2024.09.04
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学校の水泳は,これからどうなるの? ~ 親が我が子に望むこと~(9)

今年の夏も、猛暑の日々が続きました。夏休みの日記には海や川を親子で楽しんだ、との内容が多いと思っていたら、そうでもないようです。ここ数年は「海離れ」が進んでいるとのこと。

レジャー白書によれば、海水浴客はピーク時から約40年で10分の1に減少。マナーの悪さ、海の家の高齢化などが背景にあるようで、ちょっと寂しさを感じます。一方、屋内プールは、酷暑や日焼けの問題を避けられる点で逆に人気のよう。

元静岡大学教育学部特任教授兼附属浜松小学校長 大村 高弘

歩行コースを前後になって

8月の猛暑の日曜日、混んでいるのはわかっていながら、いつものプールへまた行ってしまいました(他に行くところもないんで)。
まずは歩行専用コース横の「ゆっくり泳ぐ人」用のコースへ入水。平泳ぎで25mを泳いで壁にタッチ。荒い呼吸で口を開け休んでいたら横から水しぶきが……。しっかり飲み込んでしまいました。
「芋洗い」の言葉がぴったりくるこの日のプール。水の汚れはかなりのはず。なんとなく胃の具合がおかしくなってきました。
水しぶきが来た先を見ると、中学生らしき男の子がわたしの方に顔を向け歯を見せました。
ー えっ、なんで笑ってるの? -

「こらあ!」
男の子の頭を、横から手のひらでたたいた人がいます(ちなみに「軽く」ですので、ご心配なく)。お父さんのようです。その父親に向かって激しく水をかける男の子。表情や目つきから、重度の障害があることがうかがえます。

「いくよぉ」
お父さんの声で、二人は前後になって歩行コースを歩き始めました。前を行くお父さんが後ろを振り向き声をかけるたび、男の子は歯を見せます。
障害のある子にとって、猛暑での戸外の運動は、なかなか難しいでしょう。屋内プールは安全でのびのび活動できる快適な場所。水中歩行を楽しむ二人の笑顔を見ていたら「水を飲んだぐらいで……」と思えてきました。

「今日の日記に書いておくんだよ」

しばらく泳いだ後、私はジャグジー(噴流式泡風呂)に入って休憩。
対面には、3・4年生ぐらいの男の子がきれいな緑のラッシュガードを着て浸かっています。日焼けから肌を守るためサーファーが使用したのが始まりというラッシュガード。今はそれを、屋内プールで着用する子どもが増えていますね。

「今日はクロールで25m、20本やったよ!」
「そうか、今日の日記に書いておくんだよ」
隣で答えるお父さんは口髭を蓄え、筋トレで鍛えたプロレスラーのような体つき。言い終えると大プールへ一人で泳ぎに。

ジャグジーが二人だけになったので、元教員の性(サガ)で声をかけてしまいました。
「20本も泳いだの? すごいね。もしかしてスイミング行ってる?」
男の子は笑顔でうなずきました。

子どもの放課後のスポーツ系体験で最も参加率が高いのは水泳だそうです。
サッカー・野球を足し合わせた球技、ダンス・バレエ等、武道・格闘技、体操などがこの後に続きます。
そして年収による格差が最も大きいのも水泳。世帯年収600万円以上の家庭と300万円未満の家庭では2.2倍もの格差があります。(今井『体験格差』2024)
小学1年の子をもつ母親は、「友達が行っているから、という理由でスイミングに行きたいと言っていたが、入会金や月謝が高額で行かせてあげられなかった」との声を寄せたそうです。

子どもの後ろにいる親の思いに、自分は目を向けていなかったな、といま思います。
世帯の年収、子どもの障害など様々な理由によって、水泳体験の格差はできています。

ゆったりとジャグジーに浸かって考えているうち、一つ思い出したエピソードがあります。

手編みのセーター

6年生を受け持った時、隣の学級担任(T先生)は私と同年代。学級経営のこと授業のこと、放課後にはいろんな相談をしました。

冬のある日、職員室で対面に座る彼が着ていた黄緑のセーターは手編みでした。
「いいセーター着てるね。奥さんが編んでくれたの?」
「いやぁ、これ、前の学校で受け持った子の母親がくれたんだ」
「へえぇ! そんなことってあるんだ」

眼鏡の奥にある彼の目はいつも笑っていて、森のくまさんのようなやさしさを感じる先生でした。前任校では特別支援学級の担任。
学級の中には、一人泳げない子(Aさん)がいたそうです。
小人数できめ細かな指導がされたはずですが、体育授業の中では泳げないまま1学期が終わりました。
「夏休み、学校のプールへ来ないかい?」
Aさんは素直にうなずいたとのこと。
小プールは貸し切り状態。マンツーマンの指導が続きました。障害のある子ですから、1日1日の進歩成長はほんの少しずつ。でも向上を続けAさんは泳げるように。

その年の冬、T先生のところへお母さんの手編みのセーターが届いたそうです。
「あれからね、冬がくると毎年送ってくれるんだよ」
「えっ、毎年! 毎年かい?」
彼はちょっと申し訳なさそうな顔をしました。
お母さんを思い、二人の会話はとまりました。

水中歩行を楽しむ体験

ジャグジーから歩行コースに目を向けると、先ほどのお父さんと男の子は歩き続けています。水の中を歩く楽しさを感じとり、水が好きな大人になれることを、お父さんは願っておられるのでは。

大村 高弘(おおむら たかひろ)

元静岡大学教育学部特任教授兼附属浜松小学校長


新しい学習指導要領の改定に向け,準備が進んでいくことと思います。
アフターコロナの時代,社会が大きく変化する中で,学校と授業はどう変わっていくべきなのでしょう。
今後の学校教育に期待することを,不易・流行の両面から考え、お伝えしたいと思います。

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