2022.12.01
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学校現場での授業研究システム活用例 中学校編(前編) 共同研究「子どもの学びの見とりと授業デザインを支えるFuture LS Roomの開発」の取組事例

今回からは実際の学校現場における授業研究システムの活用事例について学校現場の先生方にご紹介いただきます。今回ご紹介いただくのは、CoREFプロジェクトに参加する広島県安芸太田町立安芸太田中学校の授業研究の実際の様子についてです。前編では、2年生理科「マグネシウムの二酸化炭素中での燃焼」の授業内容と見とった生徒の様子、協議の内容について、広島県安芸太田町立安芸太田中学校の五島暁人先生よりご紹介いただきます。

1 はじめに

「学瞰レコーダー」で対話を記録

本校は、広島県の北西部に位置する全校生徒47名の小規模の学校です。常勤の教職員は15名、数学と英語以外は各教科1人で全学年を指導しており、教科の枠を超えて、皆で授業改善を図る必要があります。そこで本校では、「仮説検証型授業研究」を校内研修の中に位置づけ、教職員一人一人の子供の学びを見とる力を高めることを通して、授業力の向上に取り組んでいます。

本校で取り組む「仮説検証型授業研究」では、事前に、授業者以外の教員が実際に課題を解いてみて、子供たちがどのような学びをしそうかを考え、授業者が想定する学びと一致するかを検討します。その検討を通して、授業者が想定している授業デザインを皆で共有します。実際の授業では、事前の想定と比較しながら子供たちが話したり書いたりした学びの事実を丁寧に見とり、授業後の協議では、子供たちはどうして想定通り考えたのか、あるいはどうして想定通りに考えなかったのかを考察します。そのことから、次の授業につながる仮説を立て、授業改善のPDCAサイクルを回していくことになります。

この「仮説検証型授業研究」の中で私たちの見とりを支えているICT技術が「学瞰システム」です。「学瞰システム」を活用することにより、子供たちの分かり方やつまずき方の過程を「可視化」することができ、これまでの授業研究では見えなかったり、見逃していたりした子供たちの学びの姿が見えてきています。

2 中学2年生理科の授業研究から

図1 本時の授業展開

それでは、具体的に「学瞰システム」をどのように授業研究に生かしているかについて、2022年6月に中学2年生理科「さまざまな化学変化」の単元で実践した、「マグネシウムの二酸化炭素中での燃焼」の授業と、授業後の研究協議の様子を紹介します。

授業では、図1に示しているように「知識構成型ジソー法」の手法を用いて、課題「マグネシウムが二酸化炭素の中で燃えた時、集気びんの中で何が起こっているか?(前時に行った)実験で起きた化学変化をモデルを用いて考え説明しよう。」の解決に取り組みました。エキスパート資料は下記の3種類です。

  • 資料A 『燃える』とは、どのような化学変化?
  • 資料B 『酸化・還元』とは、どのような化学変化?
  • 資料C 酸素の性質~酸素と反応しやすい原子とそうでない原子~

授業後の研究協議では、参観した教員の見とりと「学瞰システム」によって書き起こされた対話記録をもとに協議を進めていきました。「学瞰システム」での書き起こしの一部を表1に、研究協議で出た意見を、表2に示します。

表2に示す通り、協議の中では、理科の指導内容に関する意見もありましたが、学び方についての意見もありました。これらの気付きは、理科以外の授業づくりにも生かすことができるため、次の他教科の授業研究につなげることができています。

表1 学瞰システムの書き起こし(ジグソー活動の一部抜粋)
場面 各エキスパート資料の内容の交流を終え、モデル図を見ながら、3人で課題を解決している場面
対話の場面 A 白いのは下にあったよね。
B その白いのがMgOよね。
B MgOってくっつけておいたほうがいいかね? 1個1個別々じゃないじゃん。
C くっつけとるよ。
B そうじゃなくて・・・Mgが6個あって・・・
C でも、1つ1つが結びついてるじゃん。
B でも、これ(モデル図のMgを指しながら)に酸素がくっついているんでしょ?全部くっついとる中に・・・
A えっ分かれんの?
B 分かれていたならなんていうん・・・あっでもさっきのAさんのやつ(エキスパート資料)か。
A 分子になるんじゃないの?
B そっか・・・分子になるんか・・・
表2 授業後の研究協議で出た意見

理科の指導に関わること

  • 本課題を解決するためには、燃焼には空気中に酸素分子が存在することが必ず必要ではなく、他の物質の持つ酸素原子と結びつくことで燃焼が起こることを理解することがポイントになるが、生徒の発話からそのことについての言及が少なかった。エキスパート資料で「空気中の酸素と結びついて二酸化炭素になる」という記述があったため、その意識がジグソー課題まで強く残り、一部の生徒のつまずきを生む原因になっていたのではないか。
  • 発話記録を見ると、「燃焼」や「燃えた」という化学現象を意識化するような発言が見られなかった。原子・分子の移動や結びつきに生徒の思考が集中してしまったことが原因ではないだろうか。
  • 原子・分子のモデルで集気びんの中央にあるマグネシウム原子を「浮かんでいる=気体」と捉えてしまっていた。

生徒の学びの姿に関すること

  • 酸化マグネシウム分子がどのような状態で存在しているのかを、対話を通して考えを深めていた。
  • 原子・分子のモデルを操作し、そのモデルの動きを拠り所としながら対話を進め、生徒同士で考えを深めていた。
  • 普段のペアやグループ学習ではなかなか自分の意見を発言することができない生徒も、自分の担当したエキスパート資料の内容を説明したり、ジグソー活動で他の生徒と対話したりしながら主体的に課題を解決しようとしていた。
  • モデル図を操作することを取り入れたことで、学力差を超えた対話を生み出していた。
  • 発話記録とワークシートの記述を比べてみると、発話では上手く説明できていても、記述では上手く説明できていない生徒がいた。このことから、話すことと書くことの間には大きな壁があるのだと感じた。

3 「学瞰システム」を活用した研究協議のメリット

  • 授業の様子

  • 研究協議の様子

  • 「学瞰システム」の画面

「学瞰システム」を授業後の研究協議に活用することで、教員は生徒の対話をもう一度見直すことができます。こうした学びの「見とり直し」により、どの場面でどのように思考していたのか、つまずきが起こっていたとしたらなぜなのかなど、学びが深まった場面の対話データを行き来しながら議論することができます。こういった議論を重ねることで、「生徒の学びの事実」をより俯瞰的に、かつ正確に捉えることができるようになりました。

また、通常の研究協議では担当教科以外の授業に対して指摘や踏み込んだ発言がしにくいものですが、「学瞰システム」を活用し、生徒の学びの過程を「可視化」した研究協議では、「生徒の学びの事実」を根拠とした協議となり、他教科の授業でも意見を述べやすく教員一人一人が主体的に研究協議に取り組むことができます。

このように「学瞰システム」を活用した研究協議では、生徒の学びの過程を「可視化」することで、「生徒の学びの事実」を根拠とした研究協議、そして、それにともなう授業デザインの見直しができるようになったことが最大のメリットであると考えています。

また、以上のような研究協議を通して磨かれた「生徒一人一人の学びを見とる力」や「それに基づく授業を改善しデザインする力」は、普段の授業改善や授業デザインにも生かされているのではないかと考えています。

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後編では、広島県安芸太田町立安芸太田中学校の今田富士男教頭先生に、ツールを活用した授業研究の感想とツールの活用状況について紹介いただきます。

五島暁人

広島県安芸太田町立安芸太田中学校 教諭
「生徒一人一人が主体的に課題の解決に取り組みながら、他者との対話を通して自分の理解を深める」協調学習を教室の中で実現するために、校内の他の先生方と一緒になって日々授業研究を進めています。協調学習を実現するための鍵は、授業中の「生徒のつぶやき」を聞くことだと考えています。

文・写真:一般社団法人教育環境デザイン研究所 CoREFプロジェクト推進部門

※当記事のすべてのコンテンツ(文・画像等)の無断使用を禁じます。

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