2021.03.22
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「しかけ」を見つけて読書の楽しさに気づく物語文の授業(後編) 物語文指導、子どもたち自身による授業づくりについてインタビュー

明石市立錦が丘小学校の川上健治教諭は、読書の楽しさに気づくことを狙いとした「物語のしかけをさがそう」という活動を設定して単元学習指導に取り組んでいる。また、授業の司会進行を子どもたちに任せ、自分たち自身による授業づくりを展開している。物語の楽しさを読み取ろうというという意識を持つことを促し、クラス全体で対話をすることによってそれぞれの「しかけ」のつながりから新たな気づきへと導く授業だった。

前編の授業リポートに続き、後編では、「しかけ」を教師から教えるのではなく、子どもたちが実際にさがす体験を取り入れた単元構想や、小学校3年生を対象にどのような授業づくりをしているのかなどを川上教諭にインタビューした。

物語の「しかけ」から読書の楽しみを見出させる

明石市立錦が丘小学校 川上健治教諭

―「物語のしかけをさがそう」という活動を単元構想の中心にした理由を教えてください。

川上健治(敬称略 以下、川上) 子どもたちに物語を読む楽しさを伝えたいと思ったことがきっかけです。子どもたちが図書館で借りる本は漫画のイラストが載っている本や図鑑等が多く、文庫本を手に取ることがほとんどないという現状を変えたいと思っています。

物語の「しかけ」は、作者が読者を楽しませるために作ったものです。何となく読むのではなく、「しかけ」を見つけようとすることで作者の意図を考えられるようになりますし、結果として読書の楽しさにつながると考えています。

―「物語のしかけをさがそう」という活動を通した単元学習指導の進め方について、具体的に教えてください。

川上 物語文の指導では、作品の設定、視点、中心人物の変化に着目して進めるようにしています。

第一次(3時間)では初発の感想を共有し、挿絵や語句の書かれたカードを分類して作品の設定を読み取りました。第二次(6時間)ではイメージマップを使って登場人物の人物像や気持ちの変化を整理しました。「しかけ」を盛り込みながら話を進めていくポプラ社の『おしりたんてい』の本も併用しています。『おしりたんてい』で「しかけ」を理解してから「ゆうすげ村の小さな旅館」を読み直すことで、「しかけ」を意識するときと意識しないときの「読む面白さ」の違いを、子どもたち自身がしっかりと感じられるようにしています。前回の授業をもとに本時は「しかけをさがそう」という活動を行いました。

第三次(4時間)では『ゆうすげ村の小さな旅館』に収録されている12の話から、手紙等の「しかけ」がある4作品を教師が選定し、4人班の一人ひとりに担当の話を決めてもらい、同じ話を担当した者同士でグループを作り、「しかけ」や面白さについて話し合った後に、班に戻ってそれらを共有してもらうジグソー法の活動を予定しています。

今回の授業では、「数あるしかけの中で特に重要なしかけはどれだろう」という学習課題を設定しました。他クラスの教師二人が「この話の中で一番大事なのはね…」と物語について掛け合いをしている動画を見せ、「私だったら〇〇が大事!」と主体的に授業に参加する意欲づくりを行いました。学習課題の解決のため、「しかけ」の選択肢を4つまで絞ってその中から選択してもらい、その理由も書くよう指導しました。

教師がいなくても授業を始めようとする子どもたち

―子どもたちが授業の司会を務め、自分たちで授業づくりをする姿が印象的でした。このスタイルの授業を始めたきっかけは何ですか。

川上 3年前までは教師が前に出て行う従来の指導方法だったのですが、同じ学年を担当している先輩教師の影響を受けて私も授業のスタイルを変化させました。子どもたち自身が司会をし、自分たちで指名して、教師がサポート役に回ることが理想ですが、3年生ではまだその段階に到達できていません。私が途中で介入するようにしていますが、将来的にはめあてを含めて45分の授業全てを子どもたちだけで作っていける状態になればと考えています。

―この授業スタイルによる子どもたちの変化を教えてください。

川上 気持ちの変化ですね。昨年は1年生、今年は3年生を担当しているのですが、どちらの子どもたちも私がいなくても授業を始めようとするので、授業は自分たちで進めていかないといけないんだという気持ちを持つようになったのが一番大きな変化です。やらされるというよりは自分で授業をするんだと、受け身の姿勢が能動的になっています。

―子どもたちが今の授業スタイルに慣れるまで苦労したことはありますか。

川上 今の3年生は今年度から担当していますが、慣れるまでは授業の進行に時間がかかりました。台本があって台詞が全部決まっていて、最初は一緒に声出しもしていました。最初の頃は教師主導なら1時間で終わる授業が2、3時間と長引いたこともありました。声出しや全員発表はまだまだ改善の余地があると思います。

毎時間、全員発表を目標に

誰かの間違いが自分の勉強になる

―発言することが苦手な子どもに対しては、どのような取り組みをされていますか。

川上 毎時間、全員発表を目標にしているので、良い意味での同調圧力があると思います。普段あまり発表できずにいる子が手を挙げたら、「〇〇さんが手を挙げているよ!」と声を掛け合い、安心して発表できるクラスづくりを心がけています。

また、「〇〇さんが間違ってくれたおかげで自分の答えも間違っていることがわかりました」など、間違いから新しい勉強ができるということを伝えています。誰かの間違いが自分の勉強になるから、間違えていても黙らずに発表しようねと。最初の頃より、みんなの前で間違えることへの抵抗がなくなってきたと思います。

―授業づくりで重視している点を教えてください。

川上 導入が一番大事だと思っています。導入で意欲的にならないと45分は持たない。3年生という発達段階では注意があちこちに行きやすく、導入でいかに興味を持たせ、集中させられるかが重要になります。

今回は初めて、導入に動画を使いました。2年生のときの担任の先生と隣のクラスの先生という、子どもたちが好きな先生に動画に出てもらうことで、興味を持ってもらえるように工夫しています。

―これからの目標や課題について教えてください。

川上 導入の仕方で主体的になれば話も弾み、話が弾めば学びも深くなると思います。大事なのは主体的になれること。そのためには、考えたくなるようなめあてや課題設定が必要です。今日は導入時に動画を使いましたが、新任の先生でも簡単に使えるようなパターンを増やしていけたらいいなと。また、このような授業の進め方が全校に広がっていけば、もっと良いつながりができるのではとも考えています。

記者の目

子どもたちが司会をして全員で返事をする等、子どもたちが主体的に動くことで授業が進んでいく様子がとても印象的だった。全員での声出しや積極的な挙手と発言に、授業への子どもたちの意欲の高さを強く感じられた。取材中に川上教諭が話されていた、「子どもたち全員で授業づくりをしている」という言葉にも大いに納得させられた。発言することが苦手な子どもをみんなでサポートし合うことも含め、授業内での学びは普段の生活の場でも活かしていくことができるはずだ。何事にも主体性を持って取り組むことの大切さについて、改めて考えさせられる良い機会となったように思う。

取材・文・写真:学びの場.com編集部

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