2022.11.01
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学びの過程を「見える化」すれば授業研究が変わる(後編) 共同研究「子どもの学びの見とりと授業デザインを支えるFuture LS Roomの開発」の取組事例

「子どもの学びの見とりと授業デザインを支えるFuture LS Roomの開発」のコンセプトやシステムを活用した授業研究ワークショップについて、前回は対象の授業、活用したシステム、授業者の先生の声を紹介しました。後編として今回は、ワークショップに参加した先生方の声を紹介します。授業そのものは中学校の理科ですが、このワークショップには主体的・対話的で深い学びのための授業づくりに取り組む様々な校種・教科の先生方にご参加いただきました。

今回はそのうち、CoREFプロジェクトの研究員でもある、高等学校の数学、国語の2名の先生に、ワークショップの感想、学瞰システムの活用と効果について伺います。高等学校というと小・中学校に比べてまだ教科を超えた授業研究の取組が進んでいない学校が多いのではないでしょうか。そんな中でこうしたシステムも活用することで、どのように授業研究が変わっていきそうかについてお話しいただきます。

4.学瞰システムの活用と効果

「生徒の学び目線」での授業研究へ

(1)埼玉県立浦和高等学校 数学科 木戸 俊吾 主幹教諭

埼玉県立浦和高等学校 数学科 木戸 俊吾 主幹教諭

今回のワークショップ(授業研究)では、まず一般的なビデオカメラを用いて、生徒の活動をすぐそばで撮影した動画を用いて学習の様子を観察した。しかしながら、「生徒が活動している」ということは見て取れるものの、何を言っているのか、誰が発言しているのか、など細かい活動の様子は判断することが難しかった。その後、学瞰レコーダーで撮影した動画で視聴しなおした。声が聞き取りやすくなり、どのようなやり取りをしていたのか明確になった。他の参観者もこの差に驚いており、これだけでも生徒の学びを見とるのに役立つと感じた。

そのうえで本格的に授業の記録を見る前に、まず参観者自身が生徒になったつもりで一度授業を体験した。理科は専門ではないが、体験を通じて自身が教材についての内容理解を深めるとともに、生徒の学びの様子や解答を予想することにつなげることができた。

ワークショップの様子

その後、実際に生徒の一連の学習の過程について、どのタイミングでどんな考えをもっていたか、何をきっかけにどのように考えを変えていったかを考察した。ここでは、学瞰レコーダーで撮影した動画に加え、学瞰システムで書き起こした発話記録も利用しながら活動した。これらのシステムを使うことで、生徒の発言や思考の変遷を見とれるようになり、事実に基づいて「どのような理解(流れ)で解答にたどり着いたのか」「理解の手助けとなったきっかけやキーワードはあるのか」といったことを検討しやすくなった。

また、最後の解答には正解が記述されていても、発話記録ではまだ理解できていないと判断できる部分も発見することができた。これらは、授業改善や生徒の学びの見とりに向けて大切な視点ではあるが、今まではワークシートなどから想像せざるを得ない部分でもあり、学瞰システムの効果を実感する部分であった。また、気になる点や前後の経過を繰り返し確認できることで、改善案等も「この発言だと…」「さっきのやり取りと合わせると…」など、複数の事実を組み合わせることができ、より深く考察できたと感じる。

 従来の授業研究では、指導の仕方(発問・板書等)の「教師目線」を中心に行われることが多かったように思う。学瞰レコーダー・学瞰システムを利用することで、生徒の発言が見える化し、「生徒の学び目線」での授業研究がしやすくなるのではないか。今後もぜひ利用していきたい。

1人1台もいいけれど……「3人1台」がもたらすイノベーション

(2)武南高等学校 国語科 畑 文子 講師(元埼玉県立高等学校教諭)

武南高等学校 国語科 畑 文子 講師(元埼玉県立高等学校教諭)

日本中の教室で「どういうこと?」「そっか!」という声が交錯している。

「?」と「!」を「気づき」と呼ぶなら、気づく環境作りが学瞰システム開発者の第一の狙いであり、授業者の夢見る教育現場なのだろう。

「学瞰システム」は教育現場における目と耳の拡張である。システムの開発と普及の現場に立ち会い、実験的実践の目撃者として、その変化について記録してみたいと思う。

驚くべき変化はまず教える側におとずれる。教育現場の新システム導入は、まず学習者の効果を念頭において図られる。新しいものに柔軟な子どもたちは、学瞰システムの導入を抵抗なく受け止める。これまで何度かシステムを利用した授業研究の映像を分析しているが、子どもたちとシステムはいつも既にすっかりなじんでいる。3~4人で1つの機器を囲み、慣れた手つきでヘッドセットを装着する様子は頼もしくもある。そうなると、新システム導入の鍵は先生たち(授業者)にとって、どうあるのか。これについては、次のように前・現・後の3観点で大きな変容が期待できる。

  • 「前」効果:授業デザインの変化
    後日紹介される「学譜システム」では、教材や学習項目別に整理された過去の授業実践を参考に、自分の教室に合わせた授業展開の工夫が容易にできるようになっているのだが、そこに実映像が併載されることによって、あらかじめ予測が難しい《躓き》や《転換》のタイミングを知ることができるため、授業展開のイメージを作りやすくなる。
  • 「現」効果:状況対応力の変化
    刻一刻と変化する子どもたちの変化を見とり、適切なコメントを返せるようになるには、従来長い時間と経験が必要だとされた教育現場であるが、このシステムは、若手の教員を先へ促すアシストとして力を発揮するだろう。
  • 「後」効果:評価の変化
    子どもたち個々の変容が可視化されることは何よりだが、教室全体の集団的変容も改めて映像で確認すると顕著である。そして教室で最も見とりづらい、個と個を繋ぐ関係性(互いにどう働きかけることで変化していくか)を見とり、その関係性をプラスに回していく教師のスキルアップが実現するだろう。

学瞰システムの画面

今後学瞰システムのひろがりは、空間・時間の両面で期待できる。実際、東京のセミナーで広島の小学生の「そっかー!」を見取ることができるのだし、一度実践された授業が、後日、山を越え、県境を越え、授業者・学習者を変えて実施されている。その場その場での子どもたちの笑顔、という指標でしか見取ることができなかった「気づき」を、映像として把握し、記録していくことができるという時代の訪れに感謝し、知識・責任・創造の力を身につける育みのプロセスを、「学瞰システム」で共有していければ素晴らしいと思う。

次回は、広島県安芸太田町立安芸太田中学校での授業研究システム活用例を紹介します。

文:一般社団法人教育環境デザイン研究所 CoREFプロジェクト推進部門 主任研究員 飯窪真也

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