2021.03.01
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市町等と東京大学による協調学習研究連携(第2部) ~"学習科学とテクノロジ"で支える新しい学びの未来~

内田洋行ユビキタス協創広場CANVASより配信された「新しい学びプロジェクト 令和2年度報告会 市町等と東京大学による協調学習研究連携~"学習科学とテクノロジ"で支える新しい学びの未来~」。第1部のパネルディスカッション「主体的・対話的で深い学びの質を支える授業研究の深化と展開」に続き、第2部では、各教科での「知識構成型ジグソー法」の実践を通じて見えてきた授業デザイン原則を提案する教科部会取組報告が行われ、今年度の取組を振り返るとともに来年度の展望について議論が交わされた。

第2部:教科部会取組報告

小・中・高等学校の各教科における「知識構成型ジグソー法」の授業づくりから見えてきたこと

齊藤萌木氏と飯窪真也氏(東京大学CoREF 特任助教)、 白水始 氏(国立教育政策研究所初等中等教育研究部 総括研究官)

今年度は、国語、算数・数学、理科、社会、英語、道徳の各部会から「具体的な学びのエピソード」「これらのエピソードから言えそうなデザイン原則」「教科で『知識構成型ジグソー法』を活用するときの授業づくりのポイントや使いどころ」の3項目に沿って、成果が報告された。

子どもの既有知識の正確な見積もりが大切

国語部会の報告

黒見真由美 氏(江府町立江府小学校 教諭)

教科部会の取組報告は国語部会から始まった。最初に登壇したのは鳥取県江府町立江府小学校教諭の黒見真由美氏だ。

具体的な学びのエピソードから見えてきた授業デザインの原則は3つ。まず、子ども達自身が疑問に思ったことは子ども自身の「なぜ」という課題になるということ。次に、メインの課題を解くために子どもは何がわかっていればいいのか、また、それを子どもが本当にわかっているのかを授業者がとらえている必要があるということ。そして、作品の主題やテーマを外さないように問いを立てること。問いを具体的にしすぎると幅が出ず、抽象的にしすぎると、できる生徒の答えに引っ張られてしまうので、生徒の解答にどれくらいの抽象度を求めるかきちんと想定し、問い方を工夫する。

「ジグソーの視点をもった読みを繰り返すことで、何に注目して読めばいいかという読み方や視点をもって読む力が身に付いていく」と語った。

子ども達が取り組みやすい方法を使う

社会部会の報告

清本忍 氏(浜田市立浜田東中学校 教諭)

次に、島根県浜田市立浜田東中学校教諭の清本忍氏から社会部会の報告が行われた。

実践から見えてきた授業デザイン原則は、小学校段階では言葉だけで話をさせるのではなく、感情円盤、スケール、色など視覚的なものを用いたり、子ども達が取り組みやすい方法を使うことでクロストークの対話がしっかりできるということ。中高段階でも、予想しないところで学習が停滞するケースを防ぐためには、「他教科の教員に協力してもらって模擬授業をしたりワークシートを見てもらう必要がある。」と語った。「知っているだろう」という前提で資料を作っていると、例えば、工業用の水は基本的に真水だが、生徒は海水も可能だと考えていたりするので、常に「知らないかも」という気持ちを意識して資料を作っているそうだ。

小中高の教員による「知識構成型ジグソー法」のポイントや使いどころは大きく分けて2点。単元のスタート時に協調学習を実践することで単元全体が俯瞰できるということと、授業づくりでは、第三者でも実践例を使いやすいように、初めて実践する方を意識して授業デザインをすること。「既存の資料を使う際は児童生徒がどれだけ協調学習の経験値を積んでいるかが大きい」とコメントした。

子どもの学ぶ力を信じて引き出せるようにさまざまな授業展開を想定して準備

算数・数学部会の報告

宮岡英明 氏(呉市立倉橋中学校 教諭)

算数・数学部会の報告では、広島県呉市立倉橋中学校教諭の宮岡英明氏が登壇した。

「エキスパート資料の意味や活動の意味を指導者も学習者もきちんと理解しておくことが『知識構成型ジグソー法』の授業をより深いものにする」と宮岡氏。子どもの学びを想定して授業を組み立てて系統的な指導を見通すことや、子どもの学ぶ力を信じて引き出せるようにさまざまな授業展開を想定して準備しておくことの大切さを説いた。

答えが1つにならない課題にしたり、問題を解くだけでなく、いくつかの解き方を比べるような課題にしたりするなど、深い学びを目指すために子どものつまずきや学びの流れを想定し、数学的な見方や考え方を鍛えていくジグソー法の在り方を模索することも必要である。

「ジグソー法の型に当てはめることが目的ではなく、算数・数学の本質に迫るための効果的な学習法として活用するという発想が求められている」と語った。

身近な現象を見る目が変わる体験から概念理解へ

理科部会の報告

原田優次 氏(廿日市市立七尾中学校 教諭)

次に、広島県廿日市市立七尾中学校教諭の原田優次氏から理科部会の報告が行われた。

「『科学の言葉』をたくさん使って議論してくれることを期待しているが、電流と電圧、力とエネルギー、温度と熱のような似て非なる科学の言葉の使い分けで混乱が生じたり、なかなか科学の基礎概念の定着に至らない」と原田氏。科学概念の本質や違いを明確にした資料作りの必要性について語った。また、丁寧な資料作りの結果、情報量が増加して消化不良になっていると指摘。資料作りの際はポイントを明確にして絞り込む必要があると主張した。

授業づくりでは、指導者が教材理解や概念理解を深め、科学の言葉を明確にして使い分けを意識させる工夫を重ねることが大切である。「全くわからない現象では生徒は興味を示さない。半わかりの状況があるからこそ探究意欲が生まれる」と、生徒が疑問をもつ場面づくりの大切さを説いた。

子ども達の実生活に即した課題設定をする

英語部会の報告

大津リサ 氏(飯塚市立頴田中学校 教諭)

英語部会の報告で登壇したのは、福岡県飯塚市立頴田中学校教諭の大津リサ氏だ。

「グループに特大の資料を一枚だけ準備し、時間になると資料を見られなくなるような環境の工夫をプラスして取り入れた」と大津氏。それによって、ワークシートだけを見せて交流することを防ぐことにつながったと語る。「自分の言葉でRetellingすることが内容の理解につながり、ポイントだけを報告することで報告者への質問が増えて話し合いの活性化にもつながった」と付け加えた。

理解度に差があってもクロストークでカバーできるため、学習者同士の教え合う力を信じて任せることも重要だ。「子ども達の実生活に即した課題設定をすることで課題解決に向けた意欲が高まる」と授業づくりのポイントを挙げた。

多面的、多角的に考えることを促す

道徳部会の報告

田村麗子 氏(安芸太田町立加計小学校 教諭)

最後は、広島県安芸太田町立加計小学校の教諭、田村麗子氏による道徳部会の報告となった。

「道徳でジグソー法を使うのは難しいのではと最初は思っていたが、学習指導要領が変わった今の道徳とは合うのでは」と切り出す田村氏。他教科では参加しにくい児童も道徳では生き生きと学習していたと話す。また、ジグソー法では多面的、多角的に考えることを促すため、学力差があっても全ての児童が同じ土俵に上がることが可能な道徳には適していると考えている。

例えば、公正公平の授業で、差別をなくそうとする人、差別をする人、傍観者の立場から考えるなど、価値を深めるために、いろいろな視点で見て考えるような内容項目ではジグソー法を取り入れやすく、読み物教材ではそれぞれの立場が明確にわかっているのでエキスパート資料が作りやすいという利点もある。「道徳では実践意欲を見取るような内容も振り返りで聞くといい」と提案した。

各部会の報告後の質疑では、「例年はラウンドテーブル形式で教科ごとに実践報告と意見交換をしていたが、今年は専門以外の教科の報告内容も聞くことができて、参考になった」「自身の教科でも、教えたからわかっているだろうと、つい期待してしまうが、忘れているかもと意識して資料を準備することは大事」など、他教科の報告から自身の教科に共通するコツも見出せたという感想も多く出た。

記者の目

今回の報告会で多くの登壇者が得た気づきは、「知識構成型ジグソー法」を取り入れることによって児童生徒の対話が進んで深い学びを促すだけでなく、授業研究を行った教員達の意識改革が進んで学びにつながったという点ではないだろうか。授業研究自体が教員にとっての「協調学習」となっていることが印象的だった。
また、コロナ禍で大きく変化した教育現場においてICTを活用した授業研究を継続することで、主体的・対話的で深い学びを諦めないという学校側の姿勢を強く感じた。これからのICT活用の現場がさらなる進化を遂げることで、学びにおける多様性がより深まっていくことを願う。

取材・文・写真:学びの場.com編集部

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