2023.01.04
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学校現場での授業研究システム活用例 中学校編(後編) 共同研究「子どもの学びの見とりと授業デザインを支えるFuture LS Roomの開発」の取組事例

前回に引き続き、実際の学校現場における授業研究システムの活用事例について広島県安芸太田町立安芸太田中学校の先生方にご紹介いただきます。後編では、先生方が感じておられる学瞰システムのよさ、授業研究を通じた先生方の気づきや変容について、同校の今田富士男教頭先生よりご紹介いただきます。

1 はじめに

前回は、安芸太田中学校での授業研究システムの活用例を、子ども達の学びの様子から紹介させていただきましたが、今回はこのシステムを活用して、教員の授業観がどのように変容してきているのかを紹介させていただきます。

主体的・対話的で深い学びをつくっていくとき、教員が最初に突き当たる壁が、「子ども達に学びを委ねて本当に力がつくのか」ということです。教員自身が学生時代に受けてきた授業の経験から、教師には学習内容をわかりやすく説明することが求められると考えている場合が多いです。

また、グループ学習を実施しているとき、子ども達の対話の様子をすべて把握できているわけではないので、対話が停滞しているグループに支援に入ったとき、それまでの子ども達の学びとはずれた支援になり、子ども達の思考が完全に停止してしまうことがあります。

「もし、子ども達の対話の様子をみることができたら」、「もし、子ども達の学びを想定した教材を準備することができていたら」と考えたとき、「学瞰システム」はその悩みを解決する最大のツールとして有効だと言えます。

2 方言が頻発したとき子ども達は学びを深めている

図1 子ども達の発話記録(3年社会科(公民的分野))

「学瞰システム」での記録を見ていく中で、子ども達の学びが活性化しているとき、そこには方言での対話が多く出てくることがわかりました。広島弁では、聞き手に自分の考えを何とかわかってもらおうとするとき、「じゃけぇ」という言葉をよく使います。図1は、中学3年社会科(公民的分野)「裁判所と人権」での発話記録です。前半では、「公平」という言葉の意味を伝えようと「じゃけぇ」を何度もいいながら説明しています。後半でも同じような発話を見ることができます。

 子ども達が思考を深めるとき、フォーマルな話し方ではなく、広島弁のような普段から使っている言葉をつかいながら、ある意味ラフな形で会話をしていることを読み取ることができます。ゴールを意識させることは忘れてはいけませんが、対話を深い学びにするのなら、役割分担をきちんと決めて、正しい日本語で話すことに力を入れるよりも、休憩時間のような少し砕けた雰囲気の中で自由に話させた方がよいということが分かります。

3 「学瞰システム」を活用した授業改善~子ども達の学びの事実からの授業改善~

前回の五島教諭のレポートでも紹介をしましたが、安芸太田中学校では「仮説検証型授業研究」に取り組んでいます。(表1)

表1 令和4年度 研究授業一覧(2学期末現在)
学年・教科 題材名
2年・美術 プレゼンテーションのレイアウト(表現の構想)
2年・理科 さまざまな化学変化
1年・保健体育 心身の機能の発達と心の健康
2年・国語 平家物語から「扇の的」
3年・社会 裁判所の仕組みと働き
1年・音楽 曲想と音楽の構造との関わりを理解して、その魅力を味わおう
1年・数学 「平面図形」(いろいろな作図)


研究授業では毎回、子ども達がどのように学んでくれそうかを想定し、実際の授業での子ども達の学ぶ姿から授業を振り返ることを大切にしています。この研究スタイルをとることで、私たち教員の子ども達の学びを見とる目が鍛えられてきているように思います。

次に、今年度の研究協議の様子を一部紹介します。

(1)「学瞰システム」では見取れない子ども達の学びにも注目している。

「学瞰システム」では、子ども達の発話の内容が記録されていることから、対話を通して学びを進めている様子を見とることができます。安芸太田中学校の授業観察では、一人の子どもに一人の教員が付き、見とりを行っていますが、それでも見逃してしまうこともあります。「子ども達の学びがグッと深まった場面があったけど、何がきっかけだったのだろう」と研究協議の中で話になったとき、「学瞰システム」の記録(動画とテキスト)を見直して、その要因を確認することができます。また、子ども達の対話の中で出てきてほしいキーワードを瞬時に検索をすることもできます。このことは、研究協議を子ども達の学びの事実をもとにした確かなものにしてくれています。しかし子ども達の中には、発話はしていないけれどグループ内の友達の対話を聞きながら自己の中で咀嚼して理解を進めている子どももいます。そういった子の学びは「学瞰システム」では見とることができません。そういった子の表情やワークシートへの記述などの丁寧な見とりも大切にし、「学瞰システム」の記録と合わせて研究協議を行っています。

  • 「学瞰システム」の記録を生かした研究協議の様子

  • 子ども達の学びの事実からの研究協議の様子

(2)学び合いのプロセスを大切にしている。

「知識構成型ジグソー法」で授業を行うとき、ジグソーグループをどのように構成するかは授業者の悩むところです。このことについて、授業後の研究協議で次のような話がありました。

ジグソー活動で話し合いをするときに、学力的に高い子がいると、その子がどんどん話を進めていってしまい、他の子たちが受け身になって、協調的な学びが起きなくなりますよね。だから、ジグソーグループを編成するときは、学力が同じぐらいの子で構成するとうまくいきそうですよね。ただ一方で、学力的に低い子達にとって全く歯が立たないことにならないように、資料の工夫や支援の方法を事前に考えておくことは必要ですよね。

こういった発言が教職員から出てくることがいいなと感じています。学習内容を理解させることが目的だったら、学力的に高い子をグループの中に入れておけばよいのですが、そうではなく、学び合いのプロセスを大切にしようとしていることが感じられます。

(3)事前に模擬授業をしているからこその気付きが出てくる。

模擬授業の様子

「仮説検証型授業研究」では、事前に模擬授業を実施し、子ども達がどのように学びそうか、授業者はどのようなねらいをもって授業をしているのかを、参観者も事前に考えて研究授業に臨んでいます。だから、研究協議の中では、「期待していた発言が出てよかった。」「子どもの発言がもっとつながっていくとよかった。」「期待していた発言がでなかったのは、資料の〇〇の部分がひっかかったのだと思うから、資料を△△のようにすればよかったと思う。」といった発言が出ています。教科の専門性はあるけれど、学習者である子ども目線での授業改善ができています。

4 おわりに

私たちの授業づくりの実践は、ICTの進化により子ども達の学びを見とる精度は断然よくなり、その蓄積の中で授業を見とる力も着実についてきていると思います。最初は「子ども達に学びを委ねるのは心配で、どうしても口をはさんでしまうのです。」と言っていた教員が、「学瞰システム」を活用した授業研究を通して、「子ども達の学ぶ力を信じて学びを委ねていると、子ども達は思った以上に深い学びをしてくれるのです。」と言って授業での学びの様子を職員室で話してくれることが多くなりました。

このように、安芸太田中学校では、子ども達の学ぶ姿からの授業づくりが進んでいます。今は「学瞰システム」を研究授業にだけ利用しているという状況ですが、普段の授業の中でも利用を進めていきたいと思っています。また、子ども達にも「学瞰システム」を活用させて、自分たちの学びを振り返ることも進めていき、子ども達の学ぶ力も高めていきたいです。

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次回は、初めてこのシステムを活用した授業研究に取り組んだ小学校のレポートをお届けします。

今田富士男

広島県安芸太田町立安芸太田中学校 教頭
2010年に安芸太田町で協調学習の実践研究をはじめた当初から、知識構成型ジグソー法による教材づくりに取り組んできた。2019年4月からは安芸太田中学校教頭として赴任し、協調学習の授業づくりを通して人材育成に取り組んでいる。

文・写真:一般社団法人教育環境デザイン研究所 CoREFプロジェクト推進部門

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