学校の水泳は,これからどうなるの? ~地域の環境を活かし,生涯にわたる豊かなスポーツライフへ~(14)
猛暑の影響を受けた7月の水泳授業。プールサイドが熱すぎて足の裏が......,熱中症指数が上がり,今日も水泳授業ができない......。そんな大変な中で,各校の工夫と努力があったことと思います。
こうした現状に対応し,自治体では屋内プールの活用を公営・民営含め検討するところも増えています。それに伴うメリットや課題について,前々回で静岡県A小学校の授業を元に考察しました。
今回は,隣の市で異なる取組を進めるB小学校(以下B小)の授業から考えます。B小の学区は西に天竜川,南は遠州灘に接しています。子どもたちが水辺の遊びに触れる機会は他の地域よりも多いのではないでしょうか。
静岡大学大学院教育学研究科特任教授 大村 高弘
特別なインストラクター

授業会場は遠州灘が間近にせまる、地域のプール施設。この施設では,カヌーやヨットなど水上スポーツの体験も可能です。また公園オートキャンプ場も隣接し,休日には家族連れで賑わいます。
早めに着いた私が駐車場で待っていると,教務主任のS先生が自分の車で到着。授業の支援と緊急対応(車両)の役割を担うようです。
大型バスで、B小の4年生3学級が移動してきました。
着替えと準備運動を終えると,前半は屋内プール(25m)での着衣泳です。学区が位置する場所の特徴からしても,重視すべき内容と言えるでしょう。
授業を主となって進めるのはインストラクター。先生方は全体の掌握や子ども個々の支援にあたります。
子どもたちは大プールに入水し、着衣で歩いたり泳いだり。まずは自由な活動が始まりました。
「動きづらいけど,楽しい!」
「ズボンが脱げちゃいそう」
などと笑顔いっぱいです。
今回の講習でインストラクターが特に重きを置いたのは「背浮き」。
体を弓なりにするのは,4年生にはなかなか難しいようです。
「できるだけたくさん息を吸って,肺にためるんだよ」
「おへそが水面から出るように」
「あごは上げる!」
具体的な動きのこつがインストラクターから伝えられます。それを受け、先生方は個々を見て体を支えたり,動きの助言をしたり。
「うまく浮けないときは,手や足をこうして小さく動かすといいよ」
自らも背浮きで手をかきスカーリングを見せるインストラクター。実はこの方は、この施設の所長さん。4年生の中には知り合いの子もいるようです。子どもをかわいいと思っていることが表情に出て,親しみやすさを感じます。
「先生,いいプレゼント,ありがとう」

教務主任のS先生による子どもへの支援
授業後半は泳力調査。全員が泳ぎ終わると少し時間が残っているようです。
屋内プールの北側には大きな流水プールがあり,この日も稼働しています。すべり台もあって,休日には多くの家族連れや若者が憩い楽しむ場所です。そちらへ移動しての自由泳ぎが子どもたちに許されました。
「やったぁ!」
「先生,いいプレゼント,ありがとう」
水の流れに乗り喜んで泳ぐ子どもたちを,高齢の監視員さんが優しい眼差しで見守っています。
「ああ,楽しかった」
「先週の土曜日にもここ来たよ」
「夏休みにまた遊びに来たい」
泳ぎ終わった子からはこんな言葉も。
子どもたちは今回の授業をきっかけに,更衣室やシャワーの使い方にも慣れたことでしょう。地域のプールは多くの子の身近なものになったはずです。しかも小学生は110円で利用が可能です。
学校のプール開放がなくなって久しくなります。でもB小の子どもたちは,休日・夏休みにも友人や家族と気軽にここへ来て、泳ぎ遊ぶことができます。
地域の人々と共に
終了後はB小におじゃまし,校長や教務主任にお話を伺いました。
B小が校外プール使用に至ったのは,自校プールの老朽化に伴う理由でした。校外プールへの移動時間の確保も必要で,教育課程や指導体制の工夫が学校に求められる点は大きな課題です。
一方B小では,以前から地域人材の活用が進み,さまざまな機会に地域住民との連携があるそうです。この夏休みには,このプールを会場に地域住民の水泳大会も開催され,校長も来賓として出席されるとのこと。
大会には小学生から大人までが参加し,浮き輪リレー,綱引き,ビート板競争などの種目も用意されています。また地元B中学校の生徒は,進行・計測・記録などボランティアで大会運営にかかわるそうです。地域みんなで楽しめる水泳大会は,あまり聞いたことがありません。
コロナ禍を経て,全国的に子どもたちの泳力低下が心配されています。この日のB小の泳力調査の結果を見ても,それは明らかなようです。
そんななか学校の授業以外にも「プールに行って泳ぎたい」と子どもが希望し,水辺の遊びに親しむ機会が増えるのなら,水泳を愛好する態度が育つ可能性は大きいはずです。指導要領にある「生涯にわたる豊かなスポーツライフ」につながるものでしょう。B小はプール老朽化のピンチを,チャンスにできそうです。
なお、本稿の掲載についてはB小学校のご了承をいただいています。

大村 高弘(おおむら たかひろ)
静岡大学大学院教育学研究科特任教授
教員不足の問題がいろんな機会に取り上げられています。
でも教職は実に愉しくやり甲斐ある仕事ではないでしょうか。
その魅力を読者の皆さんといっしょに考えていきたいと思います。
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