点として見えてきました。

おわりに

CoREFでは、こうした授業研究会を全国の小中高等学校と連携して展開しています。子どもの認知過程に着目した授業研究の進め方を(まずはICTなしで)取り入れるだけでも、授業の見え方は大きく変わってきます。そこにFuture Learning Sciences Roomのような学びの可視化(=子どもの発言がつぶさに聞き取れる/文字化することでキーワード検索ができる/気になる箇所を探して聞き直せる)を可能にする環境があることで、子ども達の学びやつまずきについての先生方の捉え方、解釈の仕方は大きく変わり、日々の授業を見直す大きなきっかけになります。

またこうした授業研究を通じた学びは、授業者だけの学びではなく、参加する先生方みんなの学びとなります。子どもの認知過程に着目した授業研究によって、授業者のよしあしを問題にした授業研究を脱して、みんなで目線をあわせて、子どもの学びの事実から学ぶ授業研究が実現できます。

今回のリーフレット及び記事に興味を持ってくださった方は、引き続き内田洋行×CoREFの取組に注目していただくとともに、CoREFと全国の教育委員会・学校との連携による授業づくりプロジェクトにもアクセスしてみてください。

関連情報

リーフレット「子どものつぶやきを聞いてみよう」ダウンロード

一般社団法人教育環境デザイン研究所 CoREFプロジェクト推進部門 主任研究員 飯窪真也

※当記事のすべてのコンテンツ(文・画像等)の無断使用を禁じます。

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