愉しい授業を創る テレビ番組から考える編
今の若者は、テレビを見るのでしょうか?
見るとするなら、何を、どのように見るのでしょう?
昔は一家に一台のテレビを、みんなで囲んで、一つの番組を見ながら、笑ったり、泣いたり、考えたり......。そんな時代がありました。今は、スマホ画面をそれぞれに眺めているんでしょうか。テレビ番組にもいろいろあって、結構学べる、愉しい番組ってありますよね。
浜松学院大学地域共創学部地域子ども教育学科 教授 川島 隆
とある番組で
今から十数年前に、『ディープピープル』(NHK)というトーク番組がありました。
同じジャンルで活躍し、道を究めた人たちが対話を繰り広げる番組でした。
私が今も印象に残っているのが、「トップ営業マン」をテーマとした放送回でした。
その中で紹介された考え方に、2つ「これは!」というものがありました。
売り手の理論じゃなくって、お客さんに合わせるということ
一つ目は、経営学の大家ピーター・ドラッカーの言葉からでした。
「『われわれは何を売りたいか』ではなく『顧客は何を買いたいか』を問う」
売り手側の理論ではなくて、まずはお客さんが何をほしいのか。そこからスタートするということです。
ナイツというお笑いコンビは、浅草の劇場を訪れる高齢のお客さんには、ゆっくりとしゃべって聞き取りやすく。
テレビに出たときは、若い人に合わせてスピードを上げてテンポよく話すそうです。
まさに、ドラッカーのいう「お客のニーズに合わせる」姿勢です。
人のせいにしたら、のびないんですよね。
もう一つは、横山ホットブラザーズというお笑いバンドにまつわる話でした。
弟子が「お客さんの反応が悪くて今日は受けなかった」と話した際、リーダーが「自分の芸の足らないことをお客さんのせいにするのか!」と叱ったそうです。
観客がどんな人であろうが、笑わせられなかったのは芸人自身の責任だ、ということです。
人のせいにしたら成長できません。
この2つの話を学校に置き換えて考えてみると
お客さんは、学校でいうなら子どもになるのかもしれません。
漫才は、授業と考えてみましょう。
(授業で子どもを単なる「お客さん」にしてはいけないんですが)
一つは、授業を創る上で、子どもの状態や特性を見極め、子どもの求めに合わせることが大事になるってことだと思います。
平たく言えば、子どもの実態を把握するということです。
子どもの状態とは、子どもの願いや思い、問いなどと言ってよいでしょうか。
子どもの特性とは、学習集団や個々の特徴や発達の状態、学ぼうとする力や身に付けてきた力などと言ってよいでしょうか。
それらを見極めるには、当然、子どもを見ることなしにはできません。
そして、それらを把握した上で、学ばせたいこと、つまりは、その授業で身につけたい資質・能力と折り合いをうまくつけられるのかが授業のポイントだと思います。
もう一つは、上手くいかなかった授業を振り返るとき、「子どもがのってこなかった」「今日の子どもたちは、何か調子がよくないなぁ」ではなく、どのような子どもであれ、子どもがどのような状態であれ、授業を共に創る教師が、責任を子どもに押し付けてはいけない。
うまくいかなかった授業を、子どものせいにしてはいけない。
そういうことだと思います。
矢印を必ず自分自身に向けてみることです。
つまり、厳しいことかもしれませんが、子どもの状態を見極め切れなかった自分、十分な教材研究ができなかった自分、子どもに合った発問ができなかった自分。
そういう自分に矢印を向けて、どうするとよかったのか、また、この後、どうすればよいかを考えられることが愉しい授業を創っていくためには、大事なんじゃないかと思います。
むすびに
と、こんなことを考えてみました。
芸の世界でも、教育の世界でも共通して言えることだと思います。
9月もまだまだ暑さが厳しい日々が続きます。
少しゆったりとテレビでも見ながら、笑顔になれる時間も創ってみたいと思います。
でも、こんなふうに考えてきてしまうと、笑えなくなってしまうかもしれません。

川島 隆(かわしま たかし)
浜松学院大学地域共創学部地域子ども教育学科 教授
2020年度まで静岡県内公立小学校に勤務し、2021年度から大学教員として、幼稚園教諭・保育士、小学校・特別支援学校教員を目指す学生の指導・支援にあたっています。幼小接続の在り方や成長実感を伴う教師の力量形成を中心に、教育現場に貢献できる研究と教育に微力ながら力を尽くしていきたいと考えております。
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