2021.03.01
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市町等と東京大学による協調学習研究連携(第1部) ~"学習科学とテクノロジ"で支える新しい学びの未来~

今回は1月30日(土)にオンラインで開催された「新しい学びプロジェクト 令和2年度報告会 市町等と東京大学による協調学習研究連携~"学習科学とテクノロジ"で支える新しい学びの未来~」をリポートする。株式会社内田洋行の特別協力で、最新のICT設備を備えた、ユビキタス協創広場CANVASより配信された。第1部では主体的・対話的で深い学びの実現を支える授業研究の今年度の深化と展開について、実践報告を基にパネルディスカッションが行われた。

「新しい学びプロジェクト」とは

鹿児島徹 氏(埼玉県立総合教育センター 指導主事)、石川薫 氏(埼玉県立総合教育センター 所長)

「新しい学びプロジェクト」とは、東京大学CoREFと全国の市町教育委員会や学校による協調学習を引き起こす授業づくりのための研究連携事業だ。2010年度にスタートし、中心的な活動は「知識構成型ジグソー法」を使った授業研究である。

報告会は、埼玉県の総合教育センター所長の石川薫氏の開会挨拶で始まった。埼玉県は、現在140校全ての県立中・高等学校で協調学習の授業づくりに取り組んでいる。司会は、「新しい学びプロジェクト」事務局を務める埼玉県立総合教育センター指導主事の鹿児島徹氏、進行は東京大学高大接続研究開発センター高大接続連携部門CoREFユニット(東京大学CoREF)特任助教の齊藤萌木氏と飯窪真也氏によって実施された。

参考:「知識構成型ジグソー法」の基本的な「授業の型」

(1)課題の提示
単元での「課題(問い)」を提示し、それに対する現時点での考えを一人一人が書く。

(2)エキスパート活動
児童生徒達をいくつかのグループに分け、各グループに異なるヒントをあたえる。グループ内でヒントについて話し合うことで、担当するヒントへの理解を深めていく。

(3)ジグソー活動
異なるエキスパート活動をした者同士でグループをつくり、それぞれの成果を持ち寄って話し合う。

(4)クロストーク
ジグソー活動の成果を他のグループと発表し合い、課題についてさらに理解を深める。

(5)個別のまとめ
最初の課題に再び向き合い、最後は一人で問いに対する答えを記述する。

第1部:パネルディスカッション

主体的・対話的で深い学びの質を支える授業研究の深化と展開

白水始 氏(国立教育政策研究所初等中等教育研究部 総括研究官)

最初に登壇したのは、国立教育政策研究所初等中等教育研究部総括研究官の白水始氏。「新しい学びプロジェクト」の紹介から始まった。授業づくりを検討し研究会を開催することで、教師の指導観の変容や指導力向上を狙っている。

他人からの学びと自分自身の体験からの学びの二つを結びつけるトータルデザインが重要であり、学校で保証すべきなのは自分達なりの納得のための対話である。それが主体的・対話的で深い学びであり、その実現のための授業研究が「新しい学びプロジェクト」だ。

今回のパネルディスカッションでは、コロナ禍における成果と課題の発表、今後の授業研究の在り方やICT利用について議論していく。「10年間の蓄積でこの危機をどう乗り越えるか、今回の振り返りを次に活かしていきたい」と語った。

若手の教員も対等な立場で発言し、教員全員で一つの授業をデザイン

埼玉県久喜市立江面第二小学校の授業研究

松本千春 氏(久喜市立江面第二小学校 教諭)、関田知華 氏(久喜市立江面第二小学校 教諭)

久喜市立江面第二小学校では、2015年度から「知識構成型ジグソー法」を用いた協調学習の研究に取り組み、毎年1人1回の授業研究会は6年間で9教科48回となった。

「6年間変わらないのは、①授業者がやりたい教科・領域を選んで1人1回授業研究を行うこと、②3回の事前研修(授業デザイン検討会)、研究授業、研究授業後の研究協議会に教員全員が参加すること、③研究協議会はワークショップ型で行うこと」と教諭の松本千春氏。

変わったことは、事前研修が充実してきたこと。「知識構成型ジグソー法」の基本的な考え方を理解している教員が増え、子どもの思考をシミュレーションしながら、深い学びを起こす授業をどう作るかを意識することが当たり前になってきた。一番の変化は、教員全体が授業デザインの検討を楽しめるようになり、検討会が教員にとってのジグソー活動になり、チャレンジングなアイデアも出るようになってきたこと。他の教員の意見を聞きながら自由に発言し、文字通り全員で一つの授業をデザインするようになった。

「授業研究では若手の教員も対等な立場で話し合いに参加でき、一つの単元や内容についてさまざまな切り口で考える力がついた。授業の出来よりも子ども達の学びに視点を向けることができるようになった。」と教諭の関田知華氏。「江面第二小学校は統廃合のため今年度が最後の年となるが、次の赴任先でもこの経験を活かしたい」と語った。

web会議システムや、対話の即時書き起こしデータを活用した授業改善

広島県安芸太田町の授業研究

免田久美子 氏(安芸太田町教育委員会 主幹)、岡上佳奈枝 氏(安芸太田町立筒賀小学校 教諭)

安芸太田町では2010年度のプロジェクト発足時から「知識構成型ジグソー法」を取り入れてきた。人口6000人の町で、各学年の児童数が10人未満の小学校もある。1校あたりの教員数が少ないため、以前から校種・教科を超えてオンラインでも授業づくり検討をしてきた。「学びのプロセスの多様性をお互いに活かし合いながらみんなで賢くなる、そのための『知識構成型ジグソー法』」と語るのは安芸太田町教育委員会主幹の免田久美子氏。

授業研究の風景にも変化が起きている。「教室の後ろに立って参観するのではなく、子どもの隣にしゃがんで対話を聞き取ろうとするようになった」と安芸太田町立筒賀小学校教諭の岡上佳奈枝氏が続けた。

コロナ禍でも主体的・対話的で深い学びを諦めず、ICTを活用した授業研究を継続している。グループ学習では、席を移動せず、web会議システムを使用。通信環境のトラブルで画面共有ができないときも、ミニホワイトボードを活用して見せ合うなど、子どもの学びは止まらなかった。話すことが苦手な子も、共有画面に説明を書き込んで割り込むように。「子ども達にとってICTが筆記用具と同様に自然なものになりつつある」と岡上氏。

事後協議では、研究授業をオンラインで参観した東京大学CoREFのメンバーや他校の教員と、対話の即時書き起こしデータで振り返りながら、子どもの思考の流れを丁寧に見取る。web会議システムの活用によって、子ども達の声やつぶやきが確実に聞き取りやすくなったなどの意見も。次につながる気づきを得られる場となっていると締めくくった。

子どもの学びと大人の学びは相似形

石井英真 氏(京都大学教育学研究科 准教授)

パネリストの発表を受け、京都大学教育学研究科准教授の石井英真氏が登壇。各校の取り組みについて、「仮説検証型の授業研究でありながら、仮説検証やPDCAサイクルを超えている」と評価した。

子どもの学びと大人の学びは相似形であり、「コロナ禍でも教員が諦めずに取り組んでいる姿を見て挑戦する子どもが育つ」と強調する。

教員の成長とは子どもの学びが見えるようになることである。経験から学ぶときは事実から学び、事実を検討するときは子どもの視点から考えることが重要だ。「それが事前にデザインする力につながり、構想力を磨く結果になる」と説いた。

「他者の意見が入ると誰の授業かわからなくなるが、自分がやりたい授業をすることで責任が生まれてくる。そうやって自分の授業を育てていくことが大事だ」ともコメントした。

協調学習の授業研究から人材育成へ

二見吉康 氏(安芸太田町教育委員会 教育長)

「教育の環境整備と条件整備のため、協調学習の授業研究を通じて人材育成に取り組んできた」と話すのは安芸太田町教育委員会教育長の二見吉康氏だ。

先端技術導入実践研究として夢見るのは、ICTを使った授業のためのスタジオづくり。「そこに行けば、マイクもカメラもあり、録画もできる。安定した通信環境で研究授業の配信もできる。そんな教室を各学校に整備したい」と語った。

研究の全国への広がりを期待する一方で、広く浅くなってはならないと警告する。「広く深い研究連携の強化のための体制を整える取り組みを進めていく必要がある」と締めくくった。

第2部では、各教科での「知識構成型ジグソー法」の実践を通じて見えてきた授業デザイン原則を提案する教科部会取組報告をリポートする。

取材・文・写真:学びの場.com編集部

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