2024.01.22
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一人一人の「こころのふた」 を見つける(後編) 「どんな行動を取るか」子どもたちが自分自身で見つける

2018年から全国の小学校でスタートした「特別の教科 道徳」。新しくなった道徳の授業では、「主体的・対話的で深い学び」を実現する指導が求められている。では、主体的・対話的な深い学びをもたらす授業とは具体的にどんなものか。

後編は古市剛大指導教諭へのインタビューを紹介する。

個別最適な学びを促すことで、議論が生まれる

古市剛大指導教諭

―今回の教材「バスの中で」について教えてください。

古市指導教諭(以下、古市) バスに乗った主人公がおばあさんに席を譲るかどうか迷います。悩みながらも、おばあさんの様子や思いを汲み取って、主人公の私が一歩前に踏み出して、声をかけることができるというお話です。

ほとんどの子どもが一人でバスに乗る経験がありません。ピンと来ない部分もあるかもしれませんが、子どもたちには教材を通して経験してもらいたいと思っています。

―授業で工夫した点について教えてください。子どもたちの反応はいかがでしたか。

古市 子どもたち一人一人が自分の問いを作るようにしました。文部科学省の新学習指導要領には「『個別最適な学び』と『協働的な学び』の一体的な充実」が掲げられています。自分なりに具体的な「個別最適」を考えてみました。今まではみんな一緒の問いを考えていました。「でも、それって本当に子どもが考えたい問いなのか」と疑問を持つようになって……各々が問いを作る方法に行き着いたのです。

また、立てた問いが立てっぱなしで終わらないように、まとめには自分の問いについて、自分が一番納得できる答えを書かせるようにしました。まだ実践をはじめたばかりなので手探り状態で、今は自分がコーディネートしていますが、子どもたちが自発的に対話できるようになればいいですね。さらに言えば、集団で話し合わなくても、自由に席を移動して、いろんな人と語り合っているうちに自分の考えがまとまれば理想的ですね。

「道徳の教科化」で広がった道徳授業の可能性

―2018年度に、「教科外の活動」とされていた道徳が教科になり5年が経ちました。以前と比べて変化がありますか。

古市 教科化をきっかけにいろんなところで研究されて、さまざまな授業スタイルが示されて、質もだんだん上がってきているように感じます。以前は「どんな気持ちでしたか?」と登場人物の心理を追いかけるばかりでしたが、現在は「どんな行動を取るか」子どもたちが自分自身で見つける形に変化しつつあります。

個別最適を具現化するための2つの視点

―個別最適な学びを実現するための工夫を教えてください。

古市 子どもたちの様子を見るうえで大事にしている2つのポイントがあります。1つは「自分のこととして考えているか」、もう1つは「考えを広げられているか」です。

友達の意見を取り入れてまとめの参考にするとか、おばあさんの立場になって考えたり、「おばあさんがもし倒れたら」と先の状況を推測したりするのも考えを広げていることになります。本来なら、いい考えをしている子どもにはその場で即誉めてあげたいところです。授業しながらだと難しいので、ノートにコメントを残しています。

―どのように子どもたちに対話を促していますか。

古市 ついつい子ども一人と先生だけの1対1の対話になってしまいがちですが、なるべく受けたものは「その気持ち分かる?」「同じこと思ったことある?」と問いかけて、全員に返すことを意識しています。

教育現場での気づきから生まれた絵本

―6月に出された絵本『きみのふた、どんなの?』について紹介してください。

古市 この絵本には「私たちの心の中には一人一人自分にぴったりのふたがあるよ」というメッセージが込められています。教師として子どもたちと触れあううちに生まれた物語です。学校で子どもたちを見ていて、「もっと心のコントロールがうまくなっていたら、自分らしく生きられるのになあ」と考えていました。

ついつい人に合わせてやりたいことを我慢したり、逆にちょっとしたことで、カッとなってトラブルになったりするのを目の当たりにしました。うまく伝えるにはどうしたらいいか考えているうちに「こころのふた」を閃めきました。

「バスの中で」に照らし合わせてみましょう。迷っていたときは、下から助けたいエネルギーが溢れているのに、外に出て行かない状態。キツキツでふたが開かなかったからです。ふたは絶対に必要です。誰しも人間的な弱さを持っていいし、それはあっていいものだと私は考えたいと思います。でも弱さを持ちながらも、人を助けたい気持ちを溢れ出させるようなふたであってほしいですね。

―今後の課題を教えてください。

古市 「個別最適な学び」に関してはこのやり方に磨きをかけていきたいですね。残る「協働的な学び」ついて、道徳の授業に落とし込んだ姿を探究していきたいです。

記者の目

記者が小学校で道徳の授業を受けたのは30数年以上も前のこと。道徳は他の科目と違ってはっきりした答えがない。先生に当てられないかとドキドキ。当てられた後みんなの前で意見を言うのもドキドキ。とても議論するどころではなかった。古市指導教諭が考案したハイブリッド授業なら、緊張することなく議論に参加して、自分らしい答えを見つけられそうだ。
また、自分の意見をまとめることが必要な道徳以外の科目にも応用ができそうで、可能性を感じた。

取材・文・写真:学びの場.com編集部

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