2025.10.07
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アメリカ・ボーズマン モンテッソーリ保育の教室から―新しいチームづくりと静けさの力

アメリカ・モンタナ州のボーズマンという町で、モンテッソーリ保育士として働くかたわら、大学院でも学びを深めています。
今回は、ボーズマン・モンテッソーリ保育園で迎えた新学期から1カ月の様子をお伝えします。

ボーズマン・モンテッソーリ保育士 城所 麻紀子

ボーズマンに秋が訪れ、新しいチームで迎える新学期

   

ボーズマン・モンテッソーリ保育園の朝の外庭

9月2日に新学期が始まり、1カ月が経ちました。例年は10月上旬に雪が降る厳しい寒さの土地ですが、今年はいつもより暖かく、子どもも大人も青空の下で外遊びを楽しむ日が続いています。とりわけ朝は空気が澄み、小鳥のさえずりが賑やかです。
新しい先生と子どもたちとのチームづくりは、始まったばかりという手応えです。

分かっていたこととはいえ、大学院の授業を2つ受けながらの勤務は容易ではなく、いまだに自分のペースをつかみ切れていません。研究テーマが、四六時中、頭のどこかに浮かんでいます。
それでも、子どもたちと過ごす時間には、研究や授業のことが不思議と頭から離れます。

以前の主任と同僚との3人チームは、長い時間を共にしたおかげで互いの強みが自然と噛み合い、目の前で起きることに身体が先に反応して動けていました。今の新しいチームでは、互いの強みや働く上での信念をまだ探っている段階。先生たちの動きも観察し、考え、手探りで日々を進めています。

手ぶらの観察

園では子どもと過ごすあいだ携帯を持たないという方針がありますが、いまは先生によって運用が少しずつ違います。 私は「手ぶら」を続けています。 手ぶらだと、視界が広がる感じがし、耳も敏感になる気がします。
モンテッソーリの教室では、みな、小声で話していることもあり、もともと声が小さい子の声は、ほんとうにささやき声なので、耳を澄まさないと聞こえないこともあります。

同僚は、随時の保護者とのテキストでのやり取りを担ってくれていて、その点ではとても助かっています。園内でも携帯の扱いは人それぞれですが、中心にあるのは、子どもが集中できる環境をいっしょに守ること。私にとって、携帯を持たないというのは、不便というより、目の前で起きていることをじっくりと観察できる、小さな工夫です。道具を減らして、五感の余白を増やす、そんな意識で続けています。

教室でも、静けさは子どもの集中を支える土台です。声をかけなくても、音のわずかな変化に気づけば、場所や動きが自然と整います。静けさの中では、子ども同士の視線のやり取りも浮かび上がり、思わず微笑んでしまう場面が増えます。
大人は黒子に回り、必要な時だけ短く言葉を添える。その距離感を、手ぶらの身軽さが後押ししてくれます。

静けさが育てる集中

ボーズマンの町を歩いていると、ベビーカーを押しながら画面を見続ける保護者や、ブランコを押しながら通話を続ける保護者をよく見かけます。スピーカーから漏れる大人の会話に、目の前の子の心や気持ちが埋もれてしまうことがあるのでは、と他人事ながらもったいないなあと感じます。

だからこそ、園の中くらいは画面のない時間で子どもたちと過ごしたいと思っています。外では情報が絶えず流れてきますが、教室では子どもから届く合図に波長を合わせたいのです。

新しい先生たちとのチームづくりは、手探り中です。子どもへの声のかけ方、おやつのルール、保護者との連絡の取り方。それぞれのやり方を見せてもらいながら、少しずつ擦り合わせています。相手の流儀を尊重しつつ、自分が譲れないところはそのままに。柔らかさも、芯の強さも、どちらも必要だと感じています。

大学院での研究は成人のがんサバイバー支援という、保育とは別のテーマです。それでも園にいるあいだは、外庭でも教室でも、目の前の気配に自然と集中します。まずは自分の呼吸を落ち着かせ、子どもの呼吸を観察する、その切り替えが、この新学期の静けさです。
しばらくは、秋の光の中で、手ぶらの観察を続けます。

城所 麻紀子(きどころ まきこ)

ボーズマン・モンテッソーリ保育士、元サンディエゴ日本人向け補習校講師、モンタナ州立大学院家族消費者科学科 修士課程


2020年からアメリカのモンタナ州の人口5万人の町で、モンテッソーリ保育園の保育士をしています。
アメリカといっても、白人約90%、アジア人約2%(最近増えました!)という環境です。
あまり日本人の方に知られていない、アメリカの田舎での教育や生活の様子などを共有できたらいいなあと思っています。

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