2020.01.22
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「アクティブ・ラーニング×ICT環境」でより深い学びを目指す(後編) 「知識構成型ジグソー法」を用いた協調学習授業―東京大学ジュニアドクター育成塾―

先進的なICT環境が整備されたアクティブ・ラーニングルームや空間UIルームで、全国でも先駆けてICTの技術を活用したアクティブ・ラーニング授業を行っている川口市立高等学校。前編では、科学技術に関心が高い川口市内の中学1・2年生を対象に、同校で開催された「東京大学ジュニアドクター育成塾 川口市特別講座」の一部をリポートした。後編では、前編で「知識構成型ジグソー法」を用いた協調学習授業を行った堀先生のインタビュー、専門シニアによる「省エネ技術」の授業をお届けする。

実践者に聞く

授業づくりにICTの保存機能を活用する

――本日の授業について率直な感想をお聞かせください。

堀公彦(敬称略 以下、堀) 想定以上に最後のまとめがよく書けている生徒が多く、こちらが期待していた答えを出してくれたという印象です。また、クロストークのときにディスプレイに書かれた文字量が少なくても、口頭で補足しながら説明できていた生徒が多かったと思います。

――ICTの活用についてはいかがでしたか?

 今日の生徒たちのように授業ではじめてICT機器を使う場合だと、どうしても目がそちらに向かいやすい。もっと授業の内容に目を向けてもらいたいと思っても、興味本位でICT機器をいじってしまう場面がちらほら見られました。ICTを活用してアクティブ・ラーニングによる学びを深めるためには、もっと使う場を増やし、生徒たちに慣れてもらう必要があるのではないでしょうか。

――一方でICTを使うメリットはどのような部分にあると思いますか?

 一番は記録を残せる点です。ホワイトボードの記録を残すには全部写真を撮る必要がありますが、ICTを活用すればその手間を省くことができます。また、生徒たちがどんなことを書いて消したのかが履歴として残る点もありがたいです。授業中に教員が生徒一人ひとりの思考過程をたどるのは不可能ですが、履歴として残っていれば授業後にそれを見ることができますから。その結果、「生徒たちはこんなところで引っかかっているから、そこの部分はこう変えていこう」と次の授業づくりに活かすことができます。

――堀先生が行った授業の履歴が残っていれば、それを見て他の先生も学ぶことができますよね。

 そうですね。初めて「知識構成型ジグソー法」を実践する先生でも、他の先生が行った授業の記録を見ることができれば、授業づくりにかかる時間を大分短縮できるようになるのではないでしょうか。また、ある問いに対する生徒たちの反応が記録として残っていれば「この問いを立てたら生徒はこう反応するだろう」と予想できるようになるので、問いが立てやすくなるのではないかと思います。

「知識構成型ジグソー法」で生徒の潜在能力を引き出す

――「知識構成型ジグソー法」を用いた授業づくりで先生方が一番苦労するのは、「エキスパート活動」で使用する3つの資料作成だといいます。堀先生は資料を作成するうえでどんなことを心がけていますか?

 3つ並べるだけで答えが出るような資料だと対話する場面がありません。大事なのはジグソー活動でそれぞれの資料に書かれていることを説明した後、3つを組み合わせて考えられるような問いを立てることです。「自分がもっている資料に引っ張られる」という声も聞きますが、それは3つを組み合わせて考えられるような資料になっていないのが理由でしょう。3つを組み合わせて考えられるような問いであれば自分が担当していない資料も気になるので、自分の資料だけが秀でて残るということはないはずです。

――読者の先生方へのメッセージをお願いします。

 「知識構成型ジグソー法」を用いた授業のいいところは、生徒たちの自信につながりやすいところです。いままであまり活躍していなかった生徒でも活躍しやすいし、自分の答えを発表してそれが正解だった場合、その子は自分に自信をもてるようになります。これは講義型の授業では決して見られない光景です。生徒たちの持っている潜在能力を引き出すためにも、ぜひ「知識構成型ジグソー法」を実践してみてください。

授業を拝見!

専門家シニアによるきめ細かい指導

使用教室:アクティブ・ラーニングルーム

テーマ:「家庭内の電力の利用」~家電と電力の省エネ~
目標:日常生活の中の省エネ技術を知り、自分たちにできることを考える
指導者日立製作所OB・公益社団法人日本技術士会わくわく理科教育の会 荒木泰彦さん
使用教材:ワークシート、PC、ブラシ付き直流モーター

日常生活の中の省エネ技術を知り、自分たちにできることを考える

続いて、公益社団法人日本技術士会わくわく理科教育の会の荒木さんによる講座「家庭内の電力の利用」が行われた。ここでは、省エネを実現する技術のひとつであるインバータの仕組みや利用方法、および家庭の電気製品をふくめた省エネの取り組み全体についての話を聞くことができた。なぜ省エネが必要なのか、どうしたら自分でも省エネができるかを、生徒自身が考えるきっかけになったようだ。

(1)導入

まず、家庭内で使われている電気機器の省エネについて大枠を説明。家庭内で使われるエネルギーの中で電力の占める割合は約50パーセント(2011年時点)で、着実に増えているという。

「2015年までのデータが出ていますが、いまところまだ50パーセントくらいです。これからもっと電気自動車やクリーンなエネルギーが増えて、いまより電力の割合が増えていくと思っています」

次に、二酸化炭素の排出量の推移をグラフで確認する。現在の排出量は年間13億トンから14億トンほど。この排出量は家庭だけではなく、企業などの生産活動も含めた、日本全体の排出量を示している。

「2007年くらいまで上昇を続けて、そこから下降していますね。なぜこういうグラフになっているのか、そこに目を向けることがとても大事です」

2008年はリーマンショックの影響で世界の経済活動が停滞したこと。また、排出量は世帯数で計算することになっている。日本国内では世帯数が増える傾向にあるため、世帯ごとに電気製品を購入する機会が増え、二酸化炭素の排出量も増えること。さらに、2013年まで増えるが、これは2011年の東日本大震災後に火力による発電が増えたことが影響している。その後は、社会に省エネの流れが強まり、二酸化炭素排出量は減ってきている。ひとつのグラフを読み解くうえで、社会経済を知ることも大事だと気づかせる。

(2)家庭内の電気機器と省エネ・インバータ

「家庭内でいちばん電力を使っているものは何だと思いますか?」

答えは、冷蔵庫、エアコン。冷蔵庫は消費電力はそれほど大きくないが、24時間動いている。エアコンも同じように一日中つけているために消費電力の総体は大きくなる。一方で、電子レンジなどの調理器具は消費電力は大きいが、短時間しか使わないため、全体としての消費量は少ない。消費電力を抑えることが省エネにつながる、という話は、次の電力ロスを減らす話へとつながる。

「最近は、電力ロスを減らすために、パワーエレクトロニクス(直流/交流や電圧を変換する技術)を使った省エネが進んでいます。スイッチとして動作させる半導体をつかった仕組みのことですね」

電力ロスを減らすためには、電力ロスを発生させない(熱を出さない)部品のみで回路をつくればよい。それが、スイッチとなる半導体、コイル、コンデンサでできているインバータ回路だ。

(3)インバータの仕組みと家電への応用例

日本では、発電所から家庭に送られてくる電気は100V50Hz(関東の場合。関西は100V60Hz)と定められている。この電気を、半導体のON/OFFを切り替えることによって、交流を可変電圧、可変周波数に変えるものがインバータ回路であり、直流を交流に変換する制御回路と装置のことを総称してインバータと呼んでいる。

インバータ制御のメリットとは、半導体を使ったパルス幅制御(PWM)によって、パルス幅を変えて電圧・周波数を自在に制御することができることにある。エアコンを例にとると、最初は周波数を上げて急激に温度を落とし、その後は周波数を下げて室内の温度のブレを少なくする。周波数を細かくコントロールすることで、電力ロスを減らすことができるというわけだ。

さらに、パルス幅制御の方法には、電圧・周波数どちらも変えるもの(エアコン、冷蔵庫、ポンプ、モーターなど)、周波数のみ変えるもの(蛍光灯、炊飯器、電磁調理器など)、電圧・周波数を一定にするもの(コンピュータの電源、無停電電源など)がある。

また、モーターの種類も用途にあわせていくつかの方式がとられている。

1.ブラシ付き直流モーター:玩具、電動工具
2.ブラシレス直流モーター:扇風機、エアコン、冷蔵庫、コンプレッサー
3.誘導モーター(交流):扇風機、冷蔵庫、産業機械
4.ステッピングモーター:カメラ、OA機器

「日本で住宅用インバータエアコンの普及率はどれくらいだと思いますか? 実は2009年にすでに100パーセントです。現在国内で販売しているエアコンには100パーセントインバータが入っているのです」

日本では、エアコンだけなく、ほぼすべての家電にインバータが入っているという。しかし世界の中では、まだまだインバータが普及していない国もある。たとえば、中国では2009年に7パーセントだった普及率が、2015年に50パーセントに達した。省エネを進めようとする機運が高まっていることがわかる。

「日本ではじめてインバータエアコンが発売されたのは1982年。世界初のインバータエアコンです。それ以来、日本のインバータ技術は世界トップクラスです。これから世界にインバータを広めるチャンスだとも言えますね」

(4)考えてみよう省エネ(次の学びに向けて)

「なぜ省エネが大事なの? その根本のところをみなさんといっしょに考えてみたいと思います。ひとつには、太陽エネルギーをもっと有効活用できないかという視点があります。もうひとつは、産業革命以降、地球の二酸化炭素の濃度は急激に上昇していること。化石燃料(石油や石炭)の使用にともなう温室効果ガスの影響で、年平均気温が上昇していることがあります」

日本の温室効果ガス(CO2)排出量目標は、2050年度までに80パーセント減(2013年度比)としている。現在の二酸化炭素ガス排出量は約13億トン。今後、どうすれば省エネが進むかは、テーマが大きいだけに、単純な解決策があるわけではない、と荒木さんは言う。

「たとえば、インバータ技術でも、10年前のエアコンとくらべて、現在のエアコンの省エネ率は10パーセントが最高レベルです。1年で1パーセントしか省エネが進まないのが現状。だからいろいろな方法を積み上げていくしかない。太陽光発電や家庭用ソーラーパネルを設置するとか、住宅用断熱材を改善して熱のロスを減らすとか、燃料電池や蓄電池を使うとか。電気自動車の普及もそうですね。ほかにも新しい技術開発が求められているのだと思います」

最後に、自分たちができる省エネの第一歩として、家庭での消費電力量を調べてみることを提案した。毎月送られてくる「電気使用量のお知らせ」を見て、どれくらい電気を使っているのかを知る。あるいは、市販のワットモニターを使って、電力消費量を計ってみる。そういう日々の意識が、省エネを考える「次の学び」へとつながっていく。

「知識構成型ジグソー法」を用いた授業改善サイクルを回すための学習空間づくり

よりよい「知識構成型ジグソー法」を用いた授業の実践を目指し、内田洋行教育総合研究所は現在、東京大学CoREF(高大接続研究開発センター高大連携推進部門)と一緒に「『知識構成型ジグソー法』を用いた授業改善サイクルを回すための学習空間づくり」をテーマにした共同研究を行っている。2021年4月には、川口市立高等学校での取組等を参考に、共同研究による知⾒を⽣かした授業空間をつくる予定だ。今後、生徒・教員の両者にとってより使いやすく、学びやすいICT環境が整備されていくことを期待したい。

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