変わりゆく関係性の中で ~モンテッソーリ保育園・保護者面談の日に思うこと
アメリカ・モンタナ州のボーズマンという町で、モンテッソーリ保育士として働くかたわら、大学院でも学びを深めています。秋の紅葉がまだ残る中、今日は雪のまじるみぞれが降る、そんな季節を迎えました。
今回は、ボーズマン・モンテッソーリ保育園での保護者面談の日の様子をつづります。ボーズマン・モンテッソーリ保育士 城所 麻紀子
面談前の大掃除に大張り切り
9月2日に新学期が始まってから、1ヶ月半が経ちました。少しクラスの日々も自然に流れるようになってきたなあ、と感じるこのごろ。そんな中、今日と明日の2日間は、保護者面談が行われます。
面談がある日の午前中は、教室をはじめ、入口の廊下や大人用のトイレを含め、保育園全体の大掃除をするのが恒例です。
私は今、時短勤務をしていて、朝7時半に開園準備のスタッフとして教室を整え、12時のお昼ご飯の準備を終えたら家に帰る、という毎日です。
フルタイムで働いていたころにはかなり力を入れていた日々の教室の掃除に、まったく参加できていないのが気になっていました。
なので、今日はチャンス!とばかりに、日ごろ目につくようになっていた教室のあちこちのラグに徹底的に掃除機をかけたり、木製の棚や机、いすを磨いたり。削る時間がなくて放置されていた大量の色鉛筆や鉛筆を削ったりと、息をつく間もなく掃除しまくってきました。
詳しくは把握していないのですが、最近、延長保育が始まったようで、日々の掃除の時間が以前よりとれなくなっているのではないかと思います。だからこそ、みんなで集中して環境を整える今日のこの時間は、とても貴重です。
見栄えの先にあるものと、私自身の変化
さて、午後になると、いよいよ面談が始まります。教室に保護者が訪れ、各30分ずつ行われます。今回、面談は新任の主任の先生のみが担当し、私は参加しません。
この面談という「場」を整えることに、自分の役割があるなあと感じています。
主任の先生からのリクエストは、「正確性よりも、とにかく少しでも見栄えよくして」というものでした。このあたり、日本人ぶりを発揮(?)して、棚の線に合わせて教具の位置を揃えたり、いすを床の木目に合わせて揃えたりと、ここぞとばかりに整えてきました。
この作業をしながら、ああ、これがモンテッソーリ教育でいう「準備された環境」なんだな、と改めて感じていました。きれいに整えられた教室は、子どもたちの活動を支えるだけではありません。それは、言葉で説明するよりも、「ここは子どもたちが大切にされている場所ですよ」と保護者の方に伝えてくれる気がします。そして、棚に並んだ教具が、自然と会話のきっかけになったりもします。
こうして教室という場を通して、子どもたちだけでなく保護者の方とも向き合っているうちに、私自身の視点にも変化が生まれていることに、ふと気がつきました。
2021年にボーズマン・モンテッソーリ保育園で働き始めたころ、私にとって保護者の方は、「お客さま」でした。顧客満足度を上げて、高い学費に見合う価値を提供し、継続していただく。保育園もビジネスである以上、その視点は存続のために不可欠ですし、そのこと自体が良い悪いという話ではありません。
ただ最近は、その視点に加えて、もう一つの大切な視点が加わってきたように感じています。このボーズマンというコミュニティーで、子どもの成長という同じ目標に向かって一緒に悩み、喜び、歩んでいる「仲間」としての視点です。
ビジネスとしての視点も持ちつつ、子どもを真ん中にして共に育ち合う仲間としての視点が加わってきた。これは、私の中の大きな大きな変化です。
舞台裏から送るエール
仲間である保護者と先生が向き合う面談の時間は、とても大事なものに思えます。
面談の直前まで、新任の主任先生はちょっと緊張した面持ちでパソコンに向かっていました。前の保育園ではアシスタントだった彼女にとって、主任として保護者面談をするのは初めてのこと。その姿を見ていると、なんだか自分の新人時代を思い出して、「頑張って!!」と声援を送っていました。
私にできるのは、主任の先生と保護者が子どもの話に集中できるような、気持ちのいい空間を準備すること。そして、面談を終えた保護者が、少しでもすっきりした顔で帰っていってくれたらうれしいです。
面談の舞台裏での仕事も、子どもたちの成長につながる大切な役割だよね、と、窓の外のみぞれを眺めながら、改めて感じた一日でした。

城所 麻紀子(きどころ まきこ)
ボーズマン・モンテッソーリ保育士、元サンディエゴ日本人向け補習校講師、モンタナ州立大学院家族消費者科学科 修士課程
2020年からアメリカのモンタナ州の人口5万人の町で、モンテッソーリ保育園の保育士をしています。
アメリカといっても、白人約90%、アジア人約2%(最近増えました!)という環境です。
あまり日本人の方に知られていない、アメリカの田舎での教育や生活の様子などを共有できたらいいなあと思っています。
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