シュークリームの膨らみの秘密 【食と科学】[大学・理科教育実践]

食育は家庭科や総合的な学習の時間だけが受け持つものではありません。理科、社会科などどの教科でもアイデア次第で楽しく展開できます。教材開発のノウハウや子どもたちの興味・関心を高めながら、望ましい食生活習慣を育てていく授業作りのヒントを、武庫川女子大学・藤本勇二先生主宰、食で授業をつくる会「食育実践研究会」がご紹介します。第212回目の単元は「シュークリームの膨らみの秘密」です。
授業情報
テーマ:食と科学
教科:理科教育実践
学年:大学3年
なぜ膨らむのだろう?
シュークリームの生地が、まるで魔法のようにきれいなドーム型に膨らむのを見たことがありますか?
実はこの「膨らみ」の秘密には、私たちの身近に潜む科学の力が隠されています。
ではシュークリームは一体どんな仕組みで膨らむのでしょうか?
どうすればあの見事な膨らみを実現できるのでしょう?
私たちは武庫川女子大学教育学部の学生として、『理科教育実践』の授業でシュークリーム作りに挑戦しました。
今回はその経験をもとに、科学の視点からその謎に迫ります。
〇シュー生地が膨らむポイント!
・シュー生地には水分が含まれている
・小麦粉にはグルテンがあり、粘り気がある
・水があたためられて、水蒸気になる
・シュー生地の内側の水蒸気が外に出ようとするのに対し、粘り気のある小麦粉(グルテン)が水蒸気を逃がさないために、シュー生地が膨らむ
シュークリームをつくる
準備物
※この量でシュークリームを約8個作ることができます。
【シュー生地】
バター30g/牛乳60g/水60g/グラニュー糖小さじ2/塩ひとつまみ/薄力粉140g/卵2個
【デコレーション】
市販のホイップクリーム お好みで

材料を火にかける
(1)生地をつくる
鍋にバターと牛乳、水、グラニュー糖、塩を入れて中火にかけます。
バターが溶けたら火を止めます。

薄力粉を振るい入れる
(2)薄力粉を加える
粉っぽさがなくなるまでゴムべらで混ぜ合わせます。
再び中火にかけたらゴムべらで素早く混ぜ合わせ、うっすらと鍋底に膜が張ったら鍋を火から下ろします。
◆薄力粉と他の材料が均等に混ぜ合わせる必要があります。
なぜなら、薄力粉のなかにあるグルテンが偏って形成されると、きれいな空洞がつくれないためです。

卵を加える
(3)生地に卵を加える
卵4個をよく溶き、生地に2~3回に分けて加え、その都度よく混ぜ合わせます。
ゴムべらですくった生地が、逆三角形にゆっくり落ちるのが硬さの目安です。
◆卵は加熱することで凝固し、内部に空洞が形成された状態で固まります。

天板に絞り出す
(4)生地を絞る
絞り袋に、生地を4分の3程度入れ、天板に絞り出します。
(5)水をつける
水をつけたフォークの背で胴体の生地の表面を丸く整えます。
霧吹きで生地の表面に水を振りかけます。

焼くと空洞ができる
(6)オーブンで焼く
200°に予熱したオーブンで生地を約20分焼きます。
今回は焼き色が薄くなってしまいましたが、目安はキツネ色になるまで焼きましょう。
ただし、途中でオーブンの蓋を開けてしまうと、生地がしぼんでしまうため、蓋は開けないように気をつけてください。
◆生地に含まれる水分が、オーブン内で高熱で加熱されると水蒸気に変化します。
薄力粉のなかにあるグルテンには粘り気があるため、水蒸気が外に放出されるのを防ぎます。
この水蒸気が膨張して、生地を押し上げて、空洞が形成されていきます。

シュークリームの完成
(7)ホイップクリームを詰める
生地が焼けたら粗熱を取り、ホイップクリームを詰めたら完成です。
シュー生地が膨らむ理由
生地がしっかり膨らむポイントは、粘りのある生地と加熱された水蒸気の働きです。生地には水分が含まれており、オーブンで加熱されると水蒸気に変わります。このとき、小麦粉のグルテンが粘着性を持ち、水蒸気が外に逃げるのを防ぎます。その結果、水蒸気が膨張して生地を押し広げ、全体が膨らみます。さらに熱が加わると、卵が固まり、内部に空洞ができた状態のまま固定されます。
また焼く際に、表面が先に固まると膨らみにくくなるため、焼く前に表面に軽く霧吹きをして湿らせておくのがポイントです。また、小麦粉中のグルテンが偏ってしまうときれいな空洞ができないため、小麦粉と他の材料をしっかりと均一に混ぜ合わせることが重要です。
シュークリーム以外で膨らむお菓子
シュークリームの他にも様々な原因で膨らむお菓子があります。
例えば、マフィンは重曹やベーキングパウダーの化学反応によって膨らみます。重曹は加熱をすると、分解して二酸化炭素を発生させます。同時に、生地の中に気体の気泡が閉じ込められて、膨らみます。しかし、重曹を入れすぎると、独特の苦みやアルカリ臭が残るため、適量を使うことがおすすめです、ベーキングパウダーには酸性剤と炭酸水素ナトリウムが含まれており、これらの成分が牛乳や水、卵などに含まれる水分と化学反応し、炭酸ガスを発生させます。このガスが充満することで、膨らむ働きを促しています。
振り返り
・シュークリームが膨らむ現象を実際に再現することはとても難しく、仲間で試行錯誤することで水蒸気が空洞を作るという科学を感じることができました。答えを知っていてもチャレンジして、知識にするだけでなく、失敗しても実体験にすることの大切さを学ぶことができました。
・今回、シュークリームが水蒸気による膨張の科学的原理を利用して作られていることを知り、お菓子作りにも科学が深く関わっていることを学びました。科学の原理とは専門的で難しく、理解するのが複雑だと感じていましたが、実は身近なお菓子にも科学の仕組みが活用されており、身近で役立つ存在であることを実感しました。
授業の展開例
〇加熱する温度の違いにシュークリームの膨らみは影響するのか実験しましょう。
射手矢咲弥・楠本彩乃
武庫川女子大学教育学部3年

藤本勇二(ふじもと ゆうじ)
武庫川女子大学教育学部 教授。小学校教諭として地域の人に学ぶ食育を実践。文部科学省「食に関する指導の手引き」作成委員、「今後の学校における食育の在り方に関する有識者会議」委員。「食と農の応援団」団員。環境カウンセラー(環境省)。2010年4月より武庫川女子大学文学部教育学科専任講師。主な著書は『学びを深める 食育ハンドブック』(学研)、『ワークショップでつくる-食の授業アイデア集-』(全国学校給食協会)など。問題解決とワークショップをもとにした食育の実践研究に取り組む「食育実践研究会」代表。'12年4月より本コーナーにて実践事例を研究会のメンバーが順次提案する。
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