2025.01.25
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自分のペースで学べる児童を育てる 個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実のための指導の手引き 第5回

国立大学法人北海道教育大学 未来の学び協創研究センター UDLラボの連載第5回では、学び方の選択肢を自ら選ぶことができない場合や、選んだ学び方でゴールを達成できない場合の支援について取り上げます。

キーワード:自己調整、個別最適のための選択肢(オプション)、協働による動機づけ

カリキュラムの障害を見つける

写真1 スタンディングデスク(左)と、児童が描いた解説漫画例(右)

45分間じっと座って授業を受けることが難しい、ノート指導をしてもなかなか取り組むことができない、学習塾などですでに授業の内容を学習している児童は教科書の他のページをめくっている、学習中に給食の話をしている・・・・
授業中にそんな様子を見ていると、「学級経営」、「学習規律」、「子どもの特性」などに原因があると考えるかもしれません。

そこで一つ「授業のデザイン」についての視点があることにより、授業の見方が変化するのではないかと思います。

これまでの連載にあるように、

  • GoalとWhyを明確に提示し
  • バリアを特定し
  • オプションを用意する

というUDLというフレームワークを活用し、授業を実践していく中でうまくいかないこともたくさんありました。その度に、またUDLの考え方に立ち返り改善し続けるということを行ってきました。

例えば、小学4年生算数科において、考えてみましょう。知識・技能の獲得のための時間で、分度器を使って角度を測ることができることをゴールとした場合、これまでの自分の指導法は、「教師が黒板で分度器の使い方を一度見せ、教科書の練習問題の答えをノートに書く」というものでしたが、この指導法ではたくさんの障害があると考えたため、以下の表のように、障害を特定し、それぞれについての選択肢を用意してみました。

バリアは何か オプションとして
・45分間、自分の机で座ることが苦痛で学習に意欲がわかない。 ・教室の棚を利用し、スタンディングデスク(写真1左)や椅子を机にして地べたに座るなど、多様な学習の場を提供する。
・板書をノートに書くことで精一杯で、ゴールを達成できない。 ・ゴールの達成に必要なところだけ書くことができる学習プリントを用意する。
・練習問題をタブレットでできるよう、QRコードを用意する。
・分度器の使い方について教師から一度しか説明がない。 ・もう一度教師に聞きにくる、友達に聞く、動画教材を用意する。
・適用問題の量が多くてやる気が持続しない。 ・問題数によってコース(教科書に載っている練習問題が、例えば6問であれば、マスターコース:6問、ハイパーコース:4問、ノーマルコース:2問のようにコース分けをした)をわけ、評価の基準を示す。
・オプションを使って解ける、自分で解ける、その問題の解き方を説明できる、自分で問題を作り解説するなどの選択肢を用意する。
・一人で考え、わからずに諦める。
・自分の考えが書けずにペアで話ができない。
・グループで話し合うことが苦手
・一人で学ぶ、ペアで学ぶ、グループで学ぶ時間を区切らずに自分で学習方法を選択する仕組みにする。
・単元の見通しが持てず、何のために今の学習があるのかが不安になる。 ・単元プリント(図3)を用意し、何時間の単元で何がゴールになるのかを明示する。
・早くにゴールを達成してしまい、学習への意欲がなくなってしまう。 ・その日のゴールを達成できたと感じたら、追加の問題を解く、eboardの解説動画を見る、解説漫画(写真1右)を描くなどの課題を提示する。

このような選択肢を毎時間少しずつオプションとして用意し、練習していくと、クラスの8割くらいは自ら学習に取り組み始めることができました。しかし、それだけでは学びのエキスパートを目指せているかと言われるとそうではありませんでした。

障害を特定し、選択肢を与えただけではうまくいかなったらどうする?

1.選択肢を自ら選択することができない・・

図1 メリット・デメリットの表

実践を始めて1か月ほど経ち、多様な選択肢を提示しても、自分で選択できない子どもがいました。その子どもに障害があるのではなく、カリキュラムに障害があると考えてみると、どう選択したらよいのかがわからないという障害の原因について、たくさんある選択肢のそれぞれの特徴についてわからないなどが考えられました。

そこで、別の授業が早く終わった後の30分程度を利用して、それぞれの方法について、子どもたちにそれぞれの選択肢のメリットやデメリットを考えてもらいました。その意見をまとめたものが図1です。その後、クラスに掲示していつでも確認できるようにしたことで、子どもたちはいつでもこれらのメリット、デメリットを確認しながら学習方法を選べるようになりました。

学習形態(1人で座って、一人で立って、ペアで、グループで)についての選択肢の中では特に、ペアやグループで学習する際のメリットやデメリットについての記述が多く見られました。子どもたちの中でも、ペアやグループでの学習の際には、仲のよい子同士で学習すると勉強が捗ると考えながらも、どうしても学習に関係のないおしゃべりになってしまうことがあると回答していました。中には、そのバランスを取るために上手に一人で学習する時と、ペアでやる時を分けて学習している児童もいました。そうした子どもに対して、価値づけを行っていくことで、学びのエキスパートを目指していきたいと感じました。

図2 フローチャート

これらのメリットやデメリットは、選択する際の基準の一つではありますが、それでも自ら選択をすることができない児童もいました。そのため、次に取り組んだのがフローチャートです。どんな時にどんな方法をということがわかると選択しやすいのではと考えました(図2)。

そして、それぞれの選択肢については、一度全て一緒に試してみました。

一通り選択できるようにした後には、自分で選択し、そのフィードバックを行うことを徹底しました。少しずつではありますが、自分で選ぶことができるようになってきたように感じています。

2.選択肢を与えることで、新たなバリアが生まれ、学習のゴールを達成できない

自分で学習を舵取りする場合には、ゴールを達成することが重要になってきます。その際、どうしてもゴールを意識することが難しく、学習とは異なる話をしてしまう子どもたちも一定数いました。    

他にも授業のデザインとして障害はないかと考えることが重要です。

ペアやグループでの学習の際に、仲のよい子ども同士での学習になった際にどうしても他のおしゃべりをしてしまい、ゴールを達成できない様子がありました。そうした子どもたちには、「ゴールが達成できそう?」、「今はなんでこの学習方法で学んでいるの?」などと、ゴールや、学びを自分でコントロールしていることを意識できるように言葉をかけていきました。

写真2 自己調整カードを見ている姿

そうした言葉を何度もかけられていると次第に自分で学びをコントロールすることができるようになる子どももいれば、そうではない子どももいました。そうした子どもには、声をかけるのではなく自ら気づきコントロールすることができているという実感を持ってもらうために、小さなカードを持たせました(写真1)。

カードは両面で「先生と目があった」→「今日のゴールを確認する」、「学習中に他の話をしていたことに気づいた」→「時間を確認する」などと書かれています。そして、そのカードにはその子どもが好きな動物などを描き、いつでも確認でき、確認することが楽しくなるような工夫もしてみました。

何度も自分の授業を見直す

図3 単元見通し表の例

このような取組から感じたこととしては、大きく2つあります。

1つは、私たち教師の授業についての考え方です。授業中に子どもたちは多様な姿を見せてくれます。そうした子どもの姿を見た際に、「授業のデザイン」に何か障害がないかと考える視点を持つことがいかに重要かということに気づくことができました。学校教育の場では、子どもの特性、学級経営上の問題などとしてしまうことも多々あるかと思います。そうした視点だけでは、自分の授業の改善には至らないため、授業のデザインを考える必要性を感じました。

2つ目は、何度も自分の授業を見直し続ける重要性です。今年度、まずは自分の授業の障害を特定し選択肢を用意することにチャレンジし始めましたが、取り組んでいくうちに、自分の与えた選択肢が新たな障害を生み、さらに改善をしていくということが何度もありました。

例えば、「わり算の筆算の説明の仕方を説明できる」ことをゴールに設定した授業で、練習問題2問・4問・6問でコース分けをするという選択肢は、一問だけでも丁寧に説明しようとする児童にとっては、練習問題の量が障害になることもありえます。それは、「説明できること」がゴールであり、「たくさんの問題を説明できること」ではないからです。

他にも、「学び方の良かったところ、学んだところ」の振り返りに、授業の終わり7~8分を使っていたのですが、ゴールの達成のための時間を確保しつつ、学びのエキスパートを目指すために簡略化できるように工夫したりしました。

これらは、自分一人で取り組むのではなく授業について具体的に協議することができることで気づくことができた視点だと思っています。今回、UDL実践について一緒に伴走してくださった、北海道教育大学の川俣智路先生やバーンズ亀山静子先生がいたからこそではありますが、これからは自分でUDLの実践を改善できるようにならないといけないと感じます。そのためには、何度も試行錯誤をしてく必要があります。

筆者は、まだまだ教員経験が豊富ではありませんが、経験を積んでいっても、これまでの選択肢だけでは障害になることが出てくることもあるかと思います。そのため、ずっと学び続け自分自身がUDLを学ぶエキスパートになっていく必要があると感じました。

永田 拓也(ながた たくや)

公立小学校教諭5年目。広島大学の栗原慎二先生の元で、生徒指導や教育相談について学ぶ。レジリエンス教育やマルチレベルアプローチの考え方を軸に生徒指導に力を入れて実践中。これまで学んだこと、そして新たに学んだことを実践に生かすことができるように奮闘しています。

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