2024.09.25
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学校の水泳は,これからどうなるの? ~「歩行美人」になれるとしたら~(10)

「『姿勢美人』は『歩行美人』!  人生100年時代,元気な身体作りを始めましょう!」
あるスイミングスクールのWebページのお誘いです。横にはきれいなプールで女性たちが笑顔を見せ歩行する写真が。
水中ウォーキングは健康・体力づくりに効果をもつ運動。愛好する方も大勢おられるでしょう。生涯にわたる「豊かなスポーツライフ」(現行学習指導要領「体育科の目標」)が実現された姿のひとつといえます。
でも,どうなのでしょう......  「歩行美人」をめざして水中ウォーキングに励む人たち。その姿は,学校で行われている体育の授業と,線でつながるものなのでしょうか。

元静岡大学教育学部特任教授兼附属浜松小学校長 大村 高弘

水中ウォーキングにもいろいろな動きが

ふだんわたしが通う屋内プール(いつのまにか「通う」がピッタリな表現に)にも,水中ウォーキングに励む人が一定数おられます。
正面を見すえ,腕をしっかり振って歩く人。膝をあえて高く上げ歩行する姿もあります。体全体を横に向けゆっくり大股歩きする人。なんか蟹の横這いのようです。なかには後ろ歩きをする姿(人にぶつからないか心配)も。60代と見える3人組は縦に並び,笑顔で会話しながらの歩行。高らかな笑い声が聞こえてきます。
歩行は30分から45分程度続ける人が多く,この人たちのおおかたは,一度も泳がず帰ってしまいます。
ー 泳がないままで帰る? ー
はじめ,わたしには理解できませんでした。歩行は泳ぐ前の「体慣らし」との捉えでしたので。
でも,プールに来たからといって泳がなくてもいいのですね。「歩行美人」をめざすのだったら(なお本稿の「美人」は「美男」「美女」の両方です)。

学校の授業で「水中歩行」にかかわる内容は?

1年生を受け持ったときの水泳授業。小プールで電車ごっこをよくやりました。4人程で縦につながり,前の子の肩に手をおき前進。「ようい,ドン」で競走させると,走り出す子もいて手が離れたり転んだり。
また水中鬼ごっこは,子どもたち大好きでした。水の抵抗を感じ,思うように進めないなかで歩き走るおもしろさ。「ワクワク」「はらはら」感はグラウンドの鬼ごっこ以上では。

あわてて逃げると転んでしまいます。でも痛くない。逆に水の中で転ぶのがいい。その体験がもぐったり,浮いたり,泳いだりにつながっていく。わたしの頭にあったのは「水に自然と慣れ,不安感が減って,『泳ぎ』の基盤ができる」ということ。あくまで「泳げるため」だったのです。
でも,上記の「歩行美人」をめざす水中ウォーキングは,「歩くこと」自体が目的。ここにズレがあって,うまくつながりません。

学校の授業のなかで水中歩行がめざすもの

屋内プールのジャグジーに,かつて同じ学校でいっしょに勤めたM先生(先輩)がいるのを見つけました。M先生は以前から水中ウォーキングの愛好家。
「この後,家に帰ると飲んじゃうんだよね…… ビール」
「そう! それが楽しみで,ぼく泳いでます」
「いやぁ,大村さん。そりゃ,あんたの体形ならいいんだけどね」
じつは,わたしは痩せすぎ。誰かの脂肪を分けてもらいたいぐらい。けっしていい体形ではありません。

「せっかくこれだけ歩いて脂肪燃やしても,家に帰って結局,飲んで食べてじゃねえ」
「………」
ー ダイエット効果ね。M先生もやっぱり「歩行美人」,めざしてるんだ ー

家に帰って,水中ウォーキングの効果を調べてみると……
脂肪を燃焼しつつ歩く有酸素運動なのでダイエット効果の期待は大。
水中の抵抗は陸上の10倍になるとも言われ,筋力アップに繋がり心肺機能も強化。
なるほど。効果は大きいですね。

併せて現行の学習指導要領解説(体育編)も開いてみました。すると,低学年の「水遊び」のところにあった記述は,
・水の抵抗や浮力に負けないように,自由に歩いたり走ったり,方向を変えたりすること。
・手で水をかいたり,足でプールの底を力強く蹴ったりジャンプをしたりしながら速く走ること。

この文は,「歩く・走る」自体が技能の目標として示され,「水の中を移動する運動遊び」としてくくられています。「泳げるようになる」ための前段階ではない。そしてもう一つのくくりが「もぐる・浮く運動遊び」。この二つで低学年の内容は構成されています。

「えっ?」と思い,その10年前の学習指導要領解説(体育編)を確認。すると,現行の「水の中を移動する運動遊び」はありません。代わりにあったのは「水に慣れる遊び」。ということは,当時「歩く・走る」を行うのは,やはり「水に慣れるため」だったのです。

かつては,「水に慣れる」→「浮く・もぐる」→「泳ぐ」という流れ。
ところが現行では,「水の中を移動する運動遊び」として,「歩く・走る」運動に固有の価値をもたせている,と読み取れます。
となると体育授業と水中ウォーキングとは,言葉の上では線でつながりそうです。自分の勉強不足を痛感(指導要領は読まなくちゃいけませんね)。

では,屋内プールで大人が行う水中ウォーキング,上で描写したような歩行運動を,小学校1年生にやらせたら?……
すぐに飽きてしまうでしょう。子どもにとっておもしろみがありませんし。
「授業だから仕方なくやる」というのはさけたいところ。

うーむ。水中ウォーキングに励む人たちと学校で行われる体育の授業。自分の頭の中で,「点線でつながる」ぐらいまでにはなりました。

参考資料
  • 文部科学省(2018),小学校学習指導要領(平成29年告示)解説(体育編),平成30年2月,東洋館出版社,p.54
  • 文部科学省(2008),小学校学習指導要領解説(体育編),平成20年9月,東洋館出版社,p.31

大村 高弘(おおむら たかひろ)

元静岡大学教育学部特任教授兼附属浜松小学校長


新しい学習指導要領の改定に向け,準備が進んでいくことと思います。
アフターコロナの時代,社会が大きく変化する中で,学校と授業はどう変わっていくべきなのでしょう。
今後の学校教育に期待することを,不易・流行の両面から考え、お伝えしたいと思います。

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