2024.07.03
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学校の水泳は,これからどうなるの?  ~「泳ぎを楽しむ」ことを続ければ一生が変わる~ (6)

暑さが増した休日の午後,自宅近くのプールに行きました。更衣室に入ると,幼児連れの親子や小・中学生などで大にぎわい。
着替えを終えプールサイドに立つと,小・大プールに,はしゃぐように遊ぶ子どもたちの姿が見えます。
と,館内放送が流れ,
「ただいまより,10分間の休憩に入ります。プールから上がってお待ちください」
こんなに大勢人がいれば安全確認も必要でしょう。入りたい思いはおさえつつ採暖室に向かうとそこも密。コロナの頃はありえなかった状況です。

10分後,休憩終了を告げる放送が入ると館内に歓声が響き,子どもたちは我先にと入水。学校のかつての夏休みプール開放のようです。もぐりっこ,逆立ち,おんぶ泳ぎ......水中を進む心地よさ,水の中での浮遊感は,日常生活で味わえない体験。子どもの多くが水遊びを好むのはよくわかります。

元静岡大学教育学部特任教授兼附属浜松小学校長 大村 高弘

平日にプールへ行くと

学校を離れ自由時間が増えたので,水曜日の昼下がりに同じプールへ。更衣室で着替えているのは私ひとりだけです。
25mプールの横にジャグジー(噴流式泡風呂)があるので,まずはそこへ入ると,後頭部をふちにのせ全身を伸ばす女性が二人。お歳は70過ぎと見えます。
ちなみにチケット販売機の横には「70歳以上は割引」の表示があり,なんと四割引きの料金設定。「生涯にわたるスポーツライフ」を応援してくれる施設です。

「このあいだ,遠くまでバス旅行に行ったら,今もまだ体の疲れがとれなくて」
「そうねぇ……。もう近くをまわる旅行に変えた方がいいわよ」
世間話を聞くうち自分もリラックス。なんか銭湯につかっている気分になってきました。しばらくすると,また二人の話声。
「ねぇ,そろそろ泳がない?」
「もう少しようすを見てからね。今まだコースが混んでいて泳ぎにくそう」
ー 泳ぎにくそう……速くて上手な泳ぎなんだろう。前の人を煽るように泳ぐのも品がないしな。でもこのお歳で?……「元水泳部員だった」とか ー

数分後,私はジャグジーを出て「歩行専用コース」へ。と,先程の女性がゴーグルをつけ「泳ぎ専用コース」に入水。これは部活の練習で身に付けた美しい泳ぎが見られるかも,と期待。
女性は壁をけって水中を進みます。ところが,けのびが流線形のラインになっていません。両手がちょっと開き,顔は上がりぎみ。
ー えっ,あのクロール? - 
上級者だったらリカバリーの腕は肘から抜き上げるはず。でも水面上で高く上がっているのは手のひら。
ー 「元水泳部員」ではない ー
自分はかってな想像をふくらめていただけでした。
と,女性は25mを泳ぎ終えるとターン。その後,1往復を終えても立ちません。その後もまたターン……。
ー このまま何往復続けるのだろう ー
ゆっくりした泳ぎです。リラックスして体になじんでいるクロール。だから苦しい状況にならず有酸素運動が続いているのでしょう。
「ランナーズハイ」は,ランニング開始後,体が運動状態に慣れると楽になり,頭がぼんやりした気持ちのいい状態。「脳内快感ホルモンが出ている」との説もあるそうです。
ー この女性の場合は「スイマーズハイ」か? ー
かってな想像がまた進みましたが,いずれにしても女性は,ご高齢でありながら泳ぎに浸っておられます。それを支える心肺機能,筋持久力はかなりの高さ。
「泳ぎ専用コース」に移動した自分は平泳ぎで25m。ターンして続ける自信はないので,後ろを泳ぐ人の邪魔にならないよう休憩をとりました。

之を好む者は之を楽しむ者に如かず

ご存じのとおり孔子の言葉です。いろいろな読み方がありますが,私は吉川(2011)の解釈が好きです。
「『好む』とは,対象に対して特別な感情をいだくことである。対象はまだ自己と一体でない。『楽しむ』とは,対象が自己と一体となり,自己と完全に融合することである。」
ご紹介した高齢の女性は,言葉は悪いけれど,洗練された泳ぎをする人ではありませんでした。でも自分なりのクロールを長い時間,心地よく楽しんでおられるように見えました。
休日,はしゃぎながら水と遊んでいた子どもたちも,自分なりの泳ぎで水を楽しむ力をつけられれば,生涯をウェルビーイングに過ごせるのでしょう。

参考資料
  • 吉川幸次郎(2011)『論語(上)』,朝日新聞出版,p186

大村 高弘(おおむら たかひろ)

元静岡大学教育学部特任教授兼附属浜松小学校長


新しい学習指導要領の改定に向け,準備が進んでいくことと思います。
アフターコロナの時代,社会が大きく変化する中で,学校と授業はどう変わっていくべきなのでしょう。
今後の学校教育に期待することを,不易・流行の両面から考え、お伝えしたいと思います。

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