2024.05.20
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作家クイズ大会をしよう(後編) 自分たちで問題解決していける自治的な集団へ

文部科学省は学習指導要領の中で「主体的・対話的で深い学び」の視点からの授業改善を規定している。学ぶ内容だけでなく学ぶ環境やプロセスも重要視される。いま、一斉授業を主流としてきた教育現場にはどのような変化が求められているのだろうか。今回は愛知県常滑市立常滑中学校の国語の授業を取材した。後編では授業者の都築準子教諭へのインタビューを紹介する。研究主任としての取組やICT活用等について伺った。

生徒の主体性を伸ばし、協働的な取組を促す授業

―本単元作成の意図や、工夫した点について教えてください。

都築準子教諭(以下、都築) この授業をしようと思ったきっかけは、子どもたちが意外と作家について知らないなと思ったことです。受験のことも考えると、長年愛されてきた作家や作品にふれることが大切かなと思いました。しかし、ただ授業で学ぶだけではおもしろくないので、子どもたちに興味を持ってもらうためにクイズ形式を取り入れることにしました。

工夫したことは、以下の3つの手立てを取り入れたことです。

  • 生徒の思考に沿った目標・課題設定の工夫(自分の課題を持つこと)
  • 他者と協働する活動の場の設定(グループで解決方法を考える)
  • 生徒のメタ認知を高める活動の振り返り(現状を知り、次につなげる)

  • 私の研究テーマとして、当事者意識を持って主体的に学習に向かう生徒の姿を目指しているので、この3つの手立てはどの授業でも必ず取り入れています。特に意識しているのは、子どもたちが主体的に取り組めるか、友達と協働して作業できるか、ということです。

    中学生になると、「これをしなさい」と命令されるとどうしても嫌な気分になってしまうと思うので、自分の行動は自分で決めることが大切だと思います。

    また、できるだけ自分が口を挟まずに子どもたちだけで授業を進められるように、時間に余裕があるときは黒板に今日の授業でやること(全体の見通し)と割り振りの時間も書いています。

    ―本日は他の先生もいましたが、研究授業は定期的に行っているのですか。

    都築 定期的ではないですが、たまに行っています。授業後には参加してくれた先生と協議会を開いたり個別に話し合ったりして、改善点や良かった部分などの意見交換をしています。

    小学校と中学校で感じる違い

    ―小学校で18年勤務した後に中学校へ異動したとのことですが、どのような点に大きな違いを感じましたか。

    都築 「子どもが当事者意識を持って主体的に他者と協働できること」という基本的な研究テーマは、小学校勤務のときと変わっていません。しかし、相手が中学生になると、やはり小学生よりも高度なことができるなと感じました。広い視点で見た意見やおもしろいアイデアが出てくることもあります。

    授業の振り返りでも違いが見られますね。グループ活動でどういう部分が良かった、もっとこうした方が良かったなど、小学生より具体的に表現できたり、批判・批評的な意見が上がったりするようになりました。自分の授業にも反映させやすいので、うれしい変化です。

    ただ、中学校は受け持つ授業が専門科目のみとなるため、他の教科と横断的な取組ができたらもっと良いな、と感じることもあります。社会科だったらこういうことができる、数学ならこういう取組を入れられるなと思うこともあるので、多角的な取組は今後の課題かもしれません。

    ―生徒への接し方という点で、これまでより意識していることはありますか。

    都築 中学生は思春期に差しかかる時期なので、特に言葉遣いや注意の仕方は意識しています。むやみに子ども扱いしない、生徒の意思を尊重する、などです。また、自分の想いや意見があっても口に出さないことも多いと思うので、そういうものを引き出せるような声掛けやコミュニケーションも心がけています。

    先生の意識を変えていくことも自分の役割の一つ

    校内研究通信

    ―一斉学習の方が安心という保護者や教職員に、主体的・協働的な学びのメリットをどのように伝えていますか。

    都築 保護者の方は、生徒が学校の様子を伝えていくなかで、徐々に協働学習への理解が得られるようになってきました。とはいえ最初の頃は生徒も慣れていないので、授業ではこちらから促さないと行動できない、発言できないということが多くありました。それが2〜3カ月経った2学期あたりから変わりはじめ、だんだんと協働学習の効果が出てきたように思います。

    教員に対しては、協働学習や主体的な活動のメリット・効果を伝えるために、現職通信(校内研究通信)を発行しはじめました。協働学習の指導案の作成方法や研究授業のビフォーアフターを紹介したり、協働学習の効果とメリットを具体的な事例・研究データなどを取り入れて解説したり、理解を深められるような内容を発信しています。

    中学生は高校受験が控えていることもあって、受験を意識して知識・技能の伝達を優先したいのは理解できます。しかし、協働学習でも学力は十分に伸ばせますし、私の実感としては一斉授業よりも協働学習の方が効果があるように思います。

    ―現職通信の発行や授業の取組を通じて変化は感じられましたか。

    都築 はい。先生方から「読んだよ」「この記事がおもしろかった」などの反応をもらえるようになりました。研究授業を見に来てくれる先生が増えましたし、自分の授業にも取り入れたいと相談してくれる先生もいるので、少しずつですが浸透していると思います。

    今後、さらに協働学習を広めていくには、トップダウンで私から指示するのではなく、ボトムアップでいろいろな先生の意見を聞くことが重要です。先生方の相談や悩みを聞いてどのように対応すべきか、どのように協働学習を取り入れるか、対話しながら一緒に考えることが必要だと感じています。

    タブレット端末で効率的な授業を実現

    ―1人1台のタブレット端末はどのように活用していますか。

    都築 生徒は文房具のように自然に活用してます。気になることを調べるときはもちろん、授業の板書をメモしたり、ノートを取るのが苦手な子は黒板をカメラで撮影したり。授業中はこちらから指示しなくても、いつでも自由に利用して良いと伝えていています。

    私としても、プリントや資料を印刷せずに共有できるので便利です。スライドを作って人数分印刷して配布して……という手間が省けて、作業の効率化に役立っています。授業のアンケートも瞬時に集められて内容が確認できるので、良い意見があれば授業の時間内にすぐ生徒へ共有することも可能です。

    今日のように、グループで画面共有しながら作業を進められることもあり、タブレット端末は協働授業で活用しやすいツールと言えます。

    ―研究主任として、今後新たに挑戦したい取組や課題はありますか。

    都築 2024年度は、【研究主題:当事者意識をもち、他者と協働しながら「自主・自律」を実現できる生徒の育成】の2年目になります。

    私はこの学校に赴任して、中学生の授業を受け持つようになってから2年しか経っていないので、まだまだ手探りな状態です。生徒の主体性を伸ばし協働できるような取組をさらに広げていくために、授業だけでなく学校生活全般においていろいろなアプローチをしていきたいと思います。

    今、教員の働き方の見直しが推進される中、先生方の時間的・精神的負担も考慮しなくてはなりません。私自身も先生方と協働しながら、各先生方の個性を生かして、「とにかくイヤイヤやる面倒くさいもの」から「なんだかやったほうがいい楽しいもの」にする方法を考え、環境を整えていきたいです。

    愛知県「ラーケーションの日」についても伺いました!

    ラーケーションは、子供の学び(ラーニング)と、保護者の休暇(バケーション)を組み合わせた造語。2023年秋から、保護者と一緒に体験や探究の学び・活動を行うために年3日まで学校を休むことができる制度(出席停止・忌引等と同じ扱いで、欠席にならない)が始まりました。学ぶ場所や目標などを届け出る必要はないため、具体的にどう過ごしたかは把握していないそうですが、各クラス7~8人が利用したとのこと。保護者が土日祝日になかなか仕事を休めないご家庭にはいい制度のようです。

    記者の目

    授業を取材して、想像以上に授業の雰囲気が明るく活気に満ちていたことに驚かされた。生徒一人ひとりが積極的に授業に参加し、お互いを尊重しながらスムーズに作業を進めていた様子が印象的だった。問題を解決するための見通しがあること、自分の行動を自分で選択できることが当事者意識の醸成に役立っていると実感した。

    取材・文・写真:学びの場.com編集部

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