2020.01.22
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「アクティブ・ラーニング×ICT環境」でより深い学びを目指す(前編) 「知識構成型ジグソー法」を用いた協調学習授業―東京大学ジュニアドクター育成塾―

川口市教育委員会は、2017年より東京大学CoREF(高大接続研究開発センター)と連携し、アクティブ・ラーニングの視点にたった授業改善のため、「協調学習」を引き起こす授業づくりの研究と実践を進めている。2018年には、先進的なICT環境が整備されたアクティブ・ラーニングルームや空間UI(User Interface)ルームを設置している川口市立高等学校を開校。全国でも先駆けて、ICTの技術を活用したアクティブ・ラーニング授業を行っている。
今回は、アクティブ・ラーニングとICT環境を組み合わせた授業の実例として、2019年12月21日・22日に同校で開催された「東京大学ジュニアドクター育成塾 川口市特別講座」の一部をリポートする。科学技術に関心が高い川口市内の中学1・2年生を対象に「電気」について高度な学びが展開された本講座を通して、「アクティブ・ラーニング×ICT環境」のポテンシャルを感じていただきたい。

授業を拝見!

「知識構成型ジグソー法」を用いた協調学習授業

使用教室:空間UIルーム

テーマ:省エネルギー
ねらい:日常生活におけるエネルギー消費について既習事項を活用しながら主体的に考えることにより、エネルギーを自分なりの言葉でとらえ直すとともに、次の研究につながる質の高い疑問や関心をもたせ、意欲的にエネルギー問題の解決に取り組もうとする態度を養う。
授業者:川口市立高等学校アクティブ・ラーニング支援員、東京大学CoREF協力研究員 堀公彦
使用教材:ワークシート、仮想ディスプレイ、白熱電球、LED電球、温度計、手回し発電機

2017年に始まった「ジュニアドクター育成塾」は、将来の科学技術イノベーションを牽引する理数系人材の育成を目的とした教育プログラム。本事業を支援している国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)に委託先として採択された教育機関や研究機関、民間事業者などが、実施主担当者として小・中学生を対象とした教育プログラムの企画を運営し、ジュニアドクターの育成に取り組んでいる。

今回リポートする「東京大学ジュニアドクター育成塾 川口市特別講座」の主催者である東京大学CoREF(高大接続研究開発センター)も、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)に採択された教育機関のひとつ。2017年よりアクティブ・ラーニングと専門家シニアによるきめ細かい指導を活用した「東京大学ジュニアドクター育成塾」を開講し、理科好きな生徒に発展的な学びのチャンスをあたえている。

本リポートではまず、東京大学CoREF(高大接続研究開発センター高大連携推進部門)協力研究員の堀先生による「知識構成型ジグソー法」を用いた協調学習授業をご紹介する。「知識構成型ジグソー法」とは、東京大学名誉教授の三宅なほみ氏が考案した授業手法のひとつ。主に協調学習を引き起こす手法として注目されている。

「知識構成型ジグソー法」には基本的な「授業の型」がある。これからご紹介する堀先生の授業もこの型を踏襲しているので、確認しながら読み進めていってほしい。

「知識構成型ジグソー法」の基本的な「授業の型」

(1)課題の提示

単元での「課題(問い)」を提示し、それに対する現時点での考えを一人一人が書く。

(2)エキスパート活動

生徒たちを3つのグループに分け、各グループに異なる資料をあたえる。グループ内で資料に書かれた内容について話し合うことで、担当する資料への理解を深めていく。

(3)ジグソー活動:異なるエキスパート活動をした者同士でグループをつくり、それぞれの成果を持ち寄って話し合う。

(4)クロストーク:ジグソー活動の成果を他のグループに向けて発表する。

(5)個別のまとめ:最初の課題に再び向き合い、最後は一人で問いに対する答えを記述する。

ICT環境が整備された空間UIルーム

川口市立高等学校の空間UIルームは空間全体がディスプレイやタッチパネルの機能を持っており、プロジェクターやカメラ、PCを組み合わせてテーブル上や壁面に仮想ディスプレイを表示させることができる。この仮想ディスプレイに自分の端末のワークシートや画像データを表示して、手書きで文字や図を書き込むことが可能だ。さらに、書き込んだ文字や図をデータとして保存したり、他のテーブルや壁面に移動させたりすることもできる。このICTの技術がこれまで紙とペンで行っていた授業にどんな変化をもたらすのか、想像しながら読んでいただきたい。

(1)課題の提示

まず、堀先生は生徒たちに次の課題を提示。

「省エネってどういうことだろう? 白熱電球とLED電球の光るしくみをエネルギーの視点から比較して説明してみよう」

本講座に参加している生徒たちは理科的事項への興味が比較的高く、科学の用語や計算への抵抗はそれほど大きくないと想定される。しかし、中学1・2年生の段階では「エネルギーの変換」「ロス」「変換効率」はまだ学習していない。「知識構成型ジグソー法」を用いた協調学習によって、エネルギーを自分なりの言葉でとらえ直すとともに、エネルギー概念を“使える概念”として定着させることが堀先生の狙いだ。

(2)エキスパート活動

生徒たちをA・B・Cの3グループに分けて以下の資料(図版をマスクして掲載しています)を配布した後、堀先生は次の指示を出した。

  • A 白熱電球とエネルギー

  • B LED電球とエネルギー

  • C エネルギーの変換

「まず資料を読んで理解し、グループ内で対話しながら書かれていることを整理してください」

エキスパート活動でもっとも大事なのは、資料に書かれていることを他の人に説明できるよう準備することだ。わかっていることやわかっていないこと、勘違いしていることも、言語化することではっきりしてくる。この「言語化する活動」が次のジグソー活動で生きてくる。

「次に資料に書かれている実験を行い、結果をプリントに記入します」その後、実験結果や資料の問いに対する答えをグループごとにまとめてください」

〈資料A〉白熱電球の仕組み
実験:白熱電球とLED電球を同時に点灯し、3分後の表面の温度を測定する

問い:白熱電球が光る時、電気エネルギーはどのように使われているのか、図や文章で説明する

〈資料B〉LED電球の仕組み
実験:豆電球と豆LED電球を手回し発電機で点灯させ、ハンドルをまわす手ごたえを比べるとともに、流れる電流の大きさを測定する

問い:LED電球が光る時、電気エネルギーはどのように使われているのか、図や文章で説明する

〈資料C〉エネルギー変換
実験:手回し発電機を2つつなげて一方を10回まわした時、もう一方は何回まわるのかを測定する

問い:「扇風機」と「電気ストーブ」で起こっているエネルギー変換を表にし、「変換効率」や「エネルギーロス」を説明する

ここでICTが登場。生徒たちはテーブル上の仮想ディスプレイに実験結果や問いに対する答えを書き込んでいく。デジタルのメリットとして「間違いを恐れずに答えを書きやすくなった」点があげられる。紙に書いた内容は消しにくいが、デジタルデータであれば簡単に削除できるためだ。このデジタルならではの利便性が「とりあえず書いてみよう」というフットワークの軽さにつながり、思考を深めるのに役立つのではないかと感じた。

(3)ジグソー活動

異なるエキスパート活動をした者同士で新しいグループを編成する。この際、エキスパート活動で作成したディスプレイ上のデータを各自が持ち寄り、それをもとにエキスパート活動でわかったことや自分の考えを説明し合う。ジュニアドクター育成塾には意欲的な生徒が多く集まっていることもあり、どの生徒も資料を棒読みするのではなく、自分の言葉で説明しようとしていたのが印象的だった。

「他の生徒に自分の言葉で説明することは、理解の定着につながります。他の生徒に『なんで』と聞かれて一生懸命自分の言葉で伝えようとするとき、生徒は自分がなにを言いたかったのかを理解していきます」(堀先生)

その後、いよいよ最初の課題「省エネってどういうことだろう? 白熱電球とLED電球の光るしくみをエネルギーの視点から比較して説明してみよう」に対する答えをまとめる時間に入る。

「A・B・Cの資料は最初に出した課題を考えるためのヒントです。この3つの資料を活用して、対話しながらグループごとに答えをまとめてください。この時、3つの資料をうまくミックスさせて答えを導き出すことを意識してください」

ここでもICTが登場。次の発表活動にそなえ、テーブル上の仮想ディスプレイに最初の課題に対する答えを発表資料としてまとめていく。

(4)クロストーク

壁面に移動させた発表資料をもとに、各グループの代表者が課題に対する答えを発表する。

堀先生が期待していた解答は以下の通り。

「省エネとは、変換効率を良くして、無駄なエネルギーを省くこと」

白熱電球は電気エネルギーを光と熱エネルギーに変換して光っているが、熱エネルギーを放出する分、エネルギーをロスしている。一方LED電球は変換効率が良く、無駄なエネルギーロスが少ない。

どのグループも概ねLED電球のほうが変換効率が良いことには気づいているようだった。「電気の目的は光るためであって、熱を出すのはロス」だと説明できているグループもあり、未習分野である変換効率について多角的なところまで考えられていることに驚いた。

(5)個別のまとめ

最後にあらためて最初の課題に向き合い、ワークシートにその答えを書く。どの生徒も授業の冒頭に比べてよく書けているようだったが、堀先生は「1時間のなかで無理に答えを出す必要はない」という。

「たとえこの1時間ですべてを理解できなくても、またどこかで同じ内容の授業に出会う機会があります。その時に今日の授業を思い出しながら、より学びを深めていってほしいと思っています」(堀先生)

後編では授業を担当した堀先生のインタビュー、専門シニアによる「省エネ技術」の授業をお届けする。

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