2023.12.12
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学校の水泳は,これからどうなるの? 〜協働的に学ぶことで〜(3)

ワクワクしながら主体的に行われるのが水遊び。没頭する中で子どもの体は水になじみ,泳ぎの基盤となる感覚が育つのでは?この考えを,放課後のプールで先輩に教えられたエピソードを,前回のつれづれ日誌で紹介しました。
その後に小学1年生で実践した事例にお付き合いください。

元静岡大学教育学部特任教授兼附属浜松小学校長 大村 高弘

お姉さんのシンクロをまねしたい

この年の冬,老朽化していたプール改修が進められ、6月には新装を祝う全校でのプール開き開催の予定でした。
当時,自分は体育主任。「アトラクションは何がいいかな?」と思案していたのですが,放課後職員室で「〇〇高校のシンクロ部を招待したらどう?」と提案すると,先生方は大賛成。
 プール開き当日,ピンクの花柄の水着をつけた5人の演技を間近にし、1年生の子らは目を丸くしていました。

そして水遊びの授業を開始。3時間目のこと。
自由活動の中で,水面にフラフープを浮かべるA子の動きが目に留まりました。ジャンプした後、浮かせたフラフープに頭から入り潜っています。
「わあ、シンクロのお姉さんみたい!️」
の声に、周囲の女子が集まってきました。
A子は水中での逆立ち、前方・後方への回転など次々に見せた後、両手を挙げてポーズまで。見ていた女子たちはすぐにまねをし始めました。 

10分程たつと「先生、見て見て!」とA子たちの声。
4人は大きく息を吸った後、同時に水中に潜り横への回転を開始。その後はそろって息を吸い、手で鼻をつまみながら後ろに倒れ,両足を前に上げています。
「8本の足がそろってすごい、400点!」
絶賛されると、4人は大喜びでまた相談を始めました。
授業が終わり教室への道中,B子が話しかけてきました。
「先生、今度やるときは、セーラームーンの音楽かけていい?」

次の時間、プールサイドに音楽が流れる中、再びシンクロのまねっこが始まりました。
洗濯バサミで鼻をつまんだB子が水中で2本指を示します。それは2回連続で横に回転する合図。
こうして子どもたちのチームワークが強まる中、A子の見せる難しい動きへの挑戦を,3人は続けます。A子はうまく回転できない子の背中を押して勢いをつけています。

1学期の終業式が近づいた頃,B子の母親が連絡帳で知らせてくれました。

今週の日曜日は〇〇プールに出かけました。去年と比べてB子のプールでの動きは目を見張るものがありました。去年は泳ぐといっても、まだ水の中での体の動きが硬く、バタ足を教えてもぎこちなく動かしていましたが、今年は水と一体になっているという感じで、決して上手とは言えませんが、うまく水に体が馴染んでいるようでした。学校でシンクロのまねっこをしているそうで、鼻をつまんでくるくると回っている姿には周囲の人もびっくりしていました。……

「個別最適な学び」と「協働的な学び」

先輩教師の考えに影響を受けた実践ですが、こうした水泳の授業は、あまりやらないですね。
水泳は個人によって経験や技能差が大きいので,能力別グループでの指導が行われることが多いと思います。

校外のプールに学年で出掛ける取組で考えてみましょう。
現地では学級を解体し別集団を編成。担任教師とインストラクターとでグループを分担することで、泳力の段階に応じる指導が可能になります。
「個別最適な学び」が求められる中,「すべての子どもの泳力を向上させよう」という理念の実現に向かえる指導です。均質的な集団の方が指導がしやすく、技能を効率的に身に付けさせるのに有効。

一方,上で紹介した1年生のシンクロ遊びは,水泳の経験も泳力も異なる集団での活動です。
泳ぎは身体の表現ですが,その動きは頭と心が働きながらつくられていくもの。「チームでいい演技をつくろう」との願いが共有され,質の高い動きができる子の模倣に挑戦したり,苦手な子を援助したりする行為が能動的に行われています。

知識や技能は社会的な相互作用を通してその子自身が構成していくもの。個人的スポーツである水泳においても,器械運動や陸上競技と同様に、学校の授業においては「協働的な学び」を大切にすべきと考えます。

~仲間と一緒に進めると,自分一人でやるより楽しい~

この思いを,授業で繰り返し実感させたいと願います。
未来を生きる子どもたちには,異質な集団の中でコラボレーションできる力が求められます。公教育を進める学校は,その力を育む使命を負っています。一人ひとりが学びの主人公になり,コミュニケーションして新しいものを創り出していく授業を,現任校では今めざしています。

大村 高弘(おおむら たかひろ)

元静岡大学教育学部特任教授兼附属浜松小学校長


新しい学習指導要領の改定に向け,準備が進んでいくことと思います。
アフターコロナの時代,社会が大きく変化する中で,学校と授業はどう変わっていくべきなのでしょう。
今後の学校教育に期待することを,不易・流行の両面から考え、お伝えしたいと思います。

ご意見・ご要望、お待ちしています!

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