2022.08.29
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自らが考えた「問い」を切り口として学びを深める(前編) 山形県立米沢東高等学校「地理」授業リポート

山形県立米沢東高等学校で専門の地理を中心に授業を担当する高橋教諭。生徒達の「主体的・対話的で深い学び」が実現できるよう、さまざまな手法を取り入れた授業を手がけている。2022年7月、デジタルホワイトボード「Google Jamboard」を活用した3年生の地理の授業を取材した。

【授業概要】

学年:高等学校3年
単元:地理B「ヨーロッパ」
授業者:高橋 英路 教諭
活用するツール:Chromebook(山形県教育委員会は県立高校の生徒全員を対象に1人1台パソコンを貸与している)、Google Jamboard

導入:天気予報を視聴

授業本編に入る前に、まずニュース番組の録画を全員で視聴する。内容は昨日の山形県の天気予報で、県内各地で大雨の影響が続いているというものだ。

「昨日の雨、すごかったですよね、○○さん、大丈夫だった?」と切り出す高橋教諭。「さきほど見てもらった映像には、2年生の地理の授業で習った内容が登場していました。では問題です。暑い日、夕方くらいにスコールのような雨が降りますが、さて、どうしてでしょうか」

「日差しによってアスファルトが熱くなり、上昇気流が起きて…」と答える生徒。

「そうですね。何気なく見ている毎日のニュースや新聞にも地理の知識がけっこう関係していると思いませんか」と続ける高橋教諭。VTRを活用し、身近なことも、地理に関係しているというのだという意識付けを行ってから、授業本編に入っていく。

前時の振り返り

続いて、前時の振り返りに入る。授業時に生徒が「Google Jamboard」で共有した意見をプロジェクターに投影する。アフリカの単元の初めと終わりのJamboardの内容を比較する。一見するだけでも、情報量、濃度がまったく異なることがわかる。

「どうでしょう。2、3時間学んだだけでけっこう成長した感じがしますね。今日から学んでいくヨーロッパは濃いですから、変化がより一層、楽しみですね。」と高橋教諭。

高橋教諭は各単元の授業を次のような流れで行っている。今回取材したのは、文系地理選択者10名のクラスだが、理系30名や2年生の政治・経済の40名のクラスでも同様である。

  1. Jamboardで意見出し、「問い」づくり
  2. 「問い」についてレポート作成・発表
  3. プリントを用いて、重要事項の講義・補足説明
  4. 学習内容を踏まえ、再度Jamboardで意見出し、「問い」づくり
  5. 新しい「問い」についてレポート作成・発表

資料映像からヨーロッパに関するイメージを想起

続いて、今回の単元のテーマであるヨーロッパに関する1分程度の映像を全員で視聴する。教科書、資料集は一切開かず、これまでに学んだ知識でイメージを浮かべていく。

「ヨーロッパはアフリカと比べると、より身近な印象があるかもしれません。どんなことでもいいので、印象を書き出してみてください。どこの国でも構いませんし、ヨーロッパ全体のことでも構いません」

「ヒントとなるキーワード」をいくつか提示する。

  • 自然環境(地形、気候)
  • 産業(農業、鉱工業、商業)
  • 民族、宗教、村落、都市
  • 諸課題(〇〇問題)

「まず2年生の時に勉強してきたことは、ヨーロッパにあてはめてみた時にどう関係するのか?といったことを思い浮かべてみてください。もちろん、中学校の授業で学んだことでも構いませんし、みんなが日常生活で思っていることや、新聞に載っていたことでもいいです」

Jamboardで問いづくり

Jamboardを開き、あらかじめ設定されている「地理クラス」に入り、3~4名のグループに分かれてボードを作成。意見を付箋に書き込んでいく。この後は、次のような流れで進む。

  • 個人ワーク(7分間)
  • グループ(10分間)
  • グループ内での問いづくり
  • 発表

「できるだけ、思い浮かんだことをどんどん入れていきましょう」と高橋教諭がアシスト。生徒たちは黙々と思い浮かんだことを付箋に書き込み、ボードに貼っていく。

続いて10分間、グループ内で議論を行う。各グループでリーダーを決め、リーダーを中心に、自由に議論していく。

「食べ物はボードの右下に集めようか」
「イギリスは『ハリー・ポッター』のイメージがあるなあ。もしかして宗教と関係しているのかな」
「グループのみんなが最も関心を持ったことに関する写真を入れてみる?」

グループによっては、写真を検索することに専念する担当を置くなど、明確に役割分担をして進めるグループもあった。それを見た高橋教諭は「余裕がある場合は、写真を入れてもらってもいいですよ」と他のグループにも共有する。

続いて、各グループごとに、考えた問いをボードに書き込んでいく。この段階から、後から行う発表も視野に入れ、付箋ごとに色分けをしたり、枠をつけて見やすくするなどの工夫をしていた。

また、高橋教諭からは「他のグループのボードを見て比較し、整理してもいいですよ」とアドバイスが出ていた。

「問い」を発表

「みんな、たくさんの意見を出してくれましたね。一つひとつ細かく読んで発表してしまうと、他の人が聞きにくくなってしまいます。どんなところを中心に議論を進めたのか、というところを意識して発表してくれるとありがたいです。また、驚くような発見があったらぜひ発表してください。あまり気負わないで発表していきましょう!」と高橋教諭。

Aグループ「文化の話題がたくさん出たので、文化について調べてみたいと思いました。エッフェル塔など、ヨーロッパの象徴的な建物ができた理由について調べたくなりました」

「文化が、けっこう細かいところまで出ていましたし、バカンス制度や偏西風など、地理で学んできたワードがしっかり入っていて、とても良いと思いました」と高橋教諭。

Bグループ「パスタやピザ、ワイン、パエリアなど、食べ物に関するワードが多く出ました。なぜヨーロッパの食べ物は世界的に親しまれているのか?という問いについて調べてみたいと思いました」

「Bグループは、食べ物に関するワードが多かったということですが、中でもオリーブなど、2年次の地理の授業で、農業に関する単元で学んだことが多く入っていたのはとても良いと思いました」と高橋教諭。

Cグループ「『ハリー・ポッター』や映画に関する話題が多く出ました。そこから話し合いを進めていくうちに、ヨーロッパには、なぜ歴史的建造物が多いのか?という問いについて調べることにしました」

「他2グループと異なり、4人編成のグループなので、そもそも分ける作業が大変だったのではないでしょうか。うまくいろいろなグループに分けてくれたのではないかと思います。歴史的建造物について調べるとのことですが、文化によって建造物の形というのは異なります。たとえば、教会ひとつにしても、宗教の宗派によって形がまったく違ったりします。そうしたところを深掘りして調べてみても面白いかもしれません」と高橋教諭。

「次の授業までに調べてきましょう…と思いましたが、次の授業は明日ですね。それは少し大変なので、次回の授業でもう一度調べてみて、わからないところを次々回の授業までに自宅で調べてくることにしましょう」と高橋教諭の締めの言葉で本時は終了した。

リポート後編では、アクティブ・ラーニング実現のための工夫、「地理総合」「地理探究」と科目名が変わった高校地理に関する所見やアドバイスなどについてインタビューする。

取材・文・写真:学びの場.com編集部

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