学校の水泳は,これからどうなるの? ~校外プール・インストラクターを活用した水泳授業を参観して~(12)
ある自治体が「全中学校の水泳取りやめを決定」との報道が先日ありました。
ー とうとう、ここまできたかぁ ーの思いです。
この市では心肺蘇生法などを拡充し、水泳の実技指導は行わないとのこと。プールの老朽化、欠席者の増加、熱中症リスク、性認識にギャップがある生徒への対応などがとりやめの理由として挙げられています。でもどうなのでしょう? そうした理由で中学校3年間を通して水泳を経験しないこととなるのは。
別の対応をする自治体もあります。プール改築に代えて、校外プールとインストラクターを活用する事業については、このメリット・デメリットについては本連載の第1回・第2回で考察しました。
今回は、私が参観した静岡県A小学校の授業を紹介します。
静岡大学大学院教育学研究科特任教授 大村 高弘
屋内プールに入場すると
着衣のまま靴下を脱ぎ、プールサイドに立つとモワッとした空気に包まれます。
9月でしたが、屋内の気温は30℃ほどに設定されています。
ー のどが乾きそうだなあ ー
壁沿いには、子どもたちが持参した水筒が並んでいます。
ー あぁ、これなら大丈夫 -
授業は2時間続きです。
プールサイドでは、3年生2学級に担任教師2人がつき準備運動をしています。その間、少し離れた場所でインストラクター2人と級外教師が立ち話。
「ファックスでお知らせしたように、今日は……」
学習内容の確認のようです。
打合せが終わると、3人はビート板・ヘルパーなどの用具の準備にかかります。
水慣れを終えた子どもたちは、三つの能力別グループに分かれて集合しました。
中位グループは15人ほどで編制。クロールはある程度泳げるけれど、平泳ぎは数メートルしか進めない子たちです。級外教師とインストラクターとのチーム・ティーチング(T ・T)です。
多くの子どもたちの課題は、“カエル足”。
「足の動きを見ていてね」
インストラクターがゆっくりした動作で、自分のフォームを見せます。
ー さすがだ! ー
プールサイドからこの動きを凝視する子どもたち。きれいな足の動きに憧れも感じるようです。
子どもたちはプールサイドに座って、見よう見まねで試します。
そのままビート板をお腹の下に置き、腹ばいになってのカエル足練習へ。
その後は大プールの東側から入水。ビート板を手に4人が一斉にスタート。10mほどをカエル足で進み、級外教師とインストラクターはその場で個々への助言や指導をしていました。
泳法やフォームにかかわる実技研修は、校内でわりと少ないのではないでしょうか。T ・Tの機会にインストラクターの専門的な指導に接し、子どもの技能が向上するプロセスも見ることができます。
大プールの西側で活動するのは、クロールも平泳ぎも15m以上泳げる子どもたちです。自分が選んだ泳ぎで、プール中程までを何度も往復練習。インストラクターは泳ぎ終えた子にフォームや息継ぎの助言をしています。
浅いプールで活動する子たちは担任教師2人が担当。けのびやバタ足、面かぶりクロールなど少人数で練習していました。個々の性格・能力のよくわかった担任の先生ですから、課題に即した丁寧な指導が進んでいる様子でした。
役割をうまく分担して
終盤では全員集まっての泳力調査が行われました。
教師は出発、判定、記録の3つ役割を分担。
難しいのはカエル足の評価です。インストラクター2人はゴーグル着用で潜り、足の動きを水中から観察。見取った様子は級外教師に伝達され、総合的な評価はプールサイドにいる記録係の主任教師に報告されます。
「先生。私、合格?」
泳ぎ終わった子が近づくと主任教師は笑顔で対応していました。
指導者が各々に適した役割を分担し、客観性の高い評価活動が行われています。まさにチームとして機能しています。
安全確保は?
市営プールですので、高所に設置された椅子に監視員が座り常時全体を観察。もう一人はプールサイドを巡回しながらの監視しています。おかげで教師は入水し、目の前の子どもの指導に専念できます。
見学の子ども3人は女性の巡視者の横に付き添い、笑顔で話しながらプールサイドを歩いていました。ビート板の片付け・整頓を一緒にする姿も見られ、監視者自身も子どもとのかかわりを楽しんでいるようでした。
保護者の参観も
屋内プールはガラス壁を隔てた外からも参観が可能です。この日は保護者5人が見学していました。椅子に座りリラックスした参観姿があり、なかには幼児を連れた母親もいます。子どもの泣き声などあったとしても厚いガラス越しのため、授業に支障を与えることはないでしょう。 子どもの活動の実際と教師の指導・支援を理解してもらうよい機会になっているのではないでしょうか。
子どもたちのために
ー これって、恵まれ過ぎじゃない ー
読まれた方は、そんな思いになったかもしれません。中身の濃い、しかも個別最適に近づくような技術指導が受けられる。また子どもたちは、多くの大人の温かな関わりの中で学びを得ている。それは確かです。対話や協働の学びとしては、今後考察したいと思います。
老朽化したプール改築には1箇所あたり約2億円が必要とのこと。可能であるならば、ぜひ改築していただきたい。でも自治体の財政上難しいのならば、無理を言ってはいられません。既存の施設などを利活用しながら水泳に親しむ習慣づくりを後押しする施策が、各地で広がってくれたらと願います。

大村 高弘(おおむら たかひろ)
静岡大学大学院教育学研究科特任教授
教員不足の問題がいろんな機会に取り上げられています。
でも教職は実に愉しくやり甲斐ある仕事ではないでしょうか。
その魅力を読者の皆さんといっしょに考えていきたいと思います。
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