2024.10.10
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学校の水泳は,これからどうなるの?  ー 学習指導要領と水中ウォーキングとの間にはつながりが ー(11)

「歩行美人」をめざす人。心肺機能の向上をねらう人。また膝や腰に痛みがあってリハビリしたい人。そういう人にとって、水中ウォーキングは効果大。

でも、学校で行われている体育授業とは、どうもつながる感じがしませんでした(点線では、つながるかも?)。だって「歩く」ことは、そもそも難しい運動ではないですし。「できない」から「できる」へ向かって教育するのが体育授業ではないのか、とわたしは思っていたのです(先日まで)。

元静岡大学教育学部特任教授兼附属浜松小学校長 大村 高弘

「水かきグローブ」を着けて

屋内プールに度々通っているうち、顔見知りの人もできてしまいました。
今日の歩行コースには、よく見かける年配のAさんの姿。黒い手袋を着け歩いておられます。

「その手袋、何なのです?」
「これはね、『水かきグローブ』って言うんだよ」
「へえぇ…… その水かきグローブをつけて歩くと、どうちがうんですか?」
「両手の指にはめて歩くことで水の抵抗が大きくなる。普通に歩くよりも、上半身を鍛えられるんだよ」
ー なるほど。あえて体に負荷をかけ筋トレか。 -

そこで思ったのです。
朝や夕方、自宅前の道をウォーキングする人を、私はよく見かけます。
でも、横歩きや後ろ歩きをする人は見たことありません。今の季節、手袋を着けて歩く人も、もちろんいません。こうした運動は、屋内プールの歩行コースだからこそできるもの(はずかしくなく)。

体育科のカリキュラムとしてはどうなの?

水中歩行は、現行学習指導要領で小学校低学年の『水の中を移動する運動遊び』の中に見つかりました。「歩く・走る」こと自体が技能の目標。「泳げるようになる」ための基盤をつくる活動ではありませんでした(詳細は前号に)。

「他の学年はどうだろう」と思って調べてみると……
小学校の中・高学年には記述がなく、「泳ぐ」こと自体が教育内容。
中学・高校ではどうなのでしょう? 示されているのは、クロール・平泳ぎ・背泳ぎ・バタフライ、そして「複数の泳法で長く泳ぐまたはリレー」。四泳法の技能向上がその内容と言えるでしょう。
ー 水中歩行は、やっぱり体育授業とはつながらないのかなぁ ー

為末大さんの主張が開いてくれたもの

先日、ある本を友人が紹介してくれました。
『ぼくたちには「体育」がこう見える』編著・為末大 大修館書店。
400mハードル記録保持者だった為末さんが、『声に出して読みたい日本語』の齋藤孝さんなど幅広い分野の著名人(11人)と対談しています。

為末さんは日頃、いろんな人から身体にかかわる悩みを聞くそうです。
「膝が痛いんだけど……」「どうすればぐっすり眠れますか?」「太っちゃうんだけど……」などと。続けて彼はこう述べます。

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大人は身体の扱いに悩んでいる。
学校の授業では、身体の扱い方を学ぶものは体育しかない。私がみんなにアドバイスする内容も、そのベースは体育にある。体育で学べるはずのもので、大人がみんな悩んでいる。
体育にはもっと可能性があり、社会に求められているはずなのに……(前書き)
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改めて体育が背負う期待を感じ、「学校が行うのは体を育てる『体育科』であって『スポーツ科』ではない」との主張が心に残りました。そして自分の頭のなかで何かが少し変わった感じ。
この観点で学習指導要領を改めてながめてみました。と、目に留まったのは高校の『豊かなスポーツライフの設計の仕方』。そこにある記述は、

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生涯にわたってスポーツを継続するためには、ライフステージに応じたスポーツとの関わり方を見付けること、仕事と生活の調和を図ること、運動の機会を生み出す工夫をすることなどが必要である。
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高校卒業後、というよりも生涯にわたる運動実践への準備の促し、と読めます。
この内容とつなげ、高校の「体つくり運動」には『実生活に生かす運動の計画』が3年間を通じ位置づけられています。自らの健康・体力の維持向上を図る資質・能力の育成をねらうのでしょう。

「体つくり運動」は「水中ウォーキング」のねらいと関係しそうです。
中学校の「体つくり運動」の内容を見ると、「動きを持続する能力を高める運動」「力強い動きを高める運動」があります。これらは心肺機能、バランス能力、筋力等を伸ばすことを意味し、「水中ウォーキング」がめざすものと同じです。
では、小学校はどうなのでしょう?ねらいを見てみます。

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体つくり運動系は、体を動かす楽しさや心地よさを味わい運動好きになるとともに、心と体の関係に気付いたり、仲間と交流したりすることや、様々な基本的な体の動きを身に付けたり、体の動きを高めたりして、体力を高めるために行われる運動である。(現行小学校学習指導要領解説体育編)
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そうなのか……。
「体つくり運動」のなかに、「水中ウォーキング」の目的となるものはちゃんとありました。
「歩行美人」をめざし水中ウォーキングをする人たちは、「体つくり運動」を水中で行っていると捉えられます。
スポーツのように「速い・遅い」「できる・できない」を問題にはしない。今と将来の健康増進とウェルビーイングへ向けて取り組むのが「体つくり運動」。わたしのなかで、やっと体育授業とのつながりが太いものとして見えてきました。

「体つくり運動」を水中で実践

Aさんの姿に刺激を受けたその後のわたし。
ー よし、自分も太もものトレーニングを ー
近々登る八ヶ岳の山並みを頭に思い浮かべ、水中ウォーキングの開始。
スクワットを片足ずつやるつもりで、膝の曲げ伸ばしをしつつ前進。大腿四頭筋に心地よい負荷がかかってきます。
ー これは効果ありそうな感じ ー

30分ほど調子に乗って歩き続けていたら、スネの外側の筋肉(前脛骨筋)に痛みが走りました……。 
ー まずい、かえって歩きにくいことに -
「体つくり運動」は、よく考えて実践しないといけないですね。

大村 高弘(おおむら たかひろ)

元静岡大学教育学部特任教授兼附属浜松小学校長


新しい学習指導要領の改定に向け,準備が進んでいくことと思います。
アフターコロナの時代,社会が大きく変化する中で,学校と授業はどう変わっていくべきなのでしょう。
今後の学校教育に期待することを,不易・流行の両面から考え、お伝えしたいと思います。

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