学校の水泳は,これからどうなるの? 〜スイミングスクールで身に付くもの,学校の水泳授業で育てる力〜(13)
今回は、いつもとは違う屋内プールへ足を運んでみました。
プールサイドに立つと、スイミングスクールのレッスンが目に入ります。
ー おぉ、様子を見せてもらおう -
この日もまた自然に観察が始まりました。
静岡大学大学院教育学研究科特任教授 大村 高弘
夕方の屋内プールでは
いつものプールのスクールは1人の指導者が10人前後を担当していますが、今回のスクールはコーチ2人に子どもが4人。少人数ならではのきめ細かい指導が行われていました。
ー 特別支援学級なみだ。手厚い指導が見られるだろうな ー
指導が始まりました。
ひとりの子どもがヘルパーを腹部に巻き、背泳ぎを始めました。
ー えっ、低学年なのに? さすがスイミングだ ー
コーチは泳ぐその子の背面に重なるように、ピッタリ身を添わせます。
子どもの腕とコーチの腕がいっしょになって水をかいていきます。
「イチ、二。イチ、二」
声とともに、コーチの体の動きがそのまま子どもに伝染していくようです。
ー これは見事な指導だ! ー
コーチの子どもへの向き合い方は半端でないものがあります。
こんなレッスンを重ねていけば、適正なフォームも身に付くことでしょう。個別最適の究極という感じです。
一方で学校の水泳授業は、多人数が対象です。
しかも同じ時間内で能力の異なる子どもへの指導にあたらなければいけません。
上のような手厚い指導は「したくても、できない」のが現状です。
ならば、いったいどうすればよいのでしょうか?
泳力の異なる子どもの混合グループで
『楽しい体育の授業』(2024年6月号)では水泳授業が特集されていました。
巻頭言は「水泳授業は“泳力の異なる学習グループ”で!」のタイトルです。水泳では、能力差に応じたグループ編制が多いのではないでしょうか? でもこの特集は,あえて「一つのグループ内を異質にして活動する」ことこそ重要,という理念でしょう。
具体的な実践の提案としては,二人組での「お手伝い」「見合い」を取り入れた授業が紹介されています。
たとえば「お手伝い」の具体例として,
いかだ引き…伏し浮きをする子の手をペアの子が持ち,引っ張ってあげる
手タッチクロール…息継ぎをするとき,ペアの子が片手をもって支えてあげる
陸上でのかえる足…ペアの子が足の裏を持ち,正しく動かしてあげる
「見合い」では,
どこまでけのび…プールサイドに目印を置き,どこまで進めたかを見てあげる
背浮き…おへそを上にしてお椀型になっているかを見てあげる
クロールの息継ぎ…腕に耳をつけるような動きになっているか見てあげる
どれも効果のありそうな活動です。こうした相互作用を通して子どもは泳法の技能や知識を自分のものにするだけでなく,ペアの子の感情に気づいたりコミュニケーションを深めたりもします。
未来を生きる子どもには,人とのかかわりの中でコラボレーションする力が求められます。公教育を進める学校は,その力を育む使命を負っているのです。
ちなみに,2025年(本年)の『楽しい体育の授業』(6月号)もまた水泳授業の特集でした。表紙の中心にあった言葉は「泳力だけじゃない!」。
ここに強いメッセージを感じます。わが国の先輩教師たちが開発し、磨き上げてきたものは,対話や協働を活かした,楽しさを感じさせる指導法だったのです。
カリキュラムマネージメントによって
プールサイドが熱すぎて足の裏がやけどしそう。熱中症指数が上がり,今日もまた水泳授業ができない......。
プールの老朽化に加え,授業に大きな影響を与えているのが温暖化の問題です。屋内プールの活用を,公営・民営を含め検討する自治体も増えているようです。
「泳力だけじゃない」
そんな豊かな学びを促す授業を願うところですが,難しい課題に直面しているのが現在の学校です。
熱中症対策として,ある学校では真夏の水泳授業の設定は1時間目のみにして,2学期の9月中旬から水泳を再開するそうです。また来年度はプール掃除を春に位置付け,早い時期から水泳を開始するとのことでした。
教育課程全体を視野に入れて,みんなで知恵を出し合いましょう。
参考資料
- 『楽しい体育の授業』NO.417(2024) 明治図書
- 『楽しい体育の授業』NO.429(2025) 明治図書

大村 高弘(おおむら たかひろ)
静岡大学大学院教育学研究科特任教授
教員不足の問題がいろんな機会に取り上げられています。
でも教職は実に愉しくやり甲斐ある仕事ではないでしょうか。
その魅力を読者の皆さんといっしょに考えていきたいと思います。
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