2021.03.22
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「しかけ」を見つけて読書の楽しさに気づく物語文の授業(前編) 児童が進行する国語の授業をリポート

2021年2月25日に兵庫県明石市立錦が丘小学校3年1組にて、「物語のしかけをさがそう」という単元を通じて読書の楽しさに気づくことを狙いとした国語の授業が実施された。
作者が読者を楽しませるために作った様々な「しかけ」に着目して物語を読む授業とは一体どのようなものなのか。同校で実施された授業の様子を取り上げる。

●授業概要

学年・教科:小学校3年生 国語
単元名:物語のしかけをさがそう(第9時/全13時間)
教材名:『ゆうすげ村の小さな旅館~ウサギのダイコン~』(東京書籍)
※山に林道を通す工事をする人たちが泊まる旅館に、美月という色白のむすめがダイコンを持って手伝いに来る。
授業者:川上健治 教諭
使用教具:黒板、大型ディスプレイ、タブレット端末(教諭1台)

教師が出演する動画で導入

「前の授業でわかったことを説明してください!」

司会の子どもの元気な声で授業がスタートした。手を挙げた子どもたちを司会が次々と指名していく。指名された子どもの「言ってもいいですか?」という問いかけに、全員の「はい!」という大きな返事が教室に響き渡った。まずは前回の授業の振り返りだ。今回は全13時間を予定している『ゆうすげ村の小さな旅館~ウサギのダイコン~』を使った単元の9時間目となっている。

指名された子どもたちの発表が終わると、教室内の大型ディスプレイに動画が映し出された。子どもたちと交流の深い教師二人が教材の物語について話し合っている動画だ。「この話で大事なのはね…」と話す教師の掛け合いを見つめる子どもたちの顔に笑顔が浮かんだ。動画内の教師の発言に反応を示す子どもたち。それぞれが自分の考えを口にし、教室内がさらに活気づいていく。

一番大切なしかけは?

掛け合いの動画が終わると川上教諭が今日のめあての説明をし、問いかけた。「みなさんだったら、何のしかけが一番大切ですか?」

すぐに司会を担当する子が、「それではみなさん、めあてを書きましょう!」と指示を出した。「はい!」と大声で応える子どもたち。一斉にノートにめあてを写し、再び司会が全員に指示を出した。「みなさん、めあてを読みましょう!」という号令の後、全員が声をそろえて読み上げる。「一番大切なしかけは?」

「それでは一人で考えましょう!タイマーで7分経ったら終わりです!」

司会の子どもの指示の後、全員で「はい!」と元気に返事をし、一斉にノートに向かった。

個人で「しかけ」と「わけ」を考える

「色白」「美月」「ウサギダイコン」「耳がよくなる」の4つの選択肢から好きなものを選び、それぞれが思う「一番大切なしかけ」について考える時間だ。大型ディスプレイに映し出されていた『「〇〇」のしかけが大切だと思います。わけは、△△だからです。』の形式でノートに書き出していく。スラスラと書き始める子どももいれば、「しかけ」を書くことができても「わけ」が書けずに手が止まる子も。教師が教室中を順番に回り、手が止まっている子どもにアドバイスをしていく。

7分経過してタイマーが鳴った。なかなかうまく書けずにいる子どもがいる状況を考慮し、「選択肢4つ全部に当てはまるしかけではないものを選びましょう!あと2分お願いします」と教師が指示を出した。

同じ「しかけ」を選んだ人と「わけ」を話し合う

「全員書けましたか?」タイマーの合図とともに、司会の声が響き渡った。「はい!」

「まだ自信がないと思うので、前に書けるよという人は手を挙げて!4つの選択肢のどれを選んだかも教えてください」

教師の合図で次々と手が挙がる。次々と指名し、黒板に書くよう指示を出していく。「それ以外の人は、同じ選択肢を選んだ人同士でグループになって理由を話し合ってください」

指名された子どもたちが黒板にノートの内容を書いていく。残りの子どもたちは「色白」「美月」「ウサギダイコン」「耳がよくなる」の4つのグループに分かれ、そのしかけを選んだ理由を話し合い始めた。「私も同じわけにした!」「耳がよくなったらどんないいことがあったっけ?」など、次々と意見を出し合っていく。

流れが詰まると教師が助け舟を出すことはあるが、子どもたち主体で授業を進めていく形式をとっているのが印象的だ。積極的に発言する子どもが多く、自由に意見を言い合える雰囲気を子どもたち自身で作り出している。

「あと2分です!」

教師による話し合い終了の合図と同時に、全員がそれぞれの席に戻り着席した。

発表、そして全体で意見交換

黒板の前に司会の児童が座る

グループトークが終わったら、次は黒板に書いた子どもたちが全員の前で発表する時間だ。司会が発表者を指名し、指名された子どもたちが一人ずつ前に出ていく。発表者の「言ってもいいですか?」という問いかけに、全員が元気に「はい!」と返事をした。

「一番大事だと思うのは、ウサギダイコンという言葉です。わけはウサギダイコンを食べると耳がよくなるからです!」と一人が発表した。「では今からおたずねしていきましょう」という教師の合図で、子どもたちの意見交換が始まった。

「ウサギダイコンで耳がよくなるなら、耳がよくなるのほうに書いたほうがいい」「どっちに書くのもありえると思う!」と、次々に意見を出していく。

「耳がよくなるきっかけがウサギダイコンだから、ウサギダイコンのほうに書いたのかな?どちらに書いたほうがいいか、説明できる人!」と理由まで深く考えるように教師が促していく。静まり返ることなく次々と手が挙がり、自分の言葉でしっかりと説明しようという子どもたちの熱意を感じられた。

新たな気づきへ

「ネズミダイコンがあるのにウサギダイコンを登場させたのは、ウサギを登場させるため。ウサギダイコンには耳がよくなる魔法があるから、魔法のきっかけでもあるね」

教師の問いかけから、さらに次の気づきへと導いていく。「耳がよくなることで何を守ることに繋がる?」という質問に、「動物の自然!」と大きな声が。「自然を守ることにつながるね。じゃあ、工事をする人がなぜここで登場するかわかるかな?」

気づきから次の気づきへと教師が自然につなげていく。「工事で小鳥の巣を壊すところだったというところともつながるね。工事の人をわざわざ登場させた意味がわかるかな?では、まとめを書きましょう!」「はい!」

元気な返事が聞こえるとすぐ、子どもたちが一斉にノートにまとめを書き始めた。

今回の国語の授業における川上先生の狙いは、ただ何となく物語を読むのではなく、「しかけ」に着目して読むことで作者の意図を考え、読書の楽しさに気づくことだった。作者の「しかけ」を見つけ、その「しかけ」の「わけ」を考えるだけでなく、それぞれの「しかけ」がつながって新たな気づきを発見するという流れを作り出していた。また、教師が主導的に授業を進めるのではなく、子どもたちの自主性を重んじることで子どもたちによる授業づくりを意識することも大事な狙いだった。

リポート後編では、川上先生が取り組んでいる「物語のしかけをさがそう」という活動を中心に進めた単元構想、子どもを主体的にさせる授業・学級づくりについてインタビューする。

参考資料

取材・文・写真:学びの場.com編集部

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