子どもたちの声を聴き、呼吸を合わせる―教師と子どもの信頼関係を築くために
みなさんは、普段、子どもたちとどのように関わっていますか。
何を大切にしていますか。
日々の子どもたちとの関わりは、まず教師自身の教育観から。
今回は、私が一番大切にしている教育観についてお話します。
埼玉県公立小学校 石井 雄大
苦しかった教員3年目の経験
教員3年目のことです。私は、6年生を持ちました。
「子どもたちの小学校生活最後の1年間、最高のものにしてあげよう」
受け持つ前から、私の心は強い気持ちでいっぱいでした。
しかし、私は失敗しました。子どもたちと全然仲良くなれなかったのです。
学級が崩壊していたわけではありません。しかし、子どもたちとの間で信頼関係を築くことができず、すごく苦労しました。その時は教室に入るのも大変な思いでした。
「この子たちのために、私は休んだほうがいいのではないか」
そう考えたこともありました。
でも、私には一つの思いがありました。
「今休んでしまったら、私と子どもたちに何が残るのだろう」
そう考えた私は、とにかく教室に入り、前に立ち続けました。結果的には1年間、何とか卒業をさせてその時は終わりました。
気づいたのは子どもの声を聴くことの大切さ
しかし、苦しい中でも、どこか冷静な自分がいました。
「なんでうまくいかないのだろう」
逃げずに教壇に立ち、毎日考えていました。そんな中で見えてくるものがあったのです。
私に足りていなかったことは、ずばり、「子どもの声を聴く」ということでした。
なんだよ、そんなことか、と思うかもしれません。でも、あえて聞いてみたいのです。
みなさん、本当にできていますか?子どもたちの声を聴いて、毎日過ごしていますか?
一見、問題が無くても、それは本当に声を聴けているのでしょうか。
私は、当時の子どもたちを「ここまで引き上げたい」という思いでいっぱいでした。
しかし、引き上げる目標は、完全に教師の理想形であり、子どもたちが求めているものではありませんでした。
「いつか思いが届くだろう」と考え、自分が学んできた理想の実践、教育観で子どもたちと接していました。自分の形を実現しようともがくあまり、気持ちにも余裕がなくなっていました。実現できれば、結果的に子どもたちの幸せにつながると考えていたのです。
こうして、子どもたちと教師の間でズレができてしまったのです。一度生じたズレは、なかなか修正できません。不信感は重なり、次第に状態は悪化し、私自身の思いは子どもたちに届かなくなりました。
心理学の理論で、「ペーシング」という考え方があります。ペーシングとは、相手との信頼関係を構築するためのコミュニケーションスキルの一つです。具体的には、相手の言語や非言語の特徴に合わせて自分の言動を調整することで、親近感や安心感を生み出します。例えば、相手の話し方や呼吸のリズムに合わせることが含まれます。
私に足りていなかったのは、ずばり、このようなペーシングであり、子どもたちとの呼吸の合わせ方でした。子どもたちの思いをしっかり聴き、呼吸を合わせながら、共に成長していく……今でこそ私の原点であり、最も大切にしていることですが、当時はまったくできていませんでした。
声を聴き呼吸を合わせることから始まる学び
「声を聴き、呼吸を合わせる」ということは、決して「迎合する」ことではありません。
子どもたちの反応、タイミング、スピード、あらゆるものを意識して接することです。
どの学年でも同じです。子どもたちはそれぞれの思いがあります。年齢は関係ありません。発達段階ごとの、その日の、その瞬間の、子どもたちなりの言葉や態度で発します。
教師が子どもたちの声を聴き、呼吸を合わせることで、子どもたちの思いが発露します。思いを、教師が受け止めることから、すべてが始まると思います。
しばしば、教師はよく「子ども主体」「子どもたち自身で」などと美辞麗句を並べがちです。しかし、実際に教室に入った時に、本当に実現できていますか。声や呼吸を合わせないで、「主体」という状態は実現不可能です。
毎日、子どもたちと、呼吸を合わせていますか。声は聴けていますか。
自分がやりたいこと、やらなければならないことでいっぱいになっていませんか。
少し、肩の力を抜いてみると、子どもたちのみずみずしさが見えてきますよ。

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